オルコメノス (アルカディア)

アルカディアのオルコメノス

古代ギリシアにおいて、アルカディア地方に存在した都市の一つがオルコメノスです。特に紀元前5世紀の歴史家トゥキディデスは、ボイオティア地方にある同名の都市と区別するため、この地を「アルカディアのオルコメノス」と呼称しました。先史時代から人々が居住していた痕跡があり、マンティネイアの北方に位置していました。やがてテゲア、そして近隣のマンティネイアと共に、アルカディア西部における有力な都市国家へと成長を遂げます。紀元前7世紀から6世紀にかけては最盛期を迎え、自らの貨幣を鋳造するなど、経済的にも豊かな都市として栄えました。今日、往時のアクロポリスの跡は、現代のオルコメノスの村を見下ろす山上に残されています。

地理的特徴

オルコメノスは、当初はアクロポリスの丘の麓、周囲を山々に囲まれた平野に築かれました。その後、町は西側の山上へと拡張され、現在主要な遺跡が発見されているのはこの地域です。これに対し、現代の村がある低い平野は、南側をアンキシアと呼ばれる低い丘陵に囲まれ、これが隣接するマンティネイアの領域との境界を成しています。北には標高の高いオリグリトス山地が連なり、ここを通ってペネオスやステュムパロスへと至る道がありました。東西には南北に伸びる山脈が並行しています。

特徴的なのは、周囲を山に囲まれた平野が、中央から張り出した二つの丘によって東西に分断されている点です。これらの丘は非常に接近しており、その間には狭い渓谷のような地形が形成されています。西側の丘の頂上には、高さ900メートル近い場所にアクロポリスが築かれていました。これはメッセニア地方の強固な要塞イトメに類似しており、その地形的な利点を活かして、分割された東西の平野全体を支配することができました。

平野の南部を流れる水は、この狭い渓谷を通って北部の平野へと流れ込みますが、地表に自然な排水路がないため、かつては大きな湖が形成されていました。この東西の平野は、カルスト地形特有の閉じた盆地となっており、現在でも雨水を排出するための大規模な溝や、ポナーと呼ばれる自然の地下排水口、さらには人工的なトンネルが設けられています。しかし、これらの排水能力は十分とは言えず、2世紀頃に地理学者パウサニアスが言及した湖は現在存在しませんが、冬季に降水量が多い年には、農地の一部が水浸しになったり、一時的に湖が現れることがあります。

歴史の歩み

オルコメノスが文献に初めて登場するのは、ホメロスの叙事詩『イリアス』に記されたトロイア戦争の軍船表においてです。ここではアルカディアから参加した都市の一つとして、「家畜が豊かな」地と詠われています。後の詩人オウィディウスは「肥沃な」、ロドスのアポロニオスは「富んだ」と、その地の豊かさを称賛しています。

建国に関する伝説としては、パウサニアスがアルカディア王リュカオンの息子である同名の英雄オルコメノスによって都市が創建されたと伝えています。また、アルカディア地方全体の王であったアルカスが死去した後、その支配権が3人の息子に分割され、そのうちのエラトスがオルコメノスとその周辺を領土として得たという伝承もあります。一時期、オルコメノスの王がアルカディア地方のほぼ全域に及ぶ広範な支配を行っていたとも語られています。

パウサニアスはさらに、オルコメノスの王統に関するリストも伝えています。このリストに登場する王の一人、アリストクラテスは、アルテミス・ヒュムニアという神の幼い巫女に手を出そうとし、抵抗された末に乱暴を働きました。これを知ったアルカディアの人々は激怒し、王を石打ちの刑に処したとされています。王位は息子ヒケタスを経て、その子アリストクラテス2世に継承されました。アリストクラテス2世は、第二次メッセニア戦争の際にスパルタから賄賂を受け取り、メッセニアを窮地に陥れたために、祖父と同様の方法で処刑されました。彼はアルカディア全体を支配した最後のオルコメノス王であった可能性が高いですが、いくつかの記録では彼の息子アリストデモスが王として描かれていることから、彼の家系が完全に王権を失ったわけではなかったようです。また、地理学者のテオピロスは、オルコメノスの王ペイシストラトスが貴族によって殺害されたと述べており、これは他の多くのギリシア都市で王政が廃止された後も、オルコメノスでは比較的長く王権が存続していた可能性を示唆しています。

