クノベリヌス

クノベリヌス：古代ブリテンの王

クノベリヌス（紀元前1世紀後期 - 40年代）は、ローマ帝国がブリテン島を支配する以前に実在した王です。彼の名前は、スエトニウスやカッシウス・ディオといった古代歴史家の記録や、多数残されたコインを通じて現代に伝えられています。クノベリヌスは、現在のイングランド南東部に相当する広大な地域（カトゥエラニ族の領土として知られる）を統治しており、スエトニウスは彼を「ブリトン人の王」と呼んでいます。

クノベリヌスの名は、イギリスの伝説にも「Cynfelyn」「Kymbelinus（キンベリヌス）」「Cymbeline（シンベリン）」として登場し、ウィリアム・シェイクスピアは彼を題材に『シンベリン』という戯曲を創作しました。「クノベリヌス」という名前は、「ベレヌスの猟犬」または「輝く猟犬」を意味するとされています。

歴史

貨幣学的証拠から、クノベリヌスは西暦9年頃に勢力を拡大していたと考えられています。彼のコインは、トリノヴァンテス族の首府カムロドゥヌム（現コルチェスター）と、カトゥエラニ族の首府ヴェルミラオン（Verlamion、後のローマ都市ヴェルラミウム、現セント・オールバンズ）の両方から発見されています。ヴェルラミウムで発見されたコインの一部には、クノベリヌスがカトゥエラニ族の王タスキオウァヌスの息子であると記されています。

タスキオウァヌスのコインとは異なり、クノベリヌスのコインには共同統治者の名前は見られません。しかし、最も古いコインはカムロドゥヌムで発見されており、これはクノベリヌスが最初にカムロドゥヌムを支配したことを示唆しています。また、一部のコインには、軍事的勝利を意味するローマのモチーフ、シュロまたは月桂樹の花冠のデザインが用いられています。西暦9年のゲルマニアにおけるトイトブルクの戦いでローマが敗北したことが、クノベリヌスがトリノヴァンテス族に対して行動を起こすきっかけになったのかもしれません。トリノヴァンテス族はローマと同盟を結んでおり、その自治は紀元前54年にガイウス・ユリウス・カエサルが作った条約によって保護されていました。

クノベリヌスは、ローマ帝国と良好な関係を維持していたようです。彼は「Rex」（ラテン語で「王」）という称号を使用し、コインには古典的なモチーフを取り入れました。彼の統治下では、大陸との交易が活発になり、イタリアワイン、酒器、オリーブ油、魚醤、ガラス器、宝石、ガリア・ベルギカの卓上食器など、大陸から輸入された贅沢品が増加しました。これらの輸入品は、主にカムロドゥヌム港を経由してブリテン島に持ち込まれたと考えられています。

クノベリヌスは、ストラボンが記述したアウグストゥスに使節を送ったブリテンの王の一人であった可能性もあります。ストラボンは、ローマに有利なブリテンとの交易について記録しており、ブリテンからは穀物、金、銀、鉄、皮革、奴隷、猟犬などが輸出されていました。

クノベリヌスには、アドミニウス、トゴドゥムヌス、カタラクスという3人の息子と、エパティッカスという弟がいたことが知られています。エパティッカスは西暦20年代初頭にアトレバテス族の支配地まで勢力を拡大し、25年頃にはその首都カレウァ・アトレバツム（現シルチェスター）を攻略しました。エパティッカスはその後も領土を拡大し続けましたが、35年頃に亡くなり、カタラクスが後を継ぎました。カタラクスはアトレバテス族から領土の一部を取り戻しました。

アドミニウスは、彼のコインから判断して、当時ケントを支配していたと考えられます。スエトニウスは、西暦40年頃にアドミニウスが父親によってブリテンから追放され、皇帝カリグラに保護を求めたと伝えています。カリグラは、まるで島全体が自分に服従したかのようにこれを受け止め、ブリテン侵略の準備を始めましたが、兵士たちに波を攻撃させ、戦利品として貝殻を集めさせるという茶番めいた状況で断念しました。

クノベリヌスは西暦43年以前に亡くなりました。カタラクスはアトレバテス族の征服を完了し、アトレバテス族の王ウェリカがローマに逃れて新皇帝クラウディウスに援助を求めたことが、ローマによるブリテン征服の口実となりました。カタラクスとトゴドゥムヌスは、ローマの侵略に対する最初の抵抗を指揮しました。カッシウス・ディオは、カトゥエラニ族に従属していた種族「Bodunni」がローマ側に寝返ったと伝えていますが、「Bodunni」とはおそらくグロスタシャーのドブニ族の綴り間違いであり、これはクノベリヌスの覇権がウエスト・カントリーまで広がっていたことを意味しています。

碑銘研究的証拠に基づくと、後のローマのブリタンニア総督サルティウス・ルクルスは、クノベリヌスの孫である可能性があります。

伝説と文学

クノベリヌスの名は、イギリスの伝説や文学作品にも登場します。中世ウェールズの写本「Harleian 3859」には、「Caratauc map Cinbelin map Teuhant」という記述があり、これは「タスキオウァヌスの子クノベリヌスの子カタラクス」と解釈できます。それぞれの名前は、長い口承の間に変化した可能性があります。この写本には他に一連のローマ皇帝の名前と、ウェールズ神話の「Guidgen」（グィディオン）と「Lou」（フリュウ・フラウ・グウフェス）が含まれています。

ジェフリー・オブ・モンマスの『ブリタニア列王史』（1136年）では、クノベリヌスは王テヌアンティウス（タスキオウァヌスのこと）の子で、アウグストゥスの宮廷で育てられた強力な戦士「キンベリヌス」として登場します。キンベリヌスはローマ宮廷と非常に親しく、ローマに対して、求められたからではなく、敬意として地代を納めました。キンベルヌスにはグウィデルスとアルウィラグスという2人の息子がいました。グウィデルスが王位を継ぎましたが、クラウディウスの侵略の初期に殺され、戦いの続きはアルウィラグスに託されました。

1577年、ラファエル・ホリンシェッドはジェフリーの話を自分の『年代記』に取り込みました。ウィリアム・シェイクスピアはホリンシェッドの本でこの話を知り、ロマンス劇『シンベリン』の基にしました。シンベリン王は邪悪な後妻の言いなりになり、娘イモージェンの結婚を認めません。歴史上のクノベリヌスとの共通点はほとんどありません。

クノベリヌスの名前は、今もイングランドの中で生き残っています。バッキンガムシャーの村の集まりは、クノベリヌスにちなんで「キンブルズ」と名付けられました。その高みに位置するのは、類像的なビーコン・ヒルと、「シンベリンの小山」あるいは「シンベリン城」と呼ばれる不思議な形の小山です。地方の伝承・民話では、その小山の斜面で、王とその息子たちが襲い来るローマ軍と戦ったと伝えられています。

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