ダルムシュタット夏季現代音楽講習会

ダルムシュタット夏季現代音楽講習会（Internationale Ferienkurse für Neue Musik, Darmstadt）は、現代音楽の分野において世界的に重要な位置を占める講習会です。1947年以来、ドイツのダルムシュタット市で定期的に開催され、数多くの作曲家、演奏家、音楽学者に影響を与え続けています。

歴史

ヴォルフガング・シュタイネッケ時代

第二次世界大戦後、ナチス政権下で「退廃音楽」とされた現代音楽を再興するため、ドイツ政府とアメリカ占領政府の支援のもと、講習会が始まりました。当初はオリヴィエ・メシアン、ルネ・レイボヴィッツ、テオドール・アドルノ、ヴォルフガング・フォルトナーらが講師を務め、新ウィーン楽派の十二音技法や、ストラヴィンスキー、バルトークなどの同時代作曲家の研究が行われました。

その後、アントン・ヴェーベルンの極小様式研究から、セリー・アンテグラル（総音列主義）へと焦点が移ります。ピエール・ブーレーズ、カールハインツ・シュトックハウゼン、ルイジ・ノーノといった若手作曲家が台頭し、エアハルト・カルコシュカやアドルノが理論面を支えました。この世代交代は、エルンスト・クレーネクなどの前世代の講師が講習会から去るという事態も引き起こしました。

ハンス・ヴェルナー・ヘンツェやハンス・ツェンダーのように、ダルムシュタットの潮流に距離を置く作曲家も存在しました。後に、ジェルジ・リゲティやヤニス・クセナキスなど、セリーとは異なる方法論を持つ作曲家も講師に招かれ、現代音楽の多様性を示す場となりました。ジョン・ケージの招聘は、偶然性の音楽をヨーロッパに広めるきっかけとなり、ブーレーズによる「管理された偶然性」の提唱につながりました。

エルンスト・トマス時代

1970年代から1980年代にかけては、ヘルムート・ラッヘンマンやブライアン・ファーニホウといったフライブルク音楽大学出身の作曲家が活躍し、ハリー・ハルブライヒらが理論面をサポートしました。ポスト構造主義や新しい複雑性などの潮流が生まれ、ラッヘンマン楽派、フライブルク楽派といった新たな潮流が生まれました。1980年代以降は国際化が進み、世界各国から音楽家が集まるようになりました。

1970年代に入ると、シュトックハウゼンやブーレーズのスケジュール確保が難しくなり、隔年開催へと移行しました。現在は偶数年に開催されています。2020年の講習会はCovid-19の影響で2021年に延期されました。

フリードリヒ・ホンメル時代

長年「反ダルムシュタット」の立場であったハンス・ツェンダー、ヴォルフガング・リーム、細川俊夫、ジョン・ケージらが講師として招かれました。ジャチント・シェルシやモートン・フェルドマンなど、海外からの招聘も積極的に行われました。秋吉台国際現代音楽セミナー＆コンサートや武生国際作曲ワークショップとの提携も行われ、交換留学生の派遣も行われていました。

ホンメルは、現代音楽の多様化に対応するため、「大家であろうが無名であろうが、自分の信頼した作曲家に一人一時間一コマ」のレクチャーを設けるという形式を取りました。これにより、受講生は多様な選択肢の中から講義を選ぶ必要がありました。ファーニホウやラッヘンマンの教えを受けた学生が、後に講師となるケースもありました。

ゾルフ・シェーファー時代

1996年から2008年までディレクターを務めたゾルフ・シェーファーは、ホンメルの形式を廃止し、講師陣を厳選しました。講習会はより専門的なものとなり、「小さな勉強会」としての性格を強めました。2002年にはパリのIRCAMと提携し、Max/MSPやOpenMusicといったソフトウェアのレクチャーや、トリスタン・ミュライユやエマニュエル・ヌネスらの電子音楽作品を取り上げました。

細川俊夫は長年にわたり講師を務めました。イザベル・ムンドリー、ジェニファー・ウォルシュ、サルヴァトーレ・シャリーノ、トリスタン・ミュライユなど、多様な才能を持つ作曲家が招聘されました。メイン講義以外にも、講師による個人レッスンや小規模なグループレッスンが行われ、学生同士の交流の機会が設けられました。

トマス・シェファー時代

2010年からはトマス・シェファーがディレクターに就任し、講師陣の若返りが図られました。ジェイムズ・ディロンや藤倉大などが招聘され、システムの更新が進められています。エレクトロニクスへの関心が重視されるようになり、シェーファー時代からの変化が見られます。

飛び入り参加やゲリラライブのような形式は縮小され、公式サイトで詳細なルールが定められています。

会場

講習会は、町の郊外にある高校を借りて行われます。オーケストラや大規模アンサンブルの演奏会は高校の体育館で、室内楽演奏会はオランジュリーで行われます。講習会は学生だけでなく一般にも公開されています。

近年の動向

ヨハネス・クライドラーは2012年にクラーニヒシュタイナー音楽賞を受賞し、電子メディアを使った新しい音楽思考を伴った前衛思想が提唱されています。

備考

INMM（Institut für Neue Musik und Musikerziehung Darmstadt）主催の「小ダルムシュタット」と呼ばれる講習会兼音楽祭も、毎年4月上旬に開催されています。

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