グリゴリス・ランブラキス

グリゴリス・ランブラキス：平和を希求したギリシャの政治家

グリゴリス・ランブラキス（1912年4月3日 - 1963年5月27日）は、ギリシャの政治家、医師であり、陸上競技選手としても知られています。民主左翼同盟の党首を務め、アテネ大学医学部の教授でもありました。彼の生涯は、政治活動、医療、スポーツ、そして平和運動への献身によって彩られていましたが、1963年、右翼による暗殺という悲劇的な結末を迎えました。

生涯

ランブラキスは、アルカディア県テゲアのケラシツァ地区で生まれました。アテネ大学医学部を卒業後、医師として活動する傍ら、陸上競技選手としても目覚ましい才能を発揮しました。1936年から1959年まで走幅跳のギリシャ記録を保持し、バルカン競技大会では何度も優勝を飾るなど、ギリシャを代表するアスリートとして名を馳せました。

第二次世界大戦中、ギリシャがナチス・ドイツの占領下にあった時代、ランブラキスはレジスタンス運動に身を投じました。共産主義者ではありませんでしたが、反戦・平和主義者として、ベトナム反戦運動などにも積極的に参加しました。

1963年5月22日、テッサロニキで行われた反戦集会に招待客として出席した帰り道、ランブラキスは背後から近づいてきたサイドカーに乗った男に棍棒で頭部を殴打され、重傷を負いました。5日後の5月27日、脳挫傷により51歳で死去。この事件は、右翼による犯行であることが明らかになりました。

暗殺される約1か月前、マラトンからアテネまでの平和のための大行進が当局によって禁止されると、ランブラキスはたった一人でこの行進を敢行しました。この時の様子を捉えた写真は、彼の平和への強い意志を示す象徴として広く知られています。

死後の影響

ランブラキスの死後、彼の遺志を継ぐため、ジャーナリスト、学者、芸術家、労働者、学生たちによって「ランブラキス・ユース」という組織が結成され、作曲家のミキス・テオドラキスが代表に選ばれました。この組織は、彼の平和と民主主義への信念を広めるために活動しました。

ヴァシリス・ヴァシリコスの1966年の小説『Z』、およびそれを原作とした1969年のコスタ＝ガヴラス監督の映画『Z』は、この暗殺事件をモデルとしています。映画は、政治的な暗殺事件とその背後にある権力構造を鋭く描き出し、世界中で大きな反響を呼びました。

1974年の軍事政権崩壊後、ギリシャ各地の通りや広場、サッカースタジアムが彼の名を冠した名前に改められました。また、アテネ・クラシック・マラソンも彼を記念したマラソン大会として開催されるようになり、彼の功績は現代のギリシャにおいても深く記憶されています。

グリゴリス・ランブラキスは、その生涯を通して平和と正義を訴え続けました。彼の死は、ギリシャ社会に大きな衝撃を与え、民主化運動の原動力となりました。彼の名は、自由と平和を求める人々の心に、永遠に刻まれています。

参考文献

リチャード・クロッグ 著、高久暁 訳『ギリシャの歴史』創土社、2004年。ISBN 4-789-30021-8。
周藤芳幸、村田奈々子共著『ギリシアを知る辞典』東京堂出版、2000年。ISBN 4-490-10523-1。
桜井万里子著『ギリシア史』山川出版社、2005年。ISBN 4-634-41470-8。
ニコス・スボロノス 著、西村六郎 訳『近代ギリシア史』白水社、1988年。ISBN 4-560-05691-9。
* C.M.ウッドハウス著、西村六郎訳『近代ギリシァ史』みすず書房、1997年。ISBN 4-622-03374-7。

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