片頭痛

片頭痛（偏頭痛）について

片頭痛（へんずつう、migraine）は、一次性頭痛に分類される、発作性の頭痛です。一般的に「偏頭痛」とも表記されます。頭の片側に現れることが多いですが、両側や後頭部にも痛みが現れることがあります。脈打つような激しい痛み、吐き気や嘔吐、光や音への過敏などの症状を伴うのが特徴です。神経学的症候群であり、症状は個人によって大きく異なります。

概要

片頭痛は、男性よりも女性に多く見られます。日本での調査では、女性の有病率は男性の約3.6倍であることが示されています。典型的な片頭痛の発作は、4時間から72時間持続し、片側性の拍動性の頭痛、吐き気や嘔吐、光過敏、音過敏などが症状として現れます。約3分の1の患者は、頭痛の前兆として、視覚、嗅覚、感覚の異常を経験することがあります。

治療法としては、急性期の痛みを緩和する鎮痛剤（NSAIDs、トリプタンなど）、吐き気に対する制吐剤の服用、発作を抑制するための予防療法があります。

片頭痛には、脳幹由来のものや遺伝的なもの、ホルモンバランスの変動と関連するものなど、様々なタイプがあります。双子の研究では、片頭痛を発症する傾向には遺伝的影響が60〜65％あることが示唆されています。思春期前には男女で発症率に差はありませんが、成人患者では約75％が女性です。妊娠中は発作が改善することが多いですが、前兆を伴う片頭痛では改善しにくいとされています。

分類

国際頭痛学会（IHS）の「国際頭痛分類 第2版（ICHD-2）」では、片頭痛は以下の6種類に分類されます。

前兆のない片頭痛（普通型片頭痛）: 前兆を伴わない片頭痛。
前兆を伴う片頭痛: 前兆（視覚、感覚、運動の異常）を伴う片頭痛。運動麻痺を伴う家族性片麻痺性片頭痛や孤発性片麻痺性片頭痛、脳幹に関連する症状（言語障害、めまい、耳鳴り）を伴う脳底型片頭痛などがあります。
小児周期性症候群: 片頭痛に移行しやすいとされる、周期性嘔吐症、腹部片頭痛、小児良性発作性めまいなどがあります。
網膜片頭痛: 片眼の視覚障害や一時的な失明を伴う片頭痛。
片頭痛の合併症: 片頭痛や前兆が長引いたり、頻繁に起こったり、発作や脳障害を伴う場合。
片頭痛の疑い: 片頭痛の特徴はあるものの、確証がない場合。

診断

片頭痛は過小診断や誤診されることがあります。国際頭痛学会によると、前兆のない片頭痛は「5, 4, 3, 2, 1基準」で診断されます。

5回以上の発作
4時間から3日間の発症持続
片側性、拍動性、中程度から激しい痛み、日常的な身体動作による症状悪化のうち2つ以上
吐き気や嘔吐、光過敏、音過敏のうち1つ以上

前兆を伴う片頭痛の場合は、上記のうち2つ以上当てはまれば診断されます。

POUNDing（拍動、4-72時間の持続、片側性、吐き気、障害）という語も診断に役立ちます。

片頭痛は、群発頭痛など他の頭痛との区別が必要です。群発頭痛は、激しい痛みを伴うものの、発症は短時間で前兆がないという特徴があります。

徴候と症状

片頭痛の症状は患者によって異なり、発症の前、中、後に様々な症状を経験します。症状は、以下の4つの段階に分けられることがありますが、必ずしも全ての段階を経験するわけではありません。また、発作ごとに症状が異なることもあります。

予兆段階: 頭痛の数時間から数日前に起こる、気分の変化、疲労感、あくび、特定の食物への欲求、筋肉のこわばり、便秘や下痢などの症状。
前兆段階: 頭痛の直前に起こる、視覚、感覚、運動の異常。最も多いのは視覚的な前兆（閃輝暗点など）で、チクチクする感覚、幻聴、幻臭、めまい、言語障害などが起こることもあります。
痛みの段階: 頭の片側にズキズキとした痛みが生じ、中程度から激しい痛みで、運動によって悪化することがあります。吐き気、嘔吐、光過敏、音過敏などの症状を伴うことも多く、暗く静かな場所を求めるようになります。
後発症状段階: 疲労感、二日酔いのような症状、認知障害、胃腸症状、気分の変化、虚弱などの症状が現れます。リフレッシュした気分になる人もいれば、不快感を覚える人もいます。

特徴

典型例

発作性の頭痛を繰り返す。
片側性のことが多いが、両側性のこともある。
痛みのピーク時に拍動感が目立つ。
痛みの程度は強く、寝込むこともある。
発作頻度は月に1〜4回程度。
頭痛の前駆症状（視覚異常など）を伴うことが多い。
悪心、嘔吐、光過敏、音過敏などの随伴症状を伴うことが多い。
誘発要因として血管拡張をきたす条件下などが知られている。
30歳までに発症することが多い。

