ベクタシュ教団

ベクタシュ教団：神秘主義と歴史の融合

ベクタシュ教団は、13世紀にアナトリアで興った十二イマーム派（シーア派）をルーツとする神秘主義的なスーフィズム教団です。創始者であるハジュ・ベクタシュ聖者の教えを礎に、その後カランダリー教団やフルフィー教団などの影響を受けながら発展を遂げました。

この教団の中心的な信仰は、シーア派における重要な人物であるアリー・イブン・アビー・ターリブへの深い崇敬にあります。アレヴィー派と同様にアリーを崇拝する点から、正統派イスラムからはしばしば異端視されてきました。しかし、その独自の哲学や文化は、農民から知識層まで、幅広い人々に支持され、オスマン帝国社会に大きな影響を与えました。特にアレヴィー派とは密接な関係にあり、現代トルコでは両者は一体として語られることが多いです。

ベクタシュ教団の信条は、他のイスラム神秘主義運動と共通する点が多い一方、独自の要素も持ち合わせています。精神的な指導者である「ババ」の存在、シャリーア（イスラム法）、タリーカ（精神的指針）、マーリファ（体験的知識）、ハキーカ（現実）といった4つの柱を重視しています。

特に、イブン・アラービーの存在一性論を強調しており、これは万有在神論と近しい概念ですが、西洋ではしばしば汎神論と誤解されています。この存在一性論に基づき、アッラー、ムハンマド、アリーは統一された実性として理解されますが、キリスト教の三位一体とは異なります。

独特の儀礼食「ムハッベト」やババへの罪状告白など、クルアーンやスンナとは異なる解釈に基づいた儀式が行われます。また、ガザーリーやルーミーといった他の神秘主義者への崇敬も特徴です。信徒は通過儀礼を経て霊的な成長を遂げ、最終的にはババとなり、他の信徒を導く役割を担います。ババにも階級があり、最上位のデデババは教団全体のトップとして、トルコ・ハジベクタシュ村のハジュ・ベクタシュ廟付近に居住しています。

歴史的には、オスマン帝国において大きな発展を遂げ、コンスタンティノープル（イスタンブール）やバルカン半島全域に支部を広げました。イェニチェリとの強い結びつきも知られています。しかし、1826年のイェニチェリ廃止後、マフムト2世によって禁教され、厳しい弾圧を受けました。その後、タンジマート期に勢力を回復し、イスタンブールに設立されたロバート大学との関係も興味深い点です。

トルコ共和国成立後の1925年には、ケマル・アタテュルク政権下で再び全スーフィズム教団が禁教となり、指導者たちはアルバニアへ亡命しました。アルバニアでは、スンナ派とは異なるセクトとして認識され、独自の宗教共同体を築き上げました。第二次世界大戦後には共産主義政権による弾圧を受けましたが、1990年の宗教自由化以降は再建され、現在も多くのハーンカーフ（修道場）が存在しています。

バルカン半島ではアルバニア、ギリシャ、ブルガリア、マケドニアなど、多くの地域でイスラム教の普及に貢献しました。特にアルバニアでは、18世紀までに多くの信徒を獲得し、トルコからの亡命後は、アルバニアのティラナを新たな中心地としました。

現在でも、アルバニア、マケドニア、コソボなどのアルバニア人居住地域に信徒の共同体が存在し、テトヴォのハラバティ・ババ修道場などが有名です。また、17世紀のユダヤ系「メシア」シャブタイ・ツヴィがベクタシュ教団に影響を受けたことでも知られています。

近年では、アルバニアでバチカンをモデルとしたベクタシュ教団独自のミニ宗教国家の建設が提案されており、2024年9月にはエディ・ラマ首相がその計画を支持しました。この提案は、女性の衣服の自由や飲酒の容認など、従来のイスラム教国家とは異なる特徴を持つものとして注目されています。ベクタシュ教団は、その歴史と神秘主義的な信条を通して、現代においても独自の道を歩み続けています。

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