キハダ (植物)

キハダ（黄蘗）

キハダ（学名: Phellodendron amurense）は、ミカン科キハダ属に分類される落葉高木です。山地に自生し、その特徴は樹皮の内側が鮮やかな黄色をしていることです。この内皮が和名の由来となり、また、生薬「黄檗（オウバク）」として古くから利用されてきました。

名称

和名の「キハダ」は、樹皮の内側が黄色いことに由来します。「黄色い肌」を意味し、その特徴をよく表しています。別名としては、シコロ、シコロベ、オウバク（黄檗）、キワダなどがあり、これはキハダの転訛や内皮の苦味に由来します。また、ヒロハノキハダ、エゾキハダ、アムールキハダ、ミヤマキハダもキハダの別名とされています。

中国植物名（漢名）では「黃蘗／黄柏（おうばく）」と呼ばれています。

分布・生育地

キハダは、アジア東北部、特に台湾、朝鮮半島、中国（河北省から雲南省にかけて）、ヒマラヤ山地に自生しています。日本では、北海道（渡島半島、後志、胆振、日高、石狩地方）、本州、四国、九州、琉球に分布しており、山地や沢沿いを好んで生育します。

形態・生態

キハダは落葉性の雌雄異株の高木で、樹高は10〜25メートル、幹の直径は30センチ[[メートル]]程度に成長します。樹皮はコルク質で、成木の樹皮は淡い灰褐色から暗褐色で、縦に深い溝が入ります。内皮は鮮やかな黄色で厚みがあります。若い木の樹皮は赤褐色で滑らかで、サクラの樹皮に似ています。

葉は対生で、奇数羽状複葉を形成し、長さは20〜45センチ[[メートル]]になります。小葉は5〜13枚で、長さ5〜10センチ[[メートル]]の長楕円形をしており、裏側は白っぽく、縁は波状になっています。春に芽を出し、その後、花序も展開します。

花期は5〜7月で、雌雄異株です。枝先に円錐花序を出し、黄緑色の小さな花を多数咲かせます。果実は核果で、直径10ミリ[[メートル]]ほどの球形で、緑色から黒色に熟します。核は柿の種のような形をしています。冬になっても黒く熟した果実が雌株に残ることがあります。

冬芽は半球形の鱗芽で褐色を帯び、落葉するまで葉柄基部に包まれています。芽鱗は2枚で、毛が密生しています。枝先には仮頂芽が2つ付き、側芽は枝に対生します。冬芽を囲む大きな馬蹄形やU字形の葉痕が目立ち、維管束痕が3つあります。

キハダは、カラスアゲハやミヤマカラスアゲハの幼虫の食草としても知られています。

利用

キハダは、樹皮からコルク質を取り除いて乾燥させたものが、生薬の黄檗（オウバク）として知られています。薬用だけでなく、染料の材料や蜜源植物としても利用されています。

生薬

黄檗（オウバク）は、キハダの樹皮からコルク質と外皮を取り除き、乾燥させたものです。樹皮が厚いほど良品とされ、12〜20年で採取が可能になります。夏の頃（6〜7月）に樹液の流動が盛んな時期に採取され、樹皮を剥ぎ取り、内皮の鮮黄色の部分を日干しして作られます。

黄檗には、ベルベリン、パルマチン、マグノフィリンなどのアルカロイドや、オバクノン、タンニン、粘液質などの薬用成分が含まれています。特にベルベリンは苦味成分と抗菌作用を持ちます。主に苦味健胃、整腸剤として利用され、陀羅尼助や百草などの薬に配合されています。また、黄連解毒湯や加味解毒湯などの漢方薬にも含まれます。粘液質やタンニンには収斂や消炎作用があり、打ち身や捻挫に外用されます。日本薬局方では、黄柏を粉末にした「オウバク末」として取り扱われ、キハダと同属の植物も黄柏の基原植物とされています。

民間療法では、胃炎、口内炎、急性腸炎、腹痛、下痢などに、黄柏の粉末（オウバク末）を1回量1グラム、1日3回服用する方法が知られています。強い苦味のため、眠気覚ましとしても用いられたといわれています。妊婦や胃腸が冷える人への服用は禁忌とされています。また、打撲や捻挫、腰痛、関節リウマチなどには、中皮を粉末にして小麦粉と酢で練り、湿布として患部に貼る方法も用いられます。

アイヌは、熟した果実を香辛料として利用しています。

サプリメント

海外では、シナホオノキの抽出物とキハダの抽出物を合わせたサプリメント（リローラ、Relora®）が販売されており、コルチゾールを低下させる効果が報告されています。

染料

キハダは、「黄蘗色（きはだいろ）」と呼ばれる鮮やかな黄色の染料として知られています。黄色に染めるだけでなく、赤や緑色の下染めにも利用されます。特に紅花染めの下染めに用いられ、紅花特有の鮮紅色を引き立てる効果があります。キハダは珍しい塩基性の染料であるため、酸性でないとうまく染まらない特徴があります。そのため、キハダで下染めをした後は洗浄を十分にする必要があります。また、虫食いを防ぐ効果を期待して、仏教経典用紙の染色にも使われた時代もあり、正倉院文書や薬師寺伝来の『魚養経』などの古い文書にも使用されています。

木材

キハダの心材は黄色みを帯びており、木目がはっきりしているため、家具材などに使用されます。ただし、軽量で柔らかいため、強い荷重がかかる場所にはあまり適していません。一部では桑の代用材としても使用されることがあり、その場合は「女桑」と表記されます。

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