クィントゥス・ホルテンシウス・ホルタルス

クィントゥス・ホルテンシウス・ホルタルス：共和政ローマの弁論家、政治家

クィントゥス・ホルテンシウス・ホルタルス（Quintus Hortensius Hortalus、紀元前114年 - 紀元前50年）は、共和政ローマ時代に活躍した政治家であり、弁論家です。紀元前69年には執政官（コンスル）を務めました。弁論家としての才能は、同時代のキケロと並び称されるほどでした。

出自

ホルテンシウス氏族が歴史に登場するのは、紀元前287年にクィントゥス・ホルテンシウスが独裁官（ディクタトル）に任命された時です。このクィントゥスは、ホルテンシウス法を制定したことで知られています。紀元前170年には、ルキウス・ホルテンシウスが法務官（プラエトル）に就任しています。ホルタルスの父であるルキウスも法務官としてシキリア属州総督を務めました。愛称であるホルタルスは、父ルキウスが使い始めたものとされています。

父ルキウスは、紀元前129年の執政官ガイウス・センプロニウス・トゥディタヌスの娘と結婚し、ホルタルスの他に娘をもうけました。この娘は、ガイウス・マリウスの副司令官（レガトゥス）を務めたマルクス・ウァレリウス・メッサッラと結婚し、紀元前53年の執政官マルクス・ウァレリウス・メッサッラ・ルフスを産んでいます。

第一次ミトリダテス戦争中の紀元前90年に、スッラの副司令官を務めたルキウス・ホルテンシウスは、ホルタルスの兄である可能性があります。しかし、このルキウスは戦争前に法務官を務めているため、兄弟としては年齢が離れすぎている可能性もあります。

ホルタルスは、自身の家族の歴史をよく知っており、特に母方の祖父の経歴に関する情報をキケロに伝えています。

経歴

早期の経歴

キケロの記述によると、ホルタルスは紀元前95年には19歳であり、紀元前50年に64歳で死去しています。このことから、歴史家はホルタルスの生年を紀元前114年の後半と推定しています。

ホルタルスは、弁論家として公の場での活動を始め、その名声は紀元前70年まで衰えることがありませんでした。紀元前95年に初めて法廷に立ち、「アフリカの守護者」との評価を得ました。この裁判の詳細は不明ですが、アフリカ属州総督の誰かを権力乱用罪で訴えたものと思われます。いずれにしても、若いホルタルスは聴衆の人気を得て、その中には当時の執政官ルキウス・リキニウス・クラッススとクィントゥス・ムキウス・スカエウォラも含まれていました。

紀元前91年、ホルタルスはビテュニアのニコメデス4世を弁護しました。その後、同盟市戦争が始まると、ホルタルスもこれに参加し、紀元前90年には一般兵、紀元前89年にはトリブヌス・ミリトゥム（高級士官）となりました。

紀元前88年、ローマの政治抗争はマリウス派とスッラ派の内戦に発展します。ホルタルスは、クィントゥス・ルタティウス・カトゥルスの娘と結婚しており、カトゥルスはスッラ派の有力者でした。紀元前87年にマリウス派がローマを占拠すると、多くのスッラ派が粛清されましたが、ホルタルスはローマに留まり、法廷にも参加しました。この頃までに、紀元前90年代に活躍した著名な弁論家たちが舞台を去り、ホルタルスはローマ第一の弁論家となりました。

紀元前89年には、グナエウス・ポンペイウス・ストラボの息子である18歳のグナエウス・ポンペイウス（後のポンペイウス・マグヌス）が、父の戦利品横領の罪で告発されました。ホルタルスは、ルキウス・マルキウス・ピリップス、グナエウス・パピリウス・カルボと共にポンペイウスを弁護し、無罪を勝ち取りました。

弁論家として（紀元前82年 - 紀元前70年）

マリウス派の敗北後、ホルタルスの政治的・社会的活動に対する制限はなくなりました。紀元前81年には、プブリウス・クィンクティウスの裁判で原告側代理人を務めました。この裁判では、25歳のキケロがクィンクティウスの弁護人を務め、ホルタルスに敬意を払いながらも、皮肉を込めた弁護を展開しました。

おそらく紀元前77年のことと思われますが、グナエウス・コルネリウス・ドラベッラが告訴されるという、注目度の高い裁判がありました。ホルタルスは、ガイウス・アウレリウス・コッタと共に弁護人の一人となりました。ドラベッラは無罪となりました。

