バダフシャーン州

アフガニスタン北東部の要衝、バダフシャーン州

バダフシャーン州は、アフガニスタン北東部に位置し、タジキスタンと国境を接する州です。面積は約4万4836平方キロメートルで、北海道の半分ほどの広さを持ち、アフガニスタンの34州の中で5番目に大きい州です。人口は約90万人で、人口密度は1平方キロメートルあたり20人と、比較的低い値を示します。州都はファイザーバード市です。

名称の由来

バダフシャーンという名称は、かつてこの地域一帯を指す言葉でした。また、かつての首都であったバハラクに由来するという説もあります。この地は、歴史的に多様な文化が交錯する場所でした。

地理的特徴

バダフシャーン州は、パミール高原の外縁部とヒンドゥークシュ山脈に位置する山岳地帯です。パンジ川とコクチャ川の二つの主要な流域があり、パンジ川はワハーン回廊から西に流れ出し、その後北へ大きく蛇行します。州の北部はパンジ川に沿って逆U字型をしています。一方、コクチャ川は州南部の山岳地帯から流れ出し、州中央部を北上し、ファイザーバード付近で逆U字型に蛇行した後、タハール州へと流れます。この地形は、古くから交通の要衝として機能し、多くの人々がこの地を往来しました。

歴史

古代

古代には、この地域はインダス文明とメソポタミア文明を結ぶ交易路の一部でした。特に、サリ・サング鉱山から産出されるラピスラズリは、メソポタミア文明にとって重要な輸出品でした。この地を通る古道は、ヒンドゥークシュ山脈を越えてアムダリヤ川に至る重要な街道の一部でした。

中世

13世紀には、マルコ・ポーロがこの地を訪れました。当時のバダフシャーンは、独自の言語を持ち、獣皮の服を着た人々が住む王国でした。王はアレクサンダー大王の子孫を称し、バラス紅玉を独占的に採掘していました。マルコ・ポーロは、この地で1年間療養し、その豊かな自然と資源に感銘を受けました。

冷戦時代

冷戦時代には、ソ連軍とムジャーヒディーンの激戦地となりました。1980年には、ファイザーバードがソ連軍によって占領され、主要な防衛拠点となりました。この地域は、冷戦の最前線として重要な役割を果たしました。

冷戦終結後

冷戦終結後、バダフシャーン州はイスラム協会の拠点となりました。しかし、内戦や地震などの災害に見舞われ、混乱が続きました。2000年代に入ると、アメリカ同時多発テロ事件をきっかけに、アメリカ軍がアフガニスタンに侵攻し、この地域でも激しい戦闘が繰り広げられました。2015年には、ターリバーンが勢力を拡大し、州内の主要な地域を占領しました。

近年

近年では、ターリバーンとの戦闘が激化し、州内の金鉱がターリバーンの資金源となっています。また、ISのような外国人兵士の流入により、治安が悪化しています。2021年には、ターリバーンが州都ファイザーバードを占領し、政府軍は撤退を余儀なくされました。この地域は、現在も混乱が続いています。

行政区分

バダフシャーン州は、1市28郡から構成されており、郡の数はアフガニスタンで最も多いです。州西部には人口の多い地域が集中しており、特にファイザーバード周辺に多くの住民が暮らしています。また、コクチャ川沿いには、ファイザーバード市やジュルムなどの都市があります。

産業

バダフシャーン州は、農業が盛んで、大麦、米、アーモンドの生産量が全国的に上位にランクインしています。また、アヘンの栽培も行われていましたが、政府の取り締まりにより減少しました。一方、鉱業では、金鉱が重要な資源となっており、外国の企業が採掘権を獲得しています。

住民

バダフシャーン州の住民は、タジク人が最も多く、その他にウズベク人、パシュトゥーン人、トルクメン人、ヌーリスターン人などが暮らしています。また、パミール人もこの地域に居住しており、独自の文化を保持しています。言語はダリー語が主流ですが、ウズベク語やパシュトゥー語も使用されています。識字率は低いですが、少数民族は独自の言語も使用しています。

宗教

バダフシャーン州の住民は、シーア派のイスマーイール派（ニザール派）を信仰しており、特にパミール人にその傾向が強いです。

交通

州都ファイザーバードからタハール州やクンドゥーズ州に至る道があり、タジキスタンとの間にはパンジ川沿いにいくつかの国境の町があります。また、ファイザーバード空港をはじめ、州内には複数の空港が存在します。これらの交通網は、地域の物流や人々の移動を支えています。

バダフシャーン州は、その地理的条件や歴史的背景から、アフガニスタンの中でも特異な存在です。豊かな自然と資源に恵まれる一方で、紛争や災害に翻弄されてきました。今後、この地域がどのように発展していくのか、世界中が注目しています。

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