ニクズク科

ニクズク科（Myristicaceae）

モクレン目に分類されるニクズク科は、世界の熱帯地域に広く分布し、約20属500種が知られています。これらの植物は主に常緑性の木本で、高木から低木、まれにつる性の形態をとります。多くの種が独特の精油を含み、ときに心地よい香りを放ちます。枝はしばしば輪生状に広がることがあり、樹液は通常、赤色をしています。内部構造としては、一次維管束が管状であることや、木部にタンニンを含む管を持つことが特徴です。師管の色素体はS-typeを示し、節は単葉隙で3葉跡性です。

形態

葉

葉はほとんどの場合、茎に沿って二列に互い違いにつきます。葉柄はありますが、基部に托葉はありません。葉は単葉で縁に切れ込みがなく、革のような質感です。葉脈は羽状に広がり、特定の種では表面に腺点が見られることもあります。多くの種で分泌道が発達しており、気孔は平行に並んでいます。表面の毛は、基本的な構造として一本の毛が偽軸状に枝分かれした単列毛が見られます。

花

花は小型で、雄花と雌花が別の単性花です。たいていの種では雄株と雌株が分かれている雌雄異株ですが、まれに一つの株に両性の花がつく雌雄同株の種も存在します。花は葉の付け根、または幹から直接、あるいは枝の先端に集まって咲きます。花全体は放射状に対称で、漏斗形、鐘形、つぼ形、皿形など様々な形をしています。花被片は通常3枚ですが、2枚から5枚の範囲で見られることもあり、時に肉質です。色は白色、緑色、黄色などがあり、花被片は一列に並び、蕾のうちは敷石状に重なり、基部で合着しています。雄花には通常3個から30個の雄しべがあり、これらは一列に並び、多くの場合、花糸が合わさって一つの筒状の構造（単体雄しべ）を形成します。葯は外側に向いており、縦に裂けて花粉を出します。花粉は単溝粒、単孔粒、または無孔粒で、2細胞性です。雌花には1個の雌しべがあり、心皮は1個ですが不完全です。柱頭はしばしば二つに分かれます。子房は将来種子になる胚珠を一つ含み、花被よりも上にある上位子房です。胚珠は逆位で、二つの被膜に包まれ、胚珠の根部に胎座があります。胚嚢の形成はタデ型で、受精後の胚乳は核が自由に分裂する遊離核型です。蜜を出す腺はありません。

果実と種子

果実は液質または革質の袋果で、多くの場合、腹側と背側の両方の縫い目に沿って裂開しますが、まれに裂開しない種もあります。果実の中には通常、大きな種子が1個含まれています。この種子は、多くの場合、鮮やかで目を引く色の仮種皮に包まれています。種子の内部にある胚乳には、しばしば虫食いのような入り組んだ模様（錯道）が見られ、通常は油分が豊富です。胚はよく発達していますが、非常に小さいのが特徴です。種子が発芽する際、子葉は地中に残る性質があります。

化学成分と染色体

ニクズク科の植物は、ミリスチシンなどの幻覚誘発性を持つフェノール化合物のほか、アルカロイドやプロアントシアニジン、ケンペロールやクェルセチンといったフラボノールを含んでいます。一方で、シアン化物、イソキノリン、イリドイドといった成分は含まれていません。染色体数は種によって異なり、n=20, 22, 25, 26などが確認されています。

生態と利用

分布と生育環境

ニクズク科は、アジアからオーストラリア、アフリカ、アメリカ大陸にかけての熱帯地域に広く分布しており、主に低地の熱帯雨林に生育しています。

送粉と種子散布

花の受粉は、東南アジアでは小型の甲虫によって行われる例が多いです。特にニクズク属の雌花は、花粉を生産しないにもかかわらず、花粉を集めるハナバチを欺いて受粉を成立させていることが示唆されています。果実の仮種皮は薄いですが栄養価が高く、これを報酬として旧世界ではサイチョウ類やハト類、フウチョウ類、新世界ではオオハシ類や霊長類といった鳥類や哺乳類が種子を散布しています。

人間との関わり

最も有名な利用例は、ニクズク（Myristica fragrans）です。その種子の内部（胚乳）はナツメグ、種子を包む仮種皮はメースとして、香辛料として世界中で広く使われています。これらの香辛料への高い需要は、15世紀から16世紀にかけての大航海時代が始まった要因の一つとも言われています。ニクズク属の一部の種子は、薬用として用いられることもあります。また、Staudtia属やVirola属の植物は、木材としても利用されています。特にVirola属のいくつかの種は、幻覚誘発剤の原料として用いられることがあります。

分類と系統

ニクズク科は、古典的な新エングラー体系やクロンキスト体系、そして現在の主流であるAPG分類体系のいずれにおいても、モクレン目に分類されています。分子系統解析の結果から、モクレン目の系統樹の中で比較的初期に分岐したグループであると考えられています。現在、約20属500種が確認されているニクズク科内部の系統関係については、アフリカ・マダガスカルに分布するグループがまず分岐し、次にアジアからオーストラリアのグループが続き、中南米のグループが単系統群を形成することが示唆されています。

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