クルクミン

クルクミンについて

概要

クルクミンは、ショウガ科の植物であるウコン（ターメリック）などに含まれる主要な黄色い色素成分であり、ポリフェノールの一種です。分類上はクルクミノイドに属します。その鮮やかな黄色を利用して、古くから天然の食品着色料として広く使われており、日本でも「ウコン色素」として既存添加物（着色料）に指定されています。漬物や水産練り製品、和菓子など、様々な食品の着色に用いられています。法的には、特定の効能をうたわない限り、ウコン由来のクルクミンは食品として扱われます。

クルクミンの色は溶液の性質によって変化します。酸性から中性では明るい黄色を呈しますが、アルカリ性条件下では赤褐色に変化します。アルコール溶液中では鮮やかな黄色を示し、紫外線に当てると青緑色の蛍光を発する特性があります。

近年、クルクミンは「抗酸化作用」「肝機能向上」「発がん抑制」など、様々な健康効果が期待される成分として、多くの健康食品やドリンク剤に配合されています。しかしながら、これらの効果やヒトにおける安全性については、現時点では信頼に足る十分な科学的根拠が確立されているとは言えず、更なる研究が必要です。

特異な化学反応として、ホウ酸と反応するとロソシアニンという赤色の化合物を生成するため、この反応を利用してホウ素の定量分析にも用いられます。

化学的性質と構造

クルクミンはいくつかの官能基を持ち、特にポリフェノール由来の芳香族環が、二つのα,β-不飽和カルボニル基によって連結された特徴的な構造をしています。分子内ではケト型とエノール型という二つの互変異性体が存在し、固体状態でも溶液中でも、エノール型の方がエネルギー的に安定であることが知られています。このジケトン構造は、安定なエノラートを形成しやすく、求核付加反応を受けやすい性質を持ちます。

クルクミンの正確な化学構造は、1910年にポーランドの研究者らによって初めて明らかにされました。

安定性に関しては課題があります。水には溶けにくく、可視光や紫外線、弱いアルカリ性環境下では比較的容易に分解される性質を持っています。そのため、食品や健康食品としての利用範囲を広げるため、配糖化、補助剤の添加、ナノ粒子化、微細化、フィトソーム化など、安定性や溶解性を改善するための様々な技術開発が進められています。熱に対しては比較的安定ですが、特に紫外線による影響を受けやすく、また微量の金属イオン、特に鉄イオンの存在下では色が暗くなる傾向があります。

生合成と生産

現在、商業的に流通しているクルクミンの大半は、栽培されたウコンの根茎から有機溶媒やアルコールを用いた抽出法によって生産されています。抽出によって得られたクルクミンは、残存する有機溶媒などを除去する工程を経て製品となります。

一方、クルクミンの生合成経路を解明し、それを利用した生化学的な（酵素を利用した）合成法や、微生物による生産法に関する研究も活発に行われています。

かつて、クルクミンの植物内での正確な生合成経路は不明瞭でしたが、1970年代に提唱された二つの仮説経路のうち、後の研究、特に13C同位体標識を用いた実験により、シンナメートという化合物を二つとマロニルCoAが結合する経路が正しいことが2008年までに実験的に確証されました。出発物質としてケイ皮酸が利用されるのは、植物の生合成経路としては比較的珍しいケースです。

また、クルクミンは芳香族ポリケチドと呼ばれる一群の化合物に分類され、植物体内でポリケチド合成酵素（PKS）によって作られます。ウコンにおいては、DCS (diketide CoA synthase) とCURS (curcumin synthase) という二種類の酵素がクルクミンの合成に関与している可能性が高いことが明らかになっています。これらの関連酵素をコードする遺伝子も特定されており、これらの知見を基に、産業廃棄物である米糠のような安価な基質を用い、工業微生物によるクルクミンの生産を目指す研究も進められています。微生物生産は、従来の抽出法に比べて大量生産や派生物質の生産、廃棄物利用などの利点が期待されています。

生理作用と医学的応用に関する研究

クルクミンには、抗腫瘍作用、抗酸化作用、抗アミロイド作用、抗炎症作用など、様々な生理活性が報告されています。抗炎症作用は、炎症に関わる生理活性物質であるエイコサノイドの合成を阻害することなどが一因と考えられています。強力なフリーラジカル捕捉能力を持ち、生体内での脂質の過酸化や活性酸素によるDNAへの損傷を防ぐ可能性が示唆されています。また、解毒に関わる酵素（グルタチオン-S-トランスフェラーゼ）の働きを高めたり、薬物代謝に関わる酵素（シトクロムP450）の働きを阻害する可能性も指摘されています。

特に、近年ではがんやアルツハイマー病といった疾患に対するクルクミンの潜在的な効果について多くの研究が行われています。がん細胞に対してアポトーシス（プログラム細胞死）を誘導する作用や、炎症やがんの発生・進行に関わる転写因子 NF-κBの活性を抑制する作用が報告されています。動物実験では、発がん物質を投与したマウスやラットにおいて、クルクミンの摂取が大腸がんの発生を有意に減少させたという報告もあります。

