デーモレオーン

デーモレオーン（古希: Δημολέων, Dēmoleōn）という名は、ギリシア神話において複数の人物が持つ名前である。主に以下の三名がよく知られているほか、同名の人物がさらに存在する。

プリクソスの子

一人は、アイエーテースの娘カルキオペーと、金毛羊の毛皮を求めてコルキスに逃れたプリクソスとの間に生まれた子である。デーモレオーンは、プロニオス、アウトリュコス、プロギオスといった兄弟とともに名を挙げられる。プリクソスには、一般的にアルゴス、メラース、プロンティス、キュティッソーロスという息子たちがいるとされているが、デーモレオーンはこれらとは異なる系譜に属する息子の一人として伝わっている。

ケンタウロス

もう一人のデーモレオーンは、ラピテース族の王ペイリトオスとヒッポダメイアの婚礼に出席した、半人半馬の種族ケンタウロスの一員である。オウィディウスの著作『変身物語』において、この婚礼の宴で勃発したラピテース族とケンタウロス族の激しい争いの中でその最期が描かれている。デーモレオーンは、アテーナイの英雄テーセウスが次々と同族を倒していくのを見て憤慨し、彼を討とうと巨大な松の古木を根元からへし折り、テーセウス目掛けて力任せに投げつけた。しかし、テーセウスは素早く身を引いてこれを回避したため、投げられた松は不運にもプティーアーの王ペーレウスの楯持ちであったクラントールに命中し、彼の命を奪ってしまった。親友を殺されたペーレウスは激怒し、報復としてデーモレオーンに槍を投擲した。槍はデーモレオーンの脇腹を貫き、肺にまで達した。デーモレオーンは苦悶しながら槍を引き抜こうとしたが、穂先は肺に残ったままであった。それでもなお彼は戦意を失わず、前脚を振り上げてペーレウスを踏み潰そうと襲いかかった。ペーレウスは自らの兜と楯でその蹄を受け止めつつ、最後の一撃を与えてデーモレオーンを葬り去ったのである。

アンテーノールの子

三人目は、トロイアの老臣アンテーノールとテアーノーの子で、アルケロコス、アカマース、グラウコス、ヘリカーオーン、ラーオドコス、コオーン、ポリュボス、アゲーノール、イーピダマース、ラーオダマース、エウリュマコスら多くの兄弟を持つ人物である。ホメロスの叙事詩『イリアス』の中で、トロイア戦争における彼の最期が語られている。彼はトロイア軍の一員として戦場に立ったが、ギリシア軍の最大の英雄アキレウスが戦線に復帰し、その恐るべき武力でトロイア兵を次々と討ち取る中で、デーモレオーンもまた彼の犠牲となった。アキレウスはまずイーピティオーンを倒した後、次にデーモレオーンに狙いを定めた。デーモレオーンの頭部を狙ったアキレウスの投げた槍は、その兜を打ち砕き、頭蓋を貫通して彼の命を奪った。アキレウスはその後も勢いを止めず、ヒッポダマースやトロイアの王子ポリュドーロスといった多くの敵を討ち続けたのである。

その他の人物

上記の他にも、ラコーニア地方の人物ヒッパソスの子で、トロイア戦争中にパリスによって討たれたデーモレオーンという名前の人物が存在する。

このように、デーモレオーンという名前は、異なる家系や種族に属する複数の人物に用いられており、それぞれの神話の中で異なる役割や運命を辿ったことがわかる。

参考文献
アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫（1953年）
オウィディウス『変身物語（下）』中村善也訳、岩波文庫（1984年）
ホメロス『イリアス（下）』松平千秋訳、岩波文庫（1992年）
ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫（2005年）
クイントゥス『ギリシア戦記』松田治訳、講談社学術文庫（2000年）
『オデュッセイア／アルゴナウティカ』松平千秋・岡道男訳、講談社（1982年）

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