アントニオ・メネセス
アントニオ・メネセス（Antonio Meneses, 1957-2024）は、ブラジル出身の傑出したチェロ奏者として広く知られている。1957年8月23日、ブラジルの都市レシフェに生を受けた。彼の音楽への最初のきっかけは、リオデジャネイロ歌劇場の首席ホルン奏者を務めていた父親の存在だった。父の勧めで、メネセスは10歳でチェロの手ほどきを受け始める。その才能はすぐに開花し、わずか14歳にして、地元リオデジャネイロの交響楽団のメンバーに加わった。
若きメネセスにとって大きな転機となったのは、16歳の時の出会いである。南米ツアーでブラジルを訪れていたチェロの巨匠、アントニオ・ヤニグロが彼の演奏を認め、その指導を申し出たのだ。この機会を逃さず、メネセスはヤニグロのもとで学ぶためドイツへと渡る。デュッセルドルフのロベルト・シューマン大学、そしてシュトゥットガルト音楽演劇大学で、彼は長年にわたりヤニグロから音楽とチェロ演奏の奥義を学んだ。このドイツでの修業期間が、国際的な音楽家としての揺るぎない基礎を築いたのである。
世界の舞台でその名声が確立されたのは、権威ある国際コンクールでの輝かしい成果による。1977年にはミュンヘン国際音楽コンクールで優勝を果たし、さらに1982年には、クラシック音楽界で最も難関とされるコンクールの一つ、チャイコフスキー国際コンクールでも優勝を飾った。これらのコンクールでの相次ぐ成功は、彼を瞬く間に世界の主要コンサートホールの舞台へと導いた。
メネセスは、その後数十年にわたり、世界のトップオーケストラと共演を重ねた。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団、BBC交響楽団、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ニューヨーク・フィルハーモニック、ワシントン・ナショナル交響楽団など、その共演リストは世界各地に及ぶ。日本でもNHK交響楽団との共演を行っている。
彼が音楽を共に作り上げた指揮者たちもまた、音楽史に名を刻む巨匠ばかりである。ヘルベルト・フォン・カラヤン、リッカルド・ムーティ、マリス・ヤンソンス、ネーメ・ヤルヴィ、クラウディオ・アバド、アンドレ・プレヴィン、リッカルド・シャイー、ユーリ・テミルカーノフ、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ、クルト・マズアといった面々との共演は、彼の芸術性をさらに高めた。
また、世界を代表する音楽祭にも常連として招かれた。パブロ・カザルスの精神を受け継ぐカザルス音楽祭、伝統あるザルツブルク音楽祭、チェコを代表するプラハの春音楽祭、アメリカ合衆国でのモーストリー・モーツァルト、そしてスイス屈指のルツェルン音楽祭など、これらの舞台で彼の演奏は多くの聴衆を魅了し、批評家からも高い評価を得た。
室内楽の分野でも、メネセスは重要な役割を果たした。特に1998年からは、世界で最も著名なピアノ三重奏団の一つであるボザール・トリオに、チェリストとして加わった。この室内楽での活動を通じて、彼はピアニストのメナヘム・プレスラーやヴァイオリニストのチョーリャン・リンといった名手たちと共に、アンサンブルの妙技と深い音楽的対話を追求した。
演奏家として多忙な日々を送る傍ら、メネセスは後進の指導にも情熱を傾けた。イタリアのシエーナにある名門キジアーナ音楽院での夏期講習や、スイスのベルン大学で教鞭を執り、自身の培ってきた技術と音楽観を次世代の音楽家たちに惜しみなく伝えた。
彼が演奏に用いた楽器も特筆される。主に愛用したのは、1730年頃にイタリアのナポリでアレッサンドロ・ガリアーノ（Alessandro Gagliano）によって製作されたチェロである。この名器から紡ぎ出される、温かく深みのある音色は、メネセスの音楽性の大きな一部を成していた。また、一時期は、チェロの歴史において最も偉大な奏者の一人とされるパブロ・カザルスがかつて所有していた、マッテオ・ゴフリラー製作のチェロを演奏した経験もある。
音楽家としての厳格な活動の一方で、メネセスはプライベートな一面も持っていたことが知られている。「もも」という名前の柴犬を飼っており、愛犬との時間が彼の心を和ませていたのかもしれない。
晩年、アントニオ・メネセスは進行性の脳腫瘍である膠芽腫との闘いを余儀なくされた。スイスで化学療法による治療を受けるなど病と向き合ったが、最後まで音楽への情熱が失われることはなかったという。2024年8月3日、病のためにスイスのバーゼルでその波乱に満ちた生涯を閉じた。享年66歳。ブラジルから世界へと飛び出し、国際的な音楽家として偉大な足跡を残した彼の温かい音色と洗練された音楽性は、多くの録音や映像を通じて、これからも世界中の音楽愛好家たちの心に生き続けるであろう。
