サルゴン (アッカド王)

サルゴン：アッカド帝国の創始者

サルゴン（在位：紀元前2334年頃 - 紀元前2279年頃）は、古代メソポタミアにアッカド帝国を築いた王であり、古代オリエント政治史上、最も重要な人物の一人とされています。アッカド語ではシャル・キン(Sharru kin)と表記されます。

年代の問題

サルゴンの時代を特定することは、年代学において議論の的となっています。サルゴン自身の在位年数を含め、確定的な年代を特定することは困難です。紀元前2334年 - 紀元前2279年頃という在位年は中年代説に基づきますが、低年代説や高年代説を採用すると、数十年のずれが生じます。また、どの説を採用しても、サルゴンの在位年数には依然として不確実性が残ります。

サルゴンに関する史料

サルゴンの生きた時代の同時代資料は限られています。ラガシュやウンマなどの都市から、同時代の楔形文字文書が出土していますが、年代決定が難しいため、得られる情報は非常に少ないです。ニップルのエンリル神殿に刻まれた碑文をバビロニア時代に書き写したものが現存しており、サルゴンの業績に関する情報を得ることができます。サルゴンは古代オリエント世界で最も有名な王の一人であったため、彼に関する伝説や物語、文学作品が数多く残されていますが、それらがどの程度事実に基づいているかは不明です。これらの理由から、サルゴンの知名度や業績とは裏腹に、彼の治世について正確に分かっていることは限られています。

来歴

後世のサルゴン誕生伝説によると、彼は生まれた直後にユーフラテス川に流され、キシュの庭師に拾われて育てられたとされていますが、その真偽は定かではありません。サルゴンはアッカド市で王位を確立した後、シュメール諸都市を糾合していたウルク王ルガルザゲシを攻め、捕虜としました。これにより、シュメールとアッカドを統一しました。さらに、エラム地方に遠征し、アワン朝王（現ロレスターン州）を中心に連合した4人のエラムの王を打ち倒して征服し、その北隣のシムルムも制圧しました。

その後、西方遠征を行い、マリをはじめ、エブラ、アナトリア南東部の「銀の山」（タウルス山脈）、「レバノン杉の森」（アマヌス）を征服しました。しかし、これらの西方遠征説話は、彼の孫であるアッカド王ナラム・シンの業績と酷似しており、ナラム・シンの業績がサルゴンに仮託されたものである可能性があります。

これらの業績により、彼は「上の海（地中海）から下の海（ペルシア湾）までを征服した王」と記録され、彼が築いた領域は史上初の帝国であると言われています。この記述は、ルガルザゲシの記述を踏襲したものと考えられています。

娘のエンヘドゥアンナは、ウル市の月神ナンナの神官となり、賛歌など様々な文学作品を残しました。サルゴンの長い治世の後、息子のリムシュがアッカド王位を継承しました。

王の称号

サルゴン時代に使用され、後世に伝えられた王号の中でも重要なものに、「世界の王」（シュメール語：Lugal kiš、アッカド語：Sharru kish ati）があります。この王号は、彼の子孫であるアッカド王たちによって踏襲されたほか、アッシリアのシャムシ・アダド1世などによっても用いられました。

サルゴン伝説

誕生伝説

サルゴンは女性祭司（恐らく神殿娼婦）の子として生まれたため、その出生を隠され、籠に入れられてユーフラテス川に流されました。その後、キシュ王に仕えた庭師ラーイブム(La'ibum)に拾われて育てられました。その後、キシュ王ウル・ザババの酌を務める役人としてキシュ王国に仕えることになります。

ある時、サルゴンは女神イナンナに愛され、ウル・ザババ王が溺死するという夢を見ました。ウル・ザババはその夢について側近に議論させ、その結果バリク・ティカルにサルゴンを殺させようとしましたが、女神イナンナによって阻止され失敗しました。ウル・ザババはおびえ、ウルクの王ルガルザゲシにサルゴンを殺すことに関して相談を持ちかける手紙を送りました。

…これ以降の部分は欠損しています…

シュメール王名表のサルゴン出生説話

サルゴンは庭師の息子であり、酌人でした。彼はアッカド市を建設し、アッカドの王となりました。彼は56年間統治しました。

新アッシリア時代のアッシリア王名表におけるサルゴン伝説

サルゴン自身による発言として、以下のような話が記載されています。

「母は私を取り違えたため、私は父を知らない。私はアズピラヌで生まれた。私を取り違えた母は秘密裏に私を篭に入れて川に流そうと考えた。そして彼女は増水した川に私を流した。しかし川は私をアッキ（AKKI）の下へと運んだ。それでアッキは私を息子として育てた。アッキは私を庭師にした。イシュタルは私を愛し、4年間にわたって私に王を担当させた。私は城壁を斧で破壊し、山の頂上へと登り、海岸の国を3度攻め、ディルムンを征服した。」

なお、新アッシリア時代のアッシリア王名表は、サルゴンをアッシリア人として自己の帝国の創設者の一人とみなしています。

他の伝説におけるサルゴン

サルゴンがオリエント各地の都市を征服した伝説が存在しますが、その中には実際にはサルゴンが征服していない都市名が含まれていると思われます。また、『戦闘の王』という伝説では、実際にはナラム・シンが行った遠征がサルゴンの遠征として語られています。

アッカド時代に関する伝説は主に建国者サルゴンと破壊者ナラム・シンという対比によったものが多く残されています。

参考文献

* 小林登志子『シュメル―人類最古の文明』中央公論新社〈中公新書〉、2005年10月。ISBN 978-4121018182。

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