鄭玄

後漢を代表する儒学者、鄭玄：生涯、学問、そして後世への影響

鄭玄（じょうげん/ていげん、127年～200年）は、後漢末期を代表する儒学者です。字は康成。現在の山東省高密市出身。祖父は鄭明、父は鄭謹、子は鄭益、孫は鄭小同と伝えられています。呉音では「じょう」とも読みます。

鄭玄は、今文経学と古文経学の両方を深く研究し、『周礼』『儀礼』『礼記』を始めとする多くの経書に注釈を著しました。特に『周礼』『儀礼』『礼記』への注釈は「三礼注」と呼ばれ、現在もなお高い評価を受けています。彼の注釈は後世の学問に多大な影響を与え、中国の儒学史において重要な位置を占めています。

生涯：動乱の時代を生き抜いた学者

鄭玄の生涯は、『後漢書』鄭玄列伝や『鄭玄別伝』（佚書）などの史料を元に、多くの研究者によって詳細に検討されてきました。

裕福ではなかった生家は、鄭玄が地方の小役人を務めていた時期もありました。学問への熱意は人並みならず、13歳で五経を暗誦し、天文や占術も学んだと言われています。20歳代には太学で学び、第五元や張恭祖ら著名な学者から『京氏易』『公羊春秋』『三統暦』『九章算術』『周官』『礼記』『左氏春秋』『韓詩』『古文尚書』などを学びました。その後、当時第一級の儒学者であった馬融に師事。3年間、馬融本人には会うことができず、その弟子から指導を受けましたが、最終的には馬融の認めるところとなり、高い評価を得ました。

40歳を過ぎ、郷里に戻った鄭玄は私塾を開き、多くの弟子を育成しました。生活は決して豊かではなく、東萊で農耕を行うこともありましたが、数百から数千人の弟子と共に共同生活を送りながら学問を追求したと伝わります。

党錮の禁（171年～184年）の際には、一時的に活動を停止しましたが、この時期に『周礼』『儀礼』『礼記』の注釈を執筆しました。この時代には、何休との学問上の論争もありましたが、その論争を通じて互いに学識を認め合ったと伝えられています。

党錮の禁解除後も、鄭玄は多くの有力者から招へいを受けながらも、自由な学問研究を優先し、幾度も転々としながら生活しました。何進、袁隗らの招きを断り、黄巾の乱を避けて高密から東萊へ、そして孔融の支援を受けて再び高密に戻るなど、激動の時代を生き抜きました。

建安元年（196年）に高密へ帰還。その途中、黄巾の残党数万人と遭遇するも、鄭玄の名声と人徳によって、襲撃されることなく無事帰郷を果たしました。その後、病に倒れ、建安5年（200年）、74歳で亡くなりました。

弟子と学問

鄭玄の門下からは、郗慮、王基、崔琰ら多くの著名な弟子が輩出しました。また、国淵や任嘏の将来を予言した逸話も有名です。劉備も鄭玄の教えを受けた一人であり、後に諸葛亮に自身の経験を語る場面も見られます。

鄭玄の学問は、今文経学と古文経学を融合し、独自の体系を築いた点が特徴です。複数の経書を互いに参照し、経典の解釈に矛盾がないことを証明しようとする緻密な方法論を持っていました。特に『周礼』を礼学の中心に据えた解釈は、後世に大きな影響を与えました。

著作と影響

鄭玄は『毛詩』『周礼』『儀礼』『礼記』を始め、多くの経書に注釈を施しました。その中には現在も残るものと、散逸してしまったものがあります。しかし、彼の注釈は後世の儒学者に深く研究され、特に『毛詩』の注釈と「三礼注」は、唐代、宋代、そして清代の考証学においても重要な資料として活用され続けました。

鄭玄の学説は、後漢のみならず、魏以降の時代にも影響を与え続けました。彼の注釈が後世の主流となった経書もあれば、そうでない経書もありましたが、その影響は中国の儒学史全体に及ぶものです。

三国志演義などへの登場

小説『三国志演義』などにも登場し、その名声は現代まで伝えられています。日本の宮城谷昌光氏による小説『三国志外伝　鄭玄』など、様々な作品にも題材として取り上げられています。

鄭玄は、後漢末期の動乱の中で、学問を追求し、多くの弟子を育成し、後世に多大な影響を与えた、偉大な儒学者でした。彼の生涯と業績は、中国の歴史と文化を理解する上で欠かせないものです。

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