トップ屋

トップ屋とは

トップ屋とは、昭和30年代の週刊誌創刊ブームの時代に、出版社から依頼を受けて記事を執筆したフリーランスのジャーナリストやライターのことです。週刊誌の巻頭記事、すなわちトップ記事を依頼されて書くことが多かったため、この名前で呼ばれるようになりました。当時、梶山季之や草柳大蔵などが活躍し、テレビドラマ『トップ屋』によって一般にもその存在が知られるようになりました。

トップ屋の登場

1956年（昭和31年）に『週刊新潮』が創刊された際、文芸出版社である新潮社には記事を取材する記者や組織がありませんでした。そのため、トップ記事や特集記事を執筆できる人材として、元新聞記者、作家志望の新聞記者、ジャーナリスト志望の人材などを募集しました。これに応じた草柳大蔵、亀井龍夫、青地晨、梶山季之らが集まり、取材グループと原稿手直しグループに分かれ、社員ではなく社外記者として原稿料を支払う形で仕事を依頼しました。特に草柳大蔵をリーダーとする草柳グループが目立った存在となりました。

その後、1957年（昭和32年）に河出書房『週刊女性』、1958年（昭和33年）に集英社『週刊明星』、光文社『女性自身』、1959年（昭和34年）に文藝春秋社『週刊文春』などが創刊され、新潮社と同様の方式が取り入れられました。また、1959年（昭和34年）創刊の中央公論社『週刊公論』では、社員に大宅壮一の指導を受けさせつつ、トップ屋も起用しました。『女性自身』には創刊から草柳大蔵が参加し、梶山季之は『週刊明星』、続いて『週刊文春』に梶山グループとして参加しました。

『週刊朝日』編集長の扇谷正造が梶山季之に対して「トップ屋」と呼んだことがきっかけで、これらの記者全般を指す言葉として定着しました。その後、島田一男原作の映画『トップ屋取材帖』シリーズや、1960年（昭和35年）に丹波哲郎主演で放送されたテレビドラマ『トップ屋』によって、トップ屋という言葉は広く知られるようになりました。これらの作品では、主人公のトップ屋が空手や拳銃を使って活躍する姿が描かれていましたが、梶山は1960年（昭和35年）に『週刊公論』に坂出淳名義で「トップ屋は抗議する」という記事を書き、現実のトップ屋の実態を紹介しました。

様々な形態と人物

初期のトップ屋は、フリーランスでありながらも雑誌の専属のような形でしたが、欧米型の通信社のようなトップ屋集団を目指し、1959年（昭和34年）に『東京タイムズ』記者の北川衛らが「東京ペン」を設立しました。「東京ペン」は、山本富士子の婚約者が古屋丈晴という特ダネを得て『モダン日本』に売り込みましたが、『毎夕新聞』に転売されて掲載されたり、芸能界に関係の深い『週刊平凡』『週刊明星』『女性自身』がこれをデマだと報じたりしました。

1958年（昭和33年）創刊の『週刊実話』では、専属契約ではありませんでしたが、青柳淳郎の「青柳取材プロ」に多くの仕事を依頼し、皇太子妃決定、石原裕次郎と北原三枝の婚約、金田正一の愛人に子供がいることなどのスクープをものにしました。丹波哲郎もドラマ『トップ屋』出演のために青柳取材プロを見学しましたが、後に青柳取材プロに私生活をすっぱ抜かれることになりました。

『週刊実話』編集長だった田口澄は、新聞社向けの通信社だった「綜合通信」を買収し、トップ屋グループとして活動し、週刊誌や月刊誌などに記事を販売しました。『土曜漫画』編集長だった高橋猛もトップ屋に転じ、キャバレーチェーン経営者の福富太郎に「キャバレー太郎」というあだ名を付けて売り出したり、森川昭彦をセックス・ドクターとして話題にしたりしました。河出書房『知性』の編集長だった小石原昭は、会社倒産後、PR雑誌の編集会社「知性アイデアセンター」を設立し、スポンサーの広告料付きのパブリシティ記事を一般誌にも広く売り込みました。