若きメネセスにとって大きな転機となったのは、16歳の時の出会いである。南米ツアーでブラジルを訪れていたチェロの巨匠、アントニオ・ヤニグロが彼の演奏を認め、その指導を申し出たのだ。この機会を逃さず、メネセスはヤニグロのもとで学ぶためドイツへと渡る。デュッセルドルフのロベルト・シューマン大学、そしてシュトゥットガルト音楽演劇大学で、彼は長年にわたりヤニグロから音楽とチェロ演奏の奥義を学んだ。このドイツでの修業期間が、国際的な音楽家としての揺るぎない基礎を築いたのである。
世界の舞台でその名声が確立されたのは、権威ある国際コンクールでの輝かしい成果による。1977年にはミュンヘン国際音楽コンクールで優勝を果たし、さらに1982年には、クラシック音楽界で最も難関とされるコンクールの一つ、チャイコフスキー国際コンクールでも優勝を飾った。これらのコンクールでの相次ぐ成功は、彼を瞬く間に世界の主要コンサートホールの舞台へと導いた。
メネセスは、その後数十年にわたり、世界のトップオーケストラと共演を重ねた。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団、BBC交響楽団、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ニューヨーク・フィルハーモニック、ワシントン・ナショナル交響楽団など、その共演リストは世界各地に及ぶ。日本でもNHK交響楽団との共演を行っている。
彼が音楽を共に作り上げた指揮者たちもまた、音楽史に名を刻む巨匠ばかりである。ヘルベルト・フォン・カラヤン、リッカルド・ムーティ、マリス・ヤンソンス、ネーメ・ヤルヴィ、クラウディオ・アバド、アンドレ・プレヴィン、リッカルド・シャイー、ユーリ・テミルカーノフ、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ、クルト・マズアといった面々との共演は、彼の芸術性をさらに高めた。
また、世界を代表する音楽祭にも常連として招かれた。パブロ・カザルスの精神を受け継ぐカザルス音楽祭、伝統あるザルツブルク音楽祭、チェコを代表するプラハの春音楽祭、アメリカ合衆国でのモーストリー・モーツァルト、そしてスイス屈指のルツェルン音楽祭など、これらの舞台で彼の演奏は多くの聴衆を魅了し、批評家からも高い評価を得た。
室内楽の分野でも、メネセスは重要な役割を果たした。特に1998年からは、世界で最も著名なピアノ三重奏団の一つであるボザール・トリオに、チェリストとして加わった。この室内楽での活動を通じて、彼はピアニストのメナヘム・プレスラーやヴァイオリニストのチョーリャン・リンといった名手たちと共に、アンサンブルの妙技と深い音楽的対話を追求した。
演奏家として多忙な日々を送る傍ら、メネセスは後進の指導にも情熱を傾けた。イタリアのシエーナにある名門キジアーナ音楽院での夏期講習や、スイスのベルン大学で教鞭を執り、自身の培ってきた技術と音楽観を次世代の音楽家たちに惜しみなく伝えた。
彼が演奏に用いた楽器も特筆される。主に愛用したのは、1730年頃にイタリアのナポリでアレッサンドロ・ガリアーノ（Alessandro Gagliano）によって製作されたチェロである。この名器から紡ぎ出される、温かく深みのある音色は、メネセスの音楽性の大きな一部を成していた。また、一時期は、チェロの歴史において最も偉大な奏者の一人とされるパブロ・カザルスがかつて所有していた、マッテオ・ゴフリラー製作のチェロを演奏した経験もある。
音楽家としての厳格な活動の一方で、メネセスはプライベートな一面も持っていたことが知られている。「もも」という名前の柴犬を飼っており、愛犬との時間が彼の心を和ませていたのかもしれない。
晩年、アントニオ・メネセスは進行性の脳腫瘍である膠芽腫との闘いを余儀なくされた。スイスで化学療法による治療を受けるなど病と向き合ったが、最後まで音楽への情熱が失われることはなかったという。2024年8月3日、病のためにスイスのバーゼルでその波乱に満ちた生涯を閉じた。享年66歳。ブラジルから世界へと飛び出し、国際的な音楽家として偉大な足跡を残した彼の温かい音色と洗練された音楽性は、多くの録音や映像を通じて、これからも世界中の音楽愛好家たちの心に生き続けるであろう。
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