プサムテク1世

プサムテク1世：エジプト第26王朝の創始者

プサムテク1世（在位：紀元前664年 - 紀元前610年）は、エジプト第26王朝の初代ファラオであり、サイス王家の出身です。彼は、アッシリアとヌビアの支配からエジプトを解放し、土着エジプト人による最後の繁栄の時代を築きました。プサメティコス1世というギリシャ名でも知られています。

生涯

プサムテク1世は、サイスを治めるネコ1世の息子として生まれました。彼の家系は、リビア系のテフナクト1世を始祖とする第24王朝の血を引いていました。ネコ1世の時代までは、第24王朝を滅ぼしたヌビアの第25王朝に従属していましたが、アッシリアのエジプト侵攻が転機となります。

紀元前7世紀、アッシリアはエサルハドン王の下でエジプトに侵入し、第25王朝の王タハルカをヌビアへ追いやりました。アッシリアはネコ1世とプサムテク1世をそれぞれ「サイスの王」、「アトリビスの王」に任命し、エジプトを統治させました。

タハルカの後継者タヌトアメンは、紀元前664年に失地回復を目指して北上しましたが、ネコ1世はタヌトアメンとの戦いで敗死しました。ヘロドトスの記録によれば、プサムテク1世もアッシリアへ亡命したとされています。しかし、アッシュールバニパル王の遠征によりタヌトアメンが撃破され、第25王朝はエジプトから完全に撤退し、プサムテク1世は再び王位に就きました。この時点をもって、第26王朝の成立と見なされています。

青銅の人間

ヘロドトスの『歴史』には、プサムテク1世の治世に関する詳細な記録が残されています。プサムテク1世が王位に就いた頃、他の下エジプトの支配者達との対立により、沼沢地帯へ追いやられました。報復を望んだプサムテク1世は、レートーの神託所に使者を送り、「青銅の男子らが海より出現する時、報復は遂げられん」という神託を受けました。彼はこの予言を疑っていましたが、イオニア系ギリシア人とカリア人の一隊がエジプトに漂着し、青銅製の武具で武装しているのを見たエジプト人は、「青銅の人間が現れて平野を荒らしている」と報告しました。プサムテク1世は神託が実現したことを悟り、ギリシア人とカリア人を自軍に引き入れ、彼らの助けを得て下エジプトを統一することに成功しました。

ギリシア人とカリア人はその後、ナイル川のペルシウム支流に居住し、後にイアフメス2世によってメンフィスに移され、王の護衛隊となりました。ギリシア人達は彼らによって、その後のエジプトの歴史を知ることができたと言われています。

アッシリアからの独立

プサムテク1世は、アッシリアの宗主権下で下エジプトの支配者達との戦いを繰り広げ、下エジプトにおける支配を確立しました。その後、上エジプトのテーベに対しても自らの権威を承認させました。第25王朝時代よりテーベの長官の地位にあったメンチュエムハトはプサムテク1世の娘ニトクリスが、「アメンの聖妻」の地位に着くことを受け入れました。

国内における支配を確立したプサムテク1世は、新王国の行政制度を手本とした内政改革に取り掛かりました。称号は古王国風のものが採用され、「過去の栄光」が追求されました。この傾向は美術品にも強く影響し、古王国や中王国風の様式を手本とした復古的な美術様式が形成されました。この動きは「サイス・ルネサンス」と呼ばれ、この時期に作成された彫像やレリーフの中には、現代の学者が古王国時代と第26王朝時代のものか判別困難なものもあります。

オリエントにおけるアッシリアの勢力が縮小に転じると、紀元前653年頃までにはその宗主権下から離脱し、シリア方面への勢力拡大を図りました。ヘロドトスの記録によれば、プサメティコス1世はアシュドドを29年間かけて陥落させました。一方でこの頃オリエントに侵入したスキタイ人がシリア地方に入ると、プサメティコス1世は「贈り物と泣き落としで」彼らの攻撃を回避したと言われています。

アッシリアの滅亡

アッシリアではアッシュールバニパル王の治世末期頃から急速に弱体化し、メディアと新バビロニアが同盟を結んでアッシリアを攻撃し、首都ニネヴェを制圧しました。

プサムテク1世は、かつての支配者アッシリアを助ける道を選び、紀元前616年にはシリアへ出兵して新バビロニア軍と戦いました。しかし、アッシリアの首都ニネヴェは陥落し、アッシリア貴族アッシュール・ウバリト2世がハランへと逃れました。

プサムテク1世は紀元前610年に没し、息子のネコ2世が王位を継承しました。エジプトはその後もアッシリアへの支援を続けましたが、新バビロニア軍との戦いに敗れ、紀元前609年にアッシリアは滅亡しました。

近年の発見

2017年3月9日、カイロ郊外で巨大な像の断片が発見され、彫像の基部に彫られた名前からプサムテク1世のものである可能性が高いと推測されました。珪岩で作られた像は胸部と頭部からなり、全身を含めた高さは約7.9メートルになると見積もられています。

参考文献

杉勇、「四国対立時代」『岩波講座世界歴史1 古代1』（旧版）岩波書店、1969年。
ロマン・ギルシュマン著、岡崎敬他訳『イランの古代文化』平凡社、1970年。
ヘロドトス著、松平千秋訳 『歴史 上』岩波書店、1971年。
ヘロドトス著、松平千秋訳 『歴史 中』岩波書店、1972年。
A.マラマット、H.タドモール著、石田友雄訳『ユダヤ民族史1 古代編1』六興出版、1976年。
ジャック・フィネガン著、三笠宮崇仁訳『考古学から見た古代オリエント史』岩波書店、1983年。
高橋正男『年表 古代オリエント史』時事通信社、1993年。
小川英雄、山本由美子『世界の歴史4 オリエント世界の発展』中央公論新社、1997年。
大貫良夫他『世界の歴史1 人類の起源と古代オリエント』中央公論新社、1998年。
ピーター・クレイトン著、吉村作治監修、藤沢邦子訳、『ファラオ歴代誌』創元社、1999年。
山我哲雄『聖書時代史 旧約編』岩波書店、2003年。

関連項目

エジプト第26王朝
* サイス

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