非典型例

片麻痺性片頭痛: 運動麻痺を伴う前兆が特徴。
脳底型片頭痛: めまいを主な前兆とする片頭痛。

原因

片頭痛の根本的な原因は不明ですが、遺伝要因と環境要因が複合的に関わっていると考えられています。

遺伝要因

双子の研究では、遺伝的要因が34-51%関与していることが示唆されています。いくつかの遺伝子変異が片頭痛のリスクを高めることが分かっています。家族性片麻痺性片頭痛は単一遺伝子疾患として知られています。

誘発因子

片頭痛は、ストレス、食物、アルコール、天候などの誘発因子によって引き起こされる可能性があります。誘発因子と発作との関係の強さは不明ですが、多くの患者が特定の誘発因子を持つと報告しています。

食物: チーズ、チョコレート、柑橘類、赤ワイン、ハム、サラミなど、血管を拡張・収縮させる物質を含む食品が誘発因子となる可能性があります。
グルテン: セリアック病やグルテン過敏症の患者は、グルテンアレルギーの症状として片頭痛を発症することがあります。
アスパルテーム: 人工甘味料のアスパルテームが片頭痛を引き起こす可能性が指摘されています。
グルタミン酸ナトリウム（MSG）: MSGが誘発因子として報告されています。
チラミン: チラミンを含む食品も片頭痛の誘発因子となる可能性があります。
天候: 気温や湿度、気圧の変化が片頭痛を引き起こす可能性があります。特に、高温多湿や低温多湿の状態が影響しやすいとされています。
その他: 香水、パソコンやスマートフォンの長時間使用、風呂での洗髪などが誘発因子となることがあります。

生理学的側面

ストレス、空腹、疲労、心理的ストレス、ホルモンバランスの変動などが誘発因子として指摘されています。女性は月経前後に発作が起こりやすく、妊娠中は発作が改善することもあります。

病理生理学

片頭痛のメカニズムは完全に解明されていませんが、以下の3つの説が提唱されています。

血管説: 脳血管の収縮と拡張が片頭痛を引き起こすとする説。セロトニンが関与すると考えられています。
神経説: 大脳皮質の過剰興奮に続く電気活動抑制状態（皮質拡延性抑制、CSD）が片頭痛を引き起こすとする説。
三叉神経血管説: 三叉神経終末からのCGRPやサブスタンスPなどの放出による神経原性炎症が片頭痛を引き起こすとする説。

治療

急性期治療

鎮痛剤: アセトアミノフェンやNSAIDsが用いられます。カフェイン入りの鎮痛薬も効果がある場合があります。
セロトニン受容体作動薬: トリプタンやジタンが用いられます。これらは中程度以上の片頭痛に効果的です。
カルシトニン[[遺伝子関連ペプチド]]（CGRP）関連薬: CGRP受容体拮抗薬が用いられます。
エルゴタミン: 片頭痛の治療や予防に用いられますが、使用は限定的です。
制吐剤: 吐き気を解消したり、嘔吐を防いだりするために用いられます。
ステロイド: 緊急時や重度の場合に使用されることがあります。
その他: マグネシウム静注などが用いられることがあります。

予防療法

片頭痛の発作頻度や程度を減少させるための治療です。

カルシウム拮抗薬: ロメリジンなどが用いられます。
β遮断薬: プロプラノロールなどが用いられます。
抗てんかん薬: バルプロ酸ナトリウムやトピラマートなどが用いられます。
抗うつ薬: アミトリプチリンなどが用いられます。
CGRP関連薬: モノクローナル抗体が用いられます。
ボツリヌストキシン: 慢性片頭痛の予防に有効とされています。
その他: ビタミンB2などのサプリメントや漢方薬、薬草療法などが用いられることがあります。

関連疾患

心血管系リスク: 脳卒中や心臓発作のリスクが増加する可能性があります。
卵円孔開存: 前兆のある片頭痛患者に多いとされています。
精神疾患: うつ病、双極性障害、パニック障害などのリスクが増加する可能性があります。
睡眠関連疾患: 睡眠障害やむずむず脚症候群との関連が指摘されています。
てんかん: 片頭痛患者にてんかんを発症するリスクが高まります。
メニエール病: メニエール病患者に片頭痛が併発することがあります。
免疫疾患: 多発性硬化症との関連が指摘されています。

疫学

片頭痛は一般的な疾患であり、12〜28%の人が生涯に一度は経験するとされています。女性の有病率は男性よりも高く、年齢によっても変化します。

歴史

古代から片頭痛は知られており、穿孔術、瀉血、薬草などが治療法として用いられていました。

社会と文化

片頭痛は、医療費の増大や生産性の損失など、経済的な影響も大きいとされています。また、社会的な理解が進んでいないため、患者が苦しむ現状もあります。

経済的影響

片頭痛による経済的損失は、医療費だけでなく、生産性の低下によるものが大きいとされています。

脚注

注釈

出典

参考文献

外部リンク

British Association for the Study of Headache (BASH)
日本頭痛学会
国際頭痛分類(第2版)
Patient information: Migraine headaches in adults (Beyond the Basics) - UpToDate

もう一度検索