パミール人

パミール人

パミール人は、中央アジアのパミール高原一帯に居住する、イラン系の民族集団です。彼らは主にタジキスタンのゴルノ・バダフシャン自治州に集中して暮らしていますが、隣接するアフガニスタンのバダフシャーン州にも多くの共同体があります。パミール人は長い歴史の中で外部環境の変化に影響されつつも、独自の文化とアイデンティティを守り続けてきました。

民族的特徴と信仰

パミール人のアイデンティティを特徴づける核となるのは、彼らが話す固有の言語と信仰です。言語は、ゴルノ・バダフシャン地域に根差したパミール諸語を用います。これらはイラン語群の中でも、タジク語などが属する西イラン語群とは系統を異にする東イラン語群に分類される独立した言語群です。彼らは母語で自身を「パーミーリー」と呼ぶほか、歴史的な居住地であるバダフシャーンにちなんで「バダフシャーニー」と称することもあります。

宗教的には、大多数のパミール人がイスラム教シーア派の一派であるイスマーイール派、特にニザール派を篤く信仰しています。イスマーイール派の精神的指導者であるアーガー・ハーンは、パミール人社会において非常に大きな影響力を持っています。アーガー・ハーン財団は、ゴルノ・バダフシャン自治州で教育や医療、経済開発など多岐にわたる活動を展開しており、地域社会の発展に貢献する最大の非政府組織（NGO）となっています。ただし、パミール人の中には、少数ながらスンナ派イスラム教徒も数千人規模で存在するとされています。

パミール人は、その言語、文化、宗教的繋がりにおいて、周辺地域の特定の民族集団との類似点が多く見られます。例えば、アフガニスタンのバダフシャーン州に住む人々や、中国の新疆ウイグル自治区タシュクルガン・タジク自治県に暮らすサリーコリー語話者、パキスタン北部のギルギット・バルティスタンにあるゴジャール地区に住むワヒー語話者などが挙げられます。身体的な特徴として、特にルシャン地区やシュグナン地区出身者には、青や茶色の瞳を持つ人々が見られます。

政治的な枠組みにおける扱いは国によって異なります。中国では公式にタジク族の一部と見なされていますが、アフガニスタンでは独立した「パミール民族」として認識されており、アフガニスタン国歌にもその名が登場します。

歴史的背景

パミール人の民族的アイデンティティは、特に20世紀以降の政治的な状況により大きく揺れ動きました。1929年にゴルノ・バダフシャン地域が新しく設立されたタジク・ソビエト社会主義共和国に組み込まれたことが、アイデンティティを巡る論争の始まりとなりました。タジク人の一部からは、パミール諸語はタジク語の方言に過ぎず、パミール人はタジク人と同一であるとの主張がなされました。言語学的にはパミール諸語がタジク語とは異なる東イラン語群に属することが確認されましたが、ソビエト連邦の国家政策により、1937年以降、ルシャン語やシュグニー語などのパミール諸語の話者たちは「タジク人」として公式に登録されることとなりました。ソビエト時代には、経済開発などの目的で、一部のパミール人がヴァフシュ渓谷を離れ、現在のハトロン州クルガンテッパ地区へと移住させられた歴史もあります。

1991年にタジキスタンが独立すると、長らく抑圧されていたパミール人の独自のナショナリズムが一気に高まりました。彼らはゴルノ・バダフシャン自治州の自治権拡大や独自の権利を主張するため、「ラアリ・バダフシャン党」という政治勢力を結成し、州都ホログで政府に対する抗議活動を行いました。1992年には一時的にゴルノ・バダフシャンの独立が承認される動きも見られましたが、後に撤回されます。1992年から1997年にかけてタジキスタンで内戦が勃発すると、パミール人は一貫してタジク野党連合を支持しました。このため、内戦中にはドゥシャンベやクルガンテッパといった都市部に居住するパミール人が、タジク人勢力によって迫害される悲劇を経験しました。この時期には、ゴルノ・バダフシャン自治州の独立を目指す運動も積極的に展開されました。

著名な人物

パミール人の出身者には、文化や政治分野で活躍した人物がいます。音楽家で俳優のオレグ・フェーゾフやダレル・ナザーロフ、ルシャン地区出身の音楽家ムボラクショ・ミルザシャエフなどが知られています。また、映画監督のダフラト・フダナザーロフは1991年のタジキスタン大統領選挙に立候補するなど政治活動にも関わりました。歴史家・哲学者のアブサイード・シャフマロフも著名な一人です。

もう一度検索