アルツハイマー病に関しては、2004年にアルツハイマー病モデルマウスを用いた研究で、脳内のβアミロイドの蓄積を抑え、アミロイド斑を減少させる効果が示されました。また、高齢のアジア人を対象とした疫学調査で、カレー（クルクミン含有）を頻繁に食べる群が精神機能検査で比較的高いスコアを示したという報告もありますが、これがクルクミンの効果なのか、他の要因によるものなのかは科学的に判断が難しく、さらなる検証が必要です。

生体内への吸収性には課題があり、経口摂取した場合、吸収される量は非常に少ないと報告されています。黒コショウに含まれるピペリンなどの成分を一緒に摂取することで、腸からの吸収が改善されるという報告もありますが、ピペリンは他の薬物の代謝にも影響を与える可能性があるため注意が必要です。ただし、大腸がんリスクの低減など、一部の期待される作用は必ずしも全身への吸収を必要としない可能性もあります。

クルクミンの持つ蛍光特性を利用し、手術中の病理組織診断に役立てる試みも行われています。

生体吸収性改善への取り組み

クルクミンの低い水溶性と生体利用率（バイオアベイラビリティー）を改善するため、様々な技術が研究・開発されています。2007年には、クルクミンを高分子ナノ粒子に封入した製剤（ナノクルクミン）が開発され、試験管内（in vitro）でのヒトがん細胞に対する効果を高める可能性が示されました。2008年には、脂質化したクルクミンを用いることで脳内濃度を高められる可能性が報告されています。また、大豆リン脂質との混合物として製剤化することで、血中濃度が大幅に増加したという報告や（特許出願、2006年）、食品用の高分子ナノミセルに封入することで水への溶解性やin vitroでの抗がん活性が向上したという報告（2010年）があります。日本国内でも、独自の細粒化技術により、経口摂取後の血中におけるフリー体クルクミンの濃度を飛躍的に高めた製剤が開発され、吸収性改善の効果が確認されています。

その他の作用と有効性に関する知見

鉄イオンを捕捉するキレート作用があると考えられており、動物実験では臓器内の鉄を減らし、酸化ストレスを低減させる作用が報告されています。鉄の過剰蓄積が関連する慢性肝臓病や一部のがんなどの疾患予防への応用が期待されています。

また、モノアミン酸化酵素（MAO）の働きを阻害する作用があり、特にMAO-AとMAO-Bの両方に対して阻害活性を示すことが知られています。

特定の疾患に対する有効性については、予備的な知見がいくつか報告されています。例えば、変形性関節症に対するメタアナリシスでは、証拠の質は低いものの、痛みの軽減に大きな効果が示唆されています。慢性のブドウ膜炎治療への有用性を示唆する報告もありますが、これらはまだ限定的なものであり、大規模な臨床試験による検証が必要です。

安全性と副作用

ウコンは食品や生薬としてアジアの多くの地域で古くから利用されてきた歴史があり、この経験から、食品や天然色素としてのクルクミンの使用は一般的に安全であると考えられています。しかし、ウコンを原料とする製品の摂取には注意が必要な場合もあります。

例えば、ウコン茶などの摂取による肝機能障害の事例が報告されています。これは、秋ウコンの根茎にはクルクミンだけでなく鉄分も豊富に含まれている場合があり、鉄過剰に注意が必要なC型慢性肝炎患者などでは、肝臓への負担となる可能性があるためです。ただし、精製されたクルクミン原体であれば、このようなミネラル成分による問題は起こりにくいとされています。

また、血液を固まりにくくする薬であるワーファリンなどを服用している人がクルクミンを摂取する場合、クルクミンにも血小板凝集を抑制する作用があるため、薬の効果が増強される可能性があり、他のビタミンK含有食品と同様に、摂取量や食べ合わせに注意が必要です。

安全性に関する臨床試験の報告もあります。がん患者を対象とした第1相試験では、高用量（1日8000mg）のクルクミンを3ヶ月間経口投与しても安全性が確認されたと報告されています。国際的な食品添加物の専門家会議であるJECFA（FAO/WHO合同食品添加物専門家会議）では、2003年に添加物としてのクルクミンの許容一日摂取量（ADI）を0～3mg/kg体重と定めています。

一方で、潜在的なリスクや副作用に関する報告も全くないわけではありません。ごく一部では、動物実験において、抗がん作用とは逆に発がん性を有する可能性や、腫瘍抑制に関わるp53経路に干渉する可能性が示唆されたこともありますが、他の多くの動物試験では、クルクミン摂取と腫瘍発生の関連性は認められていません。また、クルクミン摂取後に皮膚炎、不整脈、乾癬の症状悪化などが報告された事例もありますが、これらは稀なケースであり、一般的な摂取量でのリスクについてはさらなる検証が必要です。

食品衛生分野での利用

クルクミンは食品衛生の分野でも活用されています。エタノールに溶かした0.1%クルクミン溶液は脂肪と反応し、その部分に紫外線を当てると蛍光を発する性質を持つため、食器などに残った脂肪汚れの洗浄効果を確認するための検査に利用されています。

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