ペルシア戦争の際には、オルコメノスは都市の防衛に貢献しました。伝説的なテルモピュライの戦いには120人の兵を、そして紀元前479年のプラタイアの戦いには600人の兵を派遣しています。ペロポネソス戦争においては、スパルタがアルカディア地方から取った人質をオルコメノスに預けました。しかし、当時のオルコメノスの城壁は修復されておらず荒廃した状態だったため、紀元前418年にアテナイとペロポネソス同盟の軍勢が都市に迫った際、オルコメノスの住民は抵抗を諦め、人質を引き渡しました。

紀元前4世紀半ばにアルカディア地方にメガロポリスという新しい都市が建設された際、オルコメノスはテイソア、メテュドリオン、そしてテウティスといった周辺の都市を支配下に置いていました。これらの都市の住民はメガロポリスへ強制的に移住させられ、その領土は新しい都市に組み込まれました。オルコメノスは、長年にわたるマンティネイアとの敵対関係から、アルカディア同盟への参加を拒否し、結果としてマンティネイアとの戦争を経験しました。この出来事以降、オルコメノスの政治的な重要性は低下していきましたが、その戦略的な地理ゆえに、その領土は後世に至るまで度々交戦する勢力の標的となりました。

ヘレニズム時代に入ると、支配者は目まぐるしく変わります。マケドニア王カッサンドロスとポリュペルコンの争いの中では、紀元前313年にカッサンドロスの軍に制圧されました。その後、アイトリア人の勢力下に入り、紀元前234年頃にはネアルコスという指導者のもとでアカイア同盟への加入に同意しました。紀元前229年にはアイトリア人の黙認を得てスパルタ王クレオメネス3世に引き渡されましたが、紀元前223年にはマケドニア王アンティゴノス3世ドソンによって奪回され、マケドニアの守備隊が置かれました。最終的には、ローマの圧力の下でマケドニア王フィリップ5世によってアカイア同盟に返還されました。

地理学者ストラボンは、アルカディアの諸都市の中でオルコメノスの名を挙げていますが、それらの都市は消滅したか、ほとんど痕跡を残さないほど縮小したと述べています。しかし、2世紀頃のパウサニアスの記述から判断すると、これは幾分か誇張されているようです。パウサニアスは、他の遺跡と共に泉やポセイドン、アプロディテの聖域が見応えがあると記しており、また都市の近くに立つ巨大な杉の木の中に、アルテミス・ケドレアティス（「杉のアルテミス」の意）と呼ばれる木彫りのアルテミス神像があったと述べています。

考古学的発見

アルカディアのオルコメノスにおける考古学的発掘は、20世紀初頭にアテネ・フランス学院のメンデルらの指揮の下で行われ、その後もテオドール・スピロプーロスによって継続されました。これらの調査によって、数多くの古代遺跡の存在が明らかにされています。現在、訪れる人々は古代の劇場、アゴラ（集会場）、市の城壁、そしてアルテミス・メソポリティス神殿を含む様々な構造物の跡を見ることができます。他にも、評議場の跡（ブレウテリオン）、先史時代の墳墓、アルカイック期（紀元前8世紀～6世紀）に造られた橋なども発掘によって確認されています。

中でも特筆すべきは、約4,000人を収容できたと考えられている古代劇場です。紀元前4世紀から3世紀にかけて建設されたこの劇場は、アクロポリスがある山の東斜面、標高800メートルという高い位置に造られています。そのため、古代において文化的な催しが行われる際には、観客は壮観な景観を同時に楽しむことができたでしょう。

町の南側から接近すると、道の左手にはパウサニアスも記述した石造りの墳丘墓が見えます。アクロポリスの丘の麓には貴族の墳墓があり、さらにその先には、パウサニアスがこの地で最も注目すべきものの一つとして挙げているテネエイアイと呼ばれる泉があります。この泉から少し進むと、ヘレニズム時代の集落跡であるアミロスの遺跡が見つかっています。

南部の平野には、周囲の山々から渓谷を通って北側の平野へと水を送るための古代の運河の跡があります。また、カタリマタと呼ばれる場所には、先史時代の集落跡があり、そこからは当時の排水施設が発見されています。近くのパレイオピルゴスにある「ミティカス」の丘からは、ミケーネ時代の定住地と古代の聖域の跡が見つかっています。さらに、オルコメノスの山の北側の斜面にあるアンキシアの丘陵地帯には、アルテミス・ヒュムニアの神殿がありました。これはアルカディア地方全体の人々によって古くから崇拝されていた聖地であり、その位置は現在のレヴィディ村の東にある聖母マリア教会の建つ場所である可能性が考えられています。

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