その後紀元前70年頃までの数年間は、ホルタルスが最高の弁論家としての名声を得た時期でした。彼は多くの裁判に参加し、常に勝利を収めていたようです。

ウェッレス弾劾裁判

ホルタルスは、元老院の寡頭制を支持するオプティマテス（門閥派）に属し、改革を唱えるポプラレス（民衆派）に反対していました。紀元前70年にキケロが元シキリア属州総督ガイウス・ウェッレスを告発したとき、ホルタルスはウェッレスの弁護を行いました。ホルタルスは、裁判の引き延ばしを図りましたが、キケロの証人喚問によってウェッレスの数々の罪が明らかになり、ホルタルスはウェッレスに亡命を勧めるしかありませんでした。

ウェッレス弾劾裁判は、ホルタルスの敗北であり、彼はローマ最高の弁論家としての地位をキケロに譲ることになりました。

政治歴

ホルタルスは、紀元前75年に按察官（アエディリス）、紀元前72年に法務官（プラエトル）に就任しました。紀元前70年末には執政官に当選し、クィントゥス・カエキリウス・メテッルスを同僚執政官としました。執政官任期満了後、ホルタルスはマケドニア属州へプロコンスル（前執政官）として赴任するよう依頼されましたが、これを拒否してローマに留まりました。

紀元前60年代

執政官を退任した後も、ホルタルスはローマで最も影響力のある裕福な人物の一人でした。彼は、パラティヌスの丘に家を所有していました。また、アウグル（鳥占官）の晩餐会で最初に孔雀の肉を出したのはホルタルスであり、これが後に美食の対象となりました。

晩年の18年間（紀元前68年～紀元前50年）、ホルタルスは、ノビレスの権利を守る必要性が生じた場合にのみ、政界に復帰しました。紀元前67年にはポンペイウスに海賊討伐の指揮権を与えることに反対し、紀元前66年にはポンペイウスが第三次ミトリダテス戦争の指揮を執ることに反対しました。

紀元前63年にキケロが執政官に就任して以降、ホルタルスは定期的に裁判に参加し、キケロと協力することが多くなりました。

紀元前50年代

紀元前61年か紀元前60年にカトゥルス・カピトリヌスが死去すると、オプティマテス（門閥派）は指導者を失った状態になりました。ホルタルスは、紀元前59年にキケロと共に、ルキウス・ウァレリウス・フラックスを弁護しました。紀元前58年には、キケロが告訴された際、ホルタルスはキケロを支持しました。

紀元前56年、ホルタルスは、エジプト王プトレマイオス12世アウレテスの王位復帰に関する議論に積極的に参加しました。紀元前52年、ホルタルスは、プブリウス・クロディウスの暗殺を組織したティトゥス・アニウス・ミロの裁判で判事の一人を務めました。

ホルタルスの晩年は、長男との対立によって暗くなっていました。紀元前50年6月、ホルタルスは死去しました。

弁論家として

ホルタルスの演説は、3つの短い引用文以外には何も残っていないため、キケロの論説に基づいて判断するしかありません。彼はアシアティック・スタイル（ギリシア風）の信奉者であり、華やかさ、パトス、複雑な言葉使いによって特徴づけられた弁論を行いました。

ホルタルスの成功は、弁論への情熱、優れた記憶力、心地よい声に支えられていました。服装や身振り手振りも非常に表情豊かであり、多くの人が彼を俳優に例えました。その時代の最高の俳優、クイントゥス・ロスキウス・ガッルスやクラウディウス・アエソプスは、彼の弁論に学びに来ていたと言われています。

家族

ホルタルスの最初の結婚相手は、クィントゥス・ルタティウス・カトゥルスの娘ルタティアでした。この結婚では、息子クィントゥスと娘ホルテンセが生まれました。

ホルタルスは、カト・ウティケンシスとの繋がりを求めて、カトの娘との結婚を申し込みましたが、断られました。その後、カトの妻マルキアと結婚しましたが、後に離婚し、マルキアは再びカトの妻となりました。

評価

ホルタルスに関する情報は、主にキケロの著作の中にあります。キケロは、ホルタルスを傑出した人物として認識しており、「最高の美徳、名誉ある地位、富、勇気と才能」を持っていたと述べています。

キケロの他にも、ウァレリウス・マクシムス、コルネリウス・ネポス、パテルクルスなどがホルタルスを評価しています。

古代ローマにおいて、弁論家、政治家として活躍したクィントゥス・ホルテンシウス・ホルタルス。彼の生涯は、共和政ローマの激動の時代を映し出しています。

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