左慈

左慈（さ じ）

左慈（さ じ、中国語: 左 慈; 拼音: Zuǒ Cí; ウェード式: Tso Tz'ŭ）は、後漢時代末期に実在したとされる方士です。字は元放（中国語: 元放; 拼音: Yuanfang）。揚州廬江郡（現在の安徽省一帯）の出身とされています。

正史である『後漢書』の方術列伝に記述が残されているほか、後世の書物である『捜神記』や『神仙伝』などにもその名が見られます。左慈は、仙術や妖術を操り、さまざまな奇跡を起こした人物として語り継がれています。

正史における左慈

『後漢書』の記述

『後漢書』方術列伝には、左慈が曹操の宴席に招かれた際のエピソードが記されています。曹操が「江東の松江の鱸が食べたい」と呟くと、左慈は水を張った銅盤に糸を垂らし、見事に鱸を釣り上げました。さらに、曹操が「蜀の生姜がないのが残念だ」とこぼすと、すぐに生姜を手に入れて現れ、曹操を驚かせました。

また、曹操が従者と外出する際、左慈は酒一升と干し肉一斤を携えて現れ、それを従者たちに分け与えました。すると、従者たちは皆満腹し、酩酊してしまいます。曹操が不思議に思い調べさせると、酒蔵から酒と干し肉が消えていたというのです。

曹操は左慈を捕えようとしますが、左慈は壁の中に消えたり、市場の人々が皆左慈と同じ姿になったりと、様々な術を使って逃れました。陽城山の山頂にいるという情報を得て捕えようとすると、羊の群れに紛れ込み、曹操が「殺すつもりはない」と伝えても、一頭の雄羊が人間の言葉で返事をするなど、奇妙な現象が起こり、捕えることはできませんでした。

同時代人の証言

『三国志』の注釈書である裴松之注に引用された、曹丕の『典論』や曹植の『弁道論』にも左慈に関する記述があります。

『典論』では、左慈は補導の術（房中術）に精通していたと記されています。補導とは、気の働きで身体を活性化させる方法だと説明されています。

『弁道論』には、曹操が方士たちを宮廷に招いた際、甘始、左慈、郤倹の3人が現れたと記されています。甘始は行気導引に巧みで、左慈は房中の術に明るく、郤倹は穀断ちを得意とし、皆300歳と自称していました。曹操は彼らが民衆を惑わすことを恐れて宮廷に集めたものの、彼らの言うことを信じてはいなかったとされています。

三国志演義における左慈

小説『三国志演義』では、左慈は峨眉山で30年の修行を経て、遁甲天書を手に入れたという設定になっています。この書物によって、左慈は様々な方術を使えるようになったとされています。

『三国志演義』における左慈は、温州の柑子を運ぶ人々の荷物を軽くしたり、曹操の前で様々な奇跡を起こしたりと、より奇抜なエピソードが描かれています。例えば、曹操が柑子の皮を剥くと中身が空だったのに、左慈が剥くと果汁が滴るほどだったり、酒を大量に飲んでも酔わなかったり、拷問を受けても苦しまなかったりといった描写があります。

また、左慈は曹操に劉備への天下譲渡を勧めたため、怒った曹操によって投獄されますが、脱獄して宴会の席に現れ、巴蜀の珍しい酒や肉を献上したり、池から鱸を釣り上げたり、絵に描かれた龍から肝を取り出したりと、人々を驚かせます。その後、逃亡を図りますが、曹操の追っ手によって斬られそうになると、多数の左慈が現れて混乱させたり、斬られた首が青い煙となって昇天したりと、奇想天外な展開が繰り広げられます。

最終的に、左慈は白鶴に乗って曹操の死を予言し、去っていきます。そして、左慈の首を刎ねられた死体が曹操に襲い掛かり、曹操は病に倒れてしまうという結末になっています。

このように、『三国志演義』における左慈は、正史よりもさらに神秘的で、奇術に長けた人物として描かれています。

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