ボエモン1世 (アンティオキア公)

ボエモン1世：十字軍の勇将、その生涯

ボエモン1世（Boemondo I d'Antiochia、1054年頃 - 1111年3月5日または7日）は、11世紀から12世紀にかけて活躍したノルマン人の貴族です。彼はターラント公（在位1089年 - 1111年）とアンティオキア公（在位1098年 - 1111年）の地位を歴任し、その名を歴史に刻みました。

若年期

ボエモンは、アプリア伯兼カラブリア伯ロベルト・イル・グイスカルドと、その最初の妻アルベラダの間に生まれました。彼の誕生年は1050年から1058年の間とされ、1054年生まれとする説が有力です。洗礼名はマルコであり、これは生地とされるサン・マルコ・アルジェンターノ城に由来すると考えられています。

父ロベルトとアルベラダは教会法に触れるほどの近親関係にあったため、1058年に離婚を余儀なくされました。ロベルトはその後、ランゴバルド人のサレルノ公ギスギフ2世の妹シセルガティアと再婚しました。この再婚により、ボエモンは嫡出子としての地位を失い、ロベルトの落とし子という立場になりました。アルベラダはその後、ロベルトの甥リッカルド・ディ・オートヴィルと再婚し、ボエモンに騎士道教育を施しました。

ボエモンは、母国語である古ノルマン語に加え、ロンバルド語を読み書きでき、中世ギリシャ語も話すことができたと考えられています。

1073年初頭、父ロベルトが重病に倒れると、後妻シセルガティアは、自身の息子ルッジェーロ・ボルサを後継者にしようと画策しました。しかし、ロベルトの甥アベラードがこれに反発し、後継者争いが勃発しました。

ビザンツ戦役

1079年、ボエモンは父の軍勢に従い、カプア伯ジョルダーノ1世らの反乱鎮圧に参加しました。1081年初頭には、父ロベルトの命により、ビザンツ帝国に対する遠征軍の前衛部隊を率い、ヴローナを占領しました。その後、ケルキラ島への進軍を断念し、ブトリントで父の到着を待ちました。

同年5月、父率いる本隊が到着すると、ノルマン軍はドゥッラキウムの包囲を開始しました。ビザンツ皇帝アレクシオス1世コムネノスは救援軍を率いてノルマン軍と対峙しましたが、10月18日の決戦で、ボエモンはノルマン軍左翼を率い、ビザンツ軍の精鋭ヴァラング親衛隊を壊滅させる活躍を見せ、ノルマン軍が勝利しました。

1082年2月、ドゥッラキウムを占領したノルマン軍は、エグナティア街道沿いにカストリアまで進軍しました。しかし、アレクシオス帝の策略により、南イタリアで反乱が勃発したため、父ロベルトはギリシャを離れイタリアへ帰還しました。ボエモンはバルカン半島のノルマン軍総指揮官に任じられ、ヨアニア・アルタでビザンツ軍を打ち破り、マケドニア・テッサリアの大半を制圧しました。しかし、ラリサ包囲戦は失敗に終わり、物資不足や兵士の脱走が相次いだため、ボエモンは一時帰国し、経済支援を求めました。この間、多くのノルマン兵がビザンツ側に寝返り、ドゥッラキウムとケルキラ島は奪還されました。

1084年、ボエモンは父による2度目のビザンツ帝国遠征にも参加しましたが、病に倒れ同年12月に帰還しました。

継承戦争

1085年7月、父ロベルトがケファロニア島で亡くなると、後妻シセルガティアによる毒殺説が囁かれました。シセルガティアは自身の息子ルッジェーロ・ボルサを後継者にしようと試みましたが、ボエモンは自身こそが正当な後継者であると主張しました。ボエモンとルッジェーロは和解し、ボエモンはオーリア、オトラント、ガッリーポリ、ブリンディジを獲得しましたが、ロベルトの後継者にはルッジェーロが選出されました。

1087年秋、ボエモンは再び兄弟ルッジェーロと戦争を再開しました。この内戦により、ノルマン人はローマ教皇ウルバヌス2世を支援できず、教皇と対立していたボエモンの叔父ルッジェーロ1世が勢力を拡大するきっかけとなりました。1090年には、ボエモンはバーリを征服し、メルフィ地域を制圧しました。

第1回十字軍

1097年、ボエモンは叔父シチリア伯ルッジェーロ1世と共にアマルフィを攻撃していましたが、ちょうどその頃、十字軍がコンスタンティノープルに向かっていることを知りました。彼は十字軍に参加しましたが、その動機が宗教的なものだったのか、あるいは中東での領土獲得を狙ったものだったのかは定かではありません。しかし、イタリアでの将来性が乏しかったことや、東方での略奪を望んでいたという指摘もあります。

ボエモンは騎士500騎、歩兵2500-3500人、甥タンクレードの軍団約2000人からなるノルマン軍団を率いて十字軍に参加しました。彼らは東方戦役で活躍した精鋭部隊として知られ、多くの兵士は東ローマ帝国での傭兵経験を持っていました。ボエモンは慎重に進軍し、東ローマ帝国との関係悪化を避けようとしました。