元読売新聞の三田和夫と元毎日新聞の千田夏光は、アイデアを売る会社として三田コンサルティングを設立し、記事作成の他にテレビや映画の製作も行いましたが、1961年（昭和36年）に解散しました。

グループを組むことが多いトップ屋の中で、竹中労や清水一行は個人で依頼を受けるライターでした。竹中は『アサヒ芸能』などで芸能ネタの特集記事を主に書いていましたが、後に『女性自身』で芸能方面を引き受ける竹中班を作りました。清水は『週刊現代』に投資記事を書き始めたのをきっかけに小説を発表するようになりました。五島勉も個人で活動するトップ屋で、「深夜族」「ササヤキ族」といった流行語を生み出しました。フリーのトップ屋が署名原稿を書かされることもあり、代表的な人物として武田繁太郎、猪野健治などがいました。東京ペンにいた岡村昭彦は、その後カメラマンに転向し、ベトナム戦争に従軍して『ベトナム戦線従軍記』で名を馳せました。

記者が取材した原稿を仕上げる役割をリライター、アンカーと呼び、作家志望、評論家志望の人材が採用されました。『週刊新潮』では井上光晴、津村秀介、『週刊平凡』では後藤明生、『週刊文春』では小堺昭三、村島健一、『週刊女性』では丸元淑生、『女性自身』では千田夏光などがいました。井上光晴は、『週刊新潮』が共産党の内情を取材する際に目をつけられ、ドヤ街のルポなどを書くようになり、アンカーとして独自のスタイルを生み出し、「コメント中心主義」「藪の中スタイル」などと呼ばれました。

また、各社は徐々にネタの流出を恐れ、契約していたトップ屋を正社員にしたり、正社員に記事を書かせたりするようになりました。その流れで『週刊文春』では1961年（昭和36年）に梶山グループが解散し、梶山季之に小説『朝には死んでいた』を連載させました。「ルポライター」という言葉を使い始めたのも梶山季之で、フランス語の「ルポルタージュ」と英語の「ライター」を組み合わせた新語でしたが、業界で広く使われるようになりました。

事件とスクープ

1957年（昭和32年）に草柳大蔵が『週刊新潮』に書いた「八月六日の遺産-はじめてルポされたABCCの実態」は、ABCC（原爆傷害調査委員会）に関する初めての報道となりました。

梶山季之グループの記事では、『週刊明星』の「デートも邪魔する警職法!」が反響を呼び、政府法案が撤回されることになりました。また、『週刊文春』では、東京都知事選挙における有田八郎に対する怪文書事件の犯人を突き止め、警察による逮捕に導き、内閣調査室に関係する押田機関の存在を暴きました。梶山グループは梶山軍団とも呼ばれ、そのメンバーだった恩田貢はダグラス・グラマン事件、ロッキード事件などのスクープをものにしました。

1963年（昭和38年）には、『婦人倶楽部』に春日野八千代の偽手記が掲載されて抗議を受けましたが、この手記もある大阪在住のトップ屋がでっち上げたものでした。

1965年（昭和40年）に『週刊文春』の大竹宗美は、三矢研究の情報を社会党の楢崎弥之助に提供し、議論を呼び起こしました。同年、魚住純子の元所属プロダクションの社長がトップ屋の山口ナナにスキャンダルを売り込み、『週刊実話』に掲載されたため、魚住は告訴し、有罪となりました。

大鵬の結婚相手をすっぱ抜いた大滝譲司は、1969年（昭和44年）のプロ野球の黒い霧事件では、行方をくらました永易将之の独占インタビューを『内外タイムス』に掲載して注目を集めました。元CIAであり下山事件の真相を知っていると語っていた新谷波夫は、後にトップ屋となり、1966年（昭和41年）のビートルズ来日時にはガードマンとして潜り込んでメンバーの行動を漏らし、1969年（昭和44年）にデヴィ夫人が未亡人となった時にはマスコミ向けのスポークスマンとして活躍しました。

1970年（昭和45年）の富士銀行19億円不正融資事件では、情報が公開されていない状態で金融業界紙出身の初川三郎が『週刊実話』に特集記事を掲載してスクープとなりました。

トップ屋は、昭和の週刊誌の隆盛を支え、数々のスクープを生み出して社会に大きな影響を与えた存在でした。

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