杜預

杜預：西晋を支えた名臣の生涯

杜預（と よ、222年～284年）は、中国三国時代から西晋時代にかけて活躍した、文武両道に優れた政治家・武将・学者です。字は元凱、諡号は成。祖父は魏の重臣・杜畿、父は杜恕であり、名門の出身でした。妻は司馬懿の娘である高陸公主という、極めて恵まれた家系に属します。杜甫や杜牧といった唐代の著名な詩人は、彼の末裔にあたります。

杜預の遠祖は、『史記』で酷吏として名高い前[[漢]]の御史大夫・杜周であると伝えられています。その後、代々官職に就き、杜預の祖父である杜畿は魏の尚書僕射、父である杜恕は幽州刺史を務めました。しかし、杜恕は岳父である司馬懿と不仲であり、悲劇的な最期を遂げます。このため、杜預自身も若かりし頃は不遇な時期を過ごしました。

しかし、義兄にあたる司馬昭が司馬家の当主となると、その妹婿であった杜預は尚書郎に任命され、父祖の爵位である豊楽亭侯を継承します。その後、参相府軍事に転じ、263年の蜀漢滅亡にも従軍しました。鍾会のクーデターの際には、関与を免れたことで処罰を逃れるなど、政治的にも優れた手腕を発揮しました。また、鄧艾を高く評価しており、鄧艾を殺害した衛瓘や田続を強く批判した逸話も残っています。

杜預は、法律の整備にも大きく貢献しました。律令制定に携わった際、彼は簡潔で分かりやすい法令の重要性を訴え、判例を重視する立場を明確に示しました。また、官吏の昇進・降格システムについても改革を提言し、実力主義に基づいた人事制度を主張しました。しかし、この改革案は一部の官僚の反発を招き、杜預は一時的に職を免れることとなります。

その後、杜預は安西軍司として異民族の来襲に対処します。彼は、敵の勢力や自軍の装備状況を冷静に分析し、慎重な作戦を展開しました。しかし、上司である石鑒との意見対立により、再び職を解かれるなど、幾度となく政治的困難に見舞われます。それでも、杜預は度支尚書として経済政策にも手腕を発揮し、新兵器の開発、常平倉の設置、穀物買取制度の導入など、安定した経済政策を推進しました。彼の政策は高く評価され、「杜武庫」と呼ばれるほど、多くの功績を残しました。

杜預の最も有名な功績は、呉の滅亡に貢献したことです。羊祜の後任として荊州に赴任した杜預は、呉の討伐を上奏し、武帝の許可を得ます。太康元年（280年）、彼は総司令官として大軍を率い、見事呉を滅ぼしました。この呉征討においては、優れた戦略と戦術で敵を圧倒し、多くの勝利を収めました。この戦功により、杜預は当陽県侯に昇格し、莫大な食邑を与えられました。しかし、彼はそれを辞退しようとし、謙虚な姿勢を示しました。

呉を滅ぼした杜預は、凱旋後も江夏・漢口の経営に尽力し、民衆から「杜父」と呼ばれるほど慕われました。江南では、「後世、杜翁に由って叛くこと無かれ」とまで謳われるほど、その名声は高かったのです。

杜預は、後世への名声にも関心を持ち、「高岸を谷と為し、深谷を陵と為さん」という言葉を遺しました。彼は自分の功績を記した碑を二基造り、一基は万山の下に沈め、もう一基は峴山の上に建てました。一方で、権力者の恨みを買わないよう、洛中の貴族要人を頻繁に饗応したという逸話も残っています。

司隷校尉に任じられた杜預は、63歳で亡くなりました。武帝から征南大将軍・開府儀同三司を追贈され、「成」と諡されました。『晋書』杜預伝では、「交わりを結び物を接するに、恭にして礼有り。問うに隠す所無く、人を晦するに倦まず。事において敏にして、言において慎たり」と、その人となりは簡潔に評されています。

杜預は『春秋左氏伝』の研究者としても知られています。『春秋経伝集解』を編纂し、独自の学説を展開しました。また、君主殺害に関する独自の解釈を提示したことは、後世の歴史解釈に影響を与えました。彼の学問への情熱は、彼自身の言葉「臣には左伝癖有り」という逸話からも伺えます。

杜預の生涯は、政治、軍事、学問の全てにおいて卓越した才能を発揮した、稀有な人物像を示しています。名門の出自、数々の功績、そして彼の残した言葉や学説は、現代においても多くの研究者や歴史愛好家の関心を集め続けています。彼の功績は、後世の人々に深く刻み込まれ、杜甫や杜牧といった著名な人物の祖先としての名声だけでなく、西晋建国に大きく貢献した政治家・武将・学者としての名声も、後世に長く伝えられることでしょう。

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