1097年4月、ボエモン軍はコンスタンティノープルに到着しました。彼はアレクシオス帝に忠誠を誓い、他の十字軍諸侯にも忠誠を誓うよう求めました。ボエモンは、十字軍が奪還するであろう旧東方領の領有権についてアレクシオス帝と交渉したと考えられています。ボエモンはギリシャ語が堪能で、十字軍諸侯とアレクシオス帝の間を取り持ち、皇帝への忠誠を示そうとしました。

アンティオキアへ進軍中、ボエモンは戦略家、軍事指導者として際立った存在でした。彼は東ローマやテュルク人の戦術に精通しており、ニケーア包囲戦ではテュルク人の周回戦術にも対応しました。また、アレクシオス帝の娘アンナ・コムネナは、著書『アレクシアス』の中で、ボエモンの容姿や様子について詳細に記述しています。

ボエモンはアンティオキア包囲戦中、十字軍を最大限に利用する機会をうかがっていました。甥タンクレードが本隊から離脱し、キリキアで足がかりを築こうとした頃から、ボエモンは東方に公国を建国する野望を抱き始めました。彼は1097年10月、アンティオキア近辺に一番乗りで陣を敷き、セルジュークの救援軍を撃退しました。包囲戦では実質的な総指揮官として活躍しました。

包囲戦中、ボエモンはアンティオキア城壁守備隊の指揮官フィローズと交渉し、1098年5月、フィローズの裏切りによりノルマン軍はアンティオキアを制圧しました。その後、セルジューク軍がアンティオキアを包囲しましたが、ボエモンは十字軍を率いてセルジューク軍を撃退しました。彼はアンティオキアの支配権を強く望みましたが、同じく十字軍を率いていたトゥールーズ伯レーモンがこれを拒否しました。ボエモンはアレクシオス帝が救援に来なかったことを理由に、東ローマ帝国との約束を反故にしました。1099年1月、他の十字軍諸侯がエルサレムへ向けて南進したため、レーモン伯はアンティオキアをあきらめ、ボエモンはアンティオキア公となりました。

十字軍本隊がエルサレムを制圧した後、ボエモンは東ローマ支配下のラタキアを包囲しましたが、レーモン伯らの説得により包囲を解きました。1099年クリスマス、ボエモンはエルサレムに向かい、ダゴベルト・ディ・ピサのエルサレム総大司教就任式に出席しました。彼はエルサレムとの関係を構築し、ローマ教皇の好意を得ようとしました。しかし、アンティオキアは東ローマ帝国とムスリム王朝という二つの敵対勢力に囲まれており、ボエモンは最終的に敗れてしまいます。

東ローマとの戦争

1100年、ボエモンはアルメニア人領主ガブリエルから救援を求められ、メリテネへ向かいましたが、テュルク軍の奇襲を受け捕虜となりました。彼は鎖に繋がれ、1103年まで囚われ続けました。

アレクシオス帝はボエモンがアンティオキアを保持し続けたことに激怒し、ボエモンの捕虜交換に尽力したものの、ダニシュメンド朝に身代金を支払うことになりました。1103年8月、ボエモンは身代金と引き換えに解放され、アンティオキアに帰還しました。この解放には、アルメニア人領主コグ・ヴァシルも貢献したと伝えられています。

ボエモンの甥タンクレードは、ボエモンが捕虜となっている間、摂政として公国を統治し、キリキア地方を公国領に加えました。ボエモンの帰還後、タンクレードは摂政の任を解かれ、ボエモンはアレッポへの攻撃や物資の供給ルート確保を行いました。一方、トリポリ伯レーモンがトリポリ伯国を建国したことで、公国の南への勢力拡大は阻止されました。

1104年、ボエモンはハッラーンを攻撃しましたが、大セルジューク朝軍に大敗を喫し、公国の東方拡大政策は頓挫しました。また、東ローマ軍がキリキア地方への攻勢を開始したため、ボエモンはヨーロッパに帰還し、新たな軍勢を集めることにしました。彼は聖遺物や十字軍での武勇伝を語り、多くの者を魅了しました。

彼はフランス王フィリップ1世の姉コンスタンスと結婚し、二人の間に生まれた子はボエモン2世としてアンティオキア公、ターラント公を継承しました。

ボエモンは、アンティオキア公国を維持する上で問題の根源がアレクシオス帝とコンスタンティノープルにあると考え、1106年初頭、アレクシオス帝を激しく非難する演説を行いました。

彼は新たに招集した34,000人の大軍を率い、東ローマ帝国への攻勢を強めましたが、ヴェネツィア共和国の支援を受けた東ローマ帝国に敗れ、講和を余儀なくされました。

1108年、ボエモンはデヴォル条約を締結し、セバストスという称号を与えられ、皇帝の家臣となりました。彼は給付金の受け取りや領土割譲を認め、アンティオキアにおけるギリシャ人司教の受け入れを約束しました。条約締結から6ヶ月後、ボエモンは失意のうちに亡くなりました。彼の死により条約は効力を失い、アンティオキアはノルマン人の支配下に留まりました。

1111年、ボエモンはアプリアのカノーザに埋葬されました。

文学におけるボエモン1世

ボエモン1世に関する文献は数多く、中でも『フランク人の事績』、『アレクシアス』、『タンクレードの事績』などが重要です。また、歴史家による伝記や小説にもボエモンが登場しています。

出典

文献

Ghisalberti, Albert M. (ed) Dizionario Biografico degli Italiani. Rome.

参考文献

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