大セルジューク朝

大セルジューク朝の興亡

大セルジューク朝は、11世紀から13世紀にかけて、現在のイランを中心とする広大な地域を支配したトルコ系のイスラム帝国です。オグズ族のキニク部族出身のセルジューク家が建国し、その支配領域は最盛期にはアナトリア半島から中央アジア、そしてペルシャ湾にまで及びました。この帝国は、政治、文化、軍事の各分野において大きな影響力を持ち、中世イスラム世界の歴史において重要な役割を果たしました。

建国と拡大

セルジューク家の祖先であるセルジュークは、10世紀にイスラム教に改宗し、軍人としてホラズムに移住しました。その後、セルジューク族はサーマーン朝と連合してカラハン朝に対抗しましたが、ガズナ朝の台頭により、一時的にその支配下に置かれることになります。しかし、セルジュークの孫であるトゥグリル・ベグとチャグリー・ベグの兄弟が11世紀に勢力を拡大し、1037年にメルブとニーシャープールを占領。これが大セルジューク朝の始まりとなりました。

その後、セルジューク朝はホラサンを制圧し、1040年のダンダーナカーンの戦いでガズナ朝を破り、西へと勢力を広げました。1055年には、トゥグリル・ベグがアッバース朝カリフから委託を受け、シーア派のブワイフ朝からバグダードを