ドードーナ

ドードーナ：古代ギリシャ最古の神託所の謎

ギリシャ北西部イピロス地方に位置するドードーナ（ドーリス方言: Δωδώνα, Dōdōna）は、古代ギリシャ最古の神託所として知られています。日本語表記ではドドナ、ドドーナ、ドドネなど、表記揺れが見られます。ヘロドトスによると、その起源は紀元前2千年紀にまで遡ると推測され、ホメーロスはドードーナをゼウスの神託所として記しています。

しかし、古代ギリシャの主要都市から遠く離れた立地が、デルポイの神託所に次ぐ地位に留まる要因となりました。アリストテレスは、ドードーナ周辺地域をヘラス（ギリシャ）の一部、ヘレネス（ギリシャ人）の起源地と位置づけています。神託所は当初テスプロティア人の支配下、後にモロシア人の手に渡り、古代ローマ時代、キリスト教が隆盛するまで宗教的に重要な聖域として機能していました。2023年には、ドードーナの神託の鉛板が「世界の記憶」に登録されました。

神託の方法と信仰

古くから伝わる記録によると、巫女や神官は神聖な洞窟で、オーク（カシまたはブナ）の葉のざわめきによって神託を得ていたとされます。近年の解釈では、オークの枝に吊るされた青銅製の風鈴のようなものが風で揺れて発する音だとされています。

ニコラス・ハモンドは、ドードーナの神託所が地母神ディオーネーに捧げられたものだったと主張します。このディオーネーは、時とともに一部がギリシャ神話の神ゼウスに取り込まれ、現在のギリシャ神話の一部を形成するようになったと考えられています。

歴史

初期の歴史

この神託所の最古の碑文はおよそ紀元前550年から500年頃のもので、ミケーネ文明初期の遺物も多数発掘されています。これらの遺物はアテネ国立考古学博物館や近隣のヨアニナの考古学博物館で展示されています。

神事は後期青銅器時代（ミケーネ文明）には既に一定の形式が確立されており、ミケーネ文明崩壊後の暗黒時代については記録が少ないものの、南ギリシアからの青銅製の奉納品（三脚など）から、アルカイック期（紀元前8世紀）には南ギリシアとの繋がりがあったことが示唆されています。また、紀元前8世紀にはイリュリア人による奉納品なども発見されており、紀元前650年までは北方の部族、その後は南方部族にとっても重要な場所となっていきました。

ドードーナでは、「ナイオスのゼウス」や「助言者ゼウス」としてゼウスが崇拝されていました。プルタルコスは、ドードーナにおけるゼウスへの崇拝は、デウカリオーンとピュラーが大洪水後に始めたと記しています。

最も古いドードーナへの言及はホメーロスによるもので、『イーリアス』ではアキレウスがドードーナのゼウスに祈りを捧げています。建物については言及されておらず、セロイと呼ばれる神官が地面に寝ていたとされています。ホメーロスは巫女については言及していません。

『オデュッセイア』では、オデュッセウスがドードーナを訪れ、帰郷の方法について神託を求めた話が描かれています。一部の研究者は、ドードーナは当初、巫女たちが地母神（レアーあるいはガイア）に祈る神託所であったと考えています。この地母神はディオーネーとも関連付けられ、古典時代にはギリシャ各地でディオーネーは小さな役割しか担っていませんでしたが、ドードーナではゼウスの妻であるヘーラーとは異なる重要な役割を持っていました。出土した碑文の多くは、ディオーネーとナイオスのゼウスに捧げられたものです。


紀元前4世紀直前には、小さな石の神殿が追加されたとされています。エウリピデスやヘロドトスの記述からは、この時代には巫女たちが存在していたことがわかります。

古典時代

デルポイのアポローンの神託所には及ばなかったものの、ドードーナの神託所はギリシャ世界で大きな名声を博していました。『アルゴナウティカ』では、イアーソンの船アルゴー号の材料にドードーナ産のオークが使われたため、予言能力を持っていたとされています。

紀元前290年頃、エピロス王ピュロス1世はドードーナを宗教的首都と定め、大規模な再建計画を実施しました。ゼウス神殿の改築、その他建造物の建設、競技会や音楽コンテストの開催、劇場建設などが行われました。

紀元前219年にはアイトーリア人の侵略で神殿が破壊されましたが、紀元前3世紀後半にはピリッポス5世によって再建され、紀元前167年のローマ軍による破壊後も、アウグストゥスによって紀元前31年に再建されています。2世紀にはパウサニアスがドードーナを訪れ、神聖な森は一本のオークの木だけになっていたと記しています。362年にはユリアヌス帝がペルシア遠征前に神託を求めています。

391年から392年、テオドシウス1世が非キリスト教の宗教活動を禁止し、聖なるオークの木が切り倒されるまで、巡礼者はドードーナを訪れていました。町は小さくなりましたが、ドードーナの司教テオドルスが431年のエフェソス公会議に参加していたことから、キリスト教徒にとっても重要な場所であったことがわかります。

ヘロドトス、ストラボン、その他の記述

ヘロドトスは、エジプトの祭司から聞いた話を『歴史』の中で伝えています。それによると、フェニキア人によってテバイから連れ去られた2人の巫女が、それぞれリビアとヘラスで神託所を設立したというものです。この話は、エジプトが古代文化の源泉であったことを示唆しています。ヘロドトスはまた、ドードーナの巫女たちから聞いたペレイアデス（鳩）と呼ばれる女予言者たちの話も記しています。

ストラボンは、神託所がペラスギによって設立されたと記しています。神託所のあったトマロス山周辺は、テスプロティア人、次にモロシア人が支配しました。ストラボンは、ピンダロスによると、元々は男性が予言をしていたとも記しています。


リチャード・クレーヴァーハウス・ジェッブ卿は、ドードーナのゼウスの二つ名「ネウオス」は水の神を指すとし、アケローオスがドードーナで特別な崇拝を受けていたと指摘しています。アリストテレスは、ヘラスをドードーナの一部に位置づけ、セロイ（神官）が住んでいたと述べています。セロイは、ヘレネス（ギリシャ人）やヘラスという語源と関連づけられています。


ドードーナは、古代ギリシャの宗教と文化を理解する上で重要な遺跡であり、その歴史と謎は今もなお研究者たちを魅了し続けています。考古学的調査や文献研究の進展によって、ドードーナに関する新たな知見が得られる可能性も残されています。

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