プブリウス・セルウィリウス・ウァティア・イサウリクス (紀元前48年の執政官)

プブリウス・セルウィリウス・ウァティア・イサウリクス

プブリウス・セルウィリウス・ウァティア・イサウリクス（紀元前94年ごろ - 没年不明）は、共和政ローマ末期の政治家であり、軍人です。紀元前48年には執政官（コンスル）を務めました。

出自

セルウィリウス氏族は、元々は古いパトリキ（貴族）の氏族でしたが、共和政末期にはプレブス系の家も台頭し、イサウリクスが属するセルウィリウス・ウァティア家はプレブス系でした。ただし、パトリキ系のセルウィリウス・カエピオ家との繋がりがありました。

イサウリクスの父は、紀元前79年の執政官プブリウス・セルウィリウス・ウァティア・イサウリクスであり、スッラの有力な支持者でした。祖父のガイウス・セルウィリウス・ウァティアは、紀元前115年前後に法務官（プラエトル）としてマケドニア属州総督を務め、ウァティアのコグノーメン（家族名）は祖父が使い始めました。

また、イサウリクスの父方の祖母は、クィントゥス・カエキリウス・メテッルス・マケドニクスであり、この関係を通じて、イサウリクスは当時最も有力な一族であったカエキリウス・メテッルス家と親しい関係を築いていました。

経歴

初期の経歴

法務官（プラエトル）就任年とコルネリウス法の年齢要件から、歴史学者はイサウリクスの生誕年を紀元前94年ごろと推定しています。父プブリウスは非常に厳格で、イサウリクスをしつけのために鞭を使ったほどでした。マルクス・カエリウス・ルフス（紀元前48年法務官）は、イサウリクスの最初の執政官のときに、このエピソードを皮肉な冗談として使っています。

イサウリクスに関する最初の記録は紀元前60年のもので、当時彼は元老院議員であり、財務官（クァエストル）経験者でした。キケロは紀元前60年3月の元老院会議で、イサウリクスが最後に発言したと述べています。この頃までに、イサウリクスは影響力のある政治家マルクス・ポルキウス・カト・ウティケンシスの姪と結婚しており、カトの支援者の一人となっていました。そのため、紀元前60年にはカトと共に、ティトゥス・ポンポニウス・アッティクスに対する債務を抱えていたギリシアの都市シキオンの弁護を行っています。

紀元前56年、イサウリクスはカトの義子のマルクス・カルプルニウス・ビブルスやマルクス・ファウォニウスと共に、エジプト王プトレマイオス12世の復位問題に関して、ポンペイウスに反対しました。当時ローマに亡命していたプトレマイオスは、王位復帰の支援を求めていましたが、ポンペイウスはカエサルやクラッススとの同盟関係を背景に、軍事力を用いてプトレマイオスを復位させ、エジプト侵攻軍の指揮を執ることを望んでいました。これに対し、イサウリクスらは軍事力を用いず、大使を派遣することを主張し、ポンペイウスの権力に公然と異議を唱えました。結果的に、ポンペイウスはエジプト関連の計画を放棄せざるを得ませんでした。

紀元前54年、イサウリクスは法務官に就任します。同僚の一人はカトでした。この職権において、ガリアの総督代理であったガイウス・メッシウスを裁判のためにローマに召喚していますが、告訴内容や事件の政治的背景は不明です。同年、アッロブロゲス族の反乱を鎮圧した前法務官ガイウス・ポンプティヌスが凱旋式の実施を求めた際、イサウリクスはカトと共に、ポンプティヌスに一日だけローマ市内での軍の指揮権を認める法に反対し、ローマ市内での儀式を禁じようとしました。しかし、元老院や他の政務官は彼らを支持せず、最終的にポンプティヌスの凱旋式は実施されました。

カエサル派へ

紀元前49年にポンペイウスとカエサルの内戦が勃発すると、イサウリクスはカエサルを強く支持しました。プルタルコスによれば、紀元前48年末にルキウス・カルプルニウス・ピソ・カエソニヌスがカエサルに和平交渉の開始を提案した際、イサウリクスは反対したとされています。紀元前49年12月、カエサルはイサウリクスを次期執政官に任命しました。ロシアの歴史学者A. イエゴロフによると、イサウリクスは「穏健な政策を続ける」と宣言し、既得権益者であるノビレス（新貴族）に対し、急進的な措置を取らないことを約束しました。

カエサルがポンペイウスと戦うためにバルカン半島に出征している間、イサウリクスは執政官としてローマに留まりました。この時期、ローマでは法務官マルクス・ケリウス・ルフスが騒動を起こし、債務の帳消しや家賃の免除などを主張しました。元老院はルフスを解任することを決定し、イサウリクスは元老院の決定に基づき、ルフスを追放し、フォルムでの演説を禁じました。ルフスはローマを離れ、ティトゥス・アンニウス・ミロと同盟して反乱を起こしましたが、敗れて死亡しました。ポンペイウスがファルサルスの戦いで敗北したとの報告がローマに届くと、イサウリクスは元老院の決定に基づき、カエサルをディクタトル（独裁官）に任命しました。

紀元前46年から44年まで、イサウリクスはアシア属州総督を務めました。彼は内戦とポントスの侵略に苦しんでいた地域を安定させるために多くの政策を実施しました。この間、キケロからイサウリクスに宛てた7通の手紙が残っており、友情の保証や様々な人々への推薦状が含まれています。イサウリクスの名前は、ペルガモン、スミルナ、エフェソス、マグネシア、テノスといった小アジアの都市に残る碑文に刻まれており、地方の人々が宗教の保護に対する感謝を述べています。

カエサル暗殺後

紀元前44年の夏にローマに戻ったイサウリクスは、父の死とカエサルの暗殺を知ります。カエサル派と暗殺者派の間で激しい政治闘争が勃発し、イサウリクスは両派の中間に位置することになりました。カエサル派には多くの友人がいましたが、暗殺者の中には彼の親族も含まれていました。マルクス・ユニウス・ブルトゥスとガイウス・カッシウス・ロンギヌスは義兄弟でした。紀元前44年9月初旬、イサウリクスはキケロやピソ・カエソニヌスと共に、カエサル暗殺者に対する報復を求めるマルクス・アントニウスを抑えました。紀元前43年1月には、キケロ、ルキウス・マルキウス・ピリップス、セルウィウス・スルピキウス・ルフスと共に、カエサルの後継者オクタウィアヌスに、コルネリウス法の規定よりも早く高位政務官職に就任することを認め、元老院議員とするとともに財務官および法務官権限を与えました。オプティマテス（門閥派）に属していたイサウリクスは、アントニウスに対抗するためにオクタウィアヌスを利用しようと期待していました。

その後、オクタウィアヌスはアントニウスと戦うことになります。3月20日、元老院はガリア・ナルボネンシス属州総督マルクス・アエミリウス・レピドゥスからの、アントニウスとの和平締結を提案する書簡を読み上げましたが、イサウリクスはこれに激しく反対しました。4月の終わりには、ムティナの戦いでアントニウスが敗北したとの報告がローマに届き、イサウリクスは祝勝会の開催を提案しました。同じ元老院会議で、彼はシリア属州総督で過激なカエサル派であるプブリウス・コルネリウス・ドラッベラに対する戦争を求めるロンギヌスを支持しました。

しかし、状況は劇的に変化します。レピドゥスとガリア・キサルピナ属州総督ルキウス・ムナティウス・プランクスがアントニウスに味方し、夏にはオクタウィアヌスが補充執政官に就任しました。おそらく元老院の多数派の支持を得るためであったと思われますが、オクタウィアヌスはイサウリクスの娘との結婚を交渉しました。実際には、同年末にオクタウィアヌスはアントニウス、レピドゥスと同盟を結び（第二次三頭政治）、アントニウスの連れ子であるクロディア・プルクラと結婚しました。一方、プルケルは見返りとして紀元前41年に二度目の執政官に就任しています。

その後

二度目の執政官の同僚は、アントニウスの弟ルキウス・アントニウスでした。この頃には、ローマを支配していたのは元老院ではなく、軍とそれを率いる将軍達でした。執政官任期満了後のイサウリクスに関する記録はなく、長生きした可能性もあります。4世紀の歴史家フェストゥスが言及しているアウグル（鳥占官）のプブリウス・セルウィリウスは、イサウリクスのことであると考えられています。

家族

イサウリクスはデキムス・ユニウス・シラヌスの娘ユニアと結婚しました。ユニアはカトの姪であり、小カエピオの孫娘にあたります。ユニアの半兄はマルクス・ユニウス・ブルトゥスで、姉または妹がガイウス・カッシウス・ロンギヌスとマルクス・アエミリウス・レピドゥスと結婚しています。

イサウリクスとユニアの間には多くの子供がいましたが、記録に残っているのは二人のみです。息子プブリウスは紀元前25年に法務官を務めています。娘セルウィリアは、オクタウィアヌスと婚約しましたが結婚はせず、後にレピドゥスの息子と結婚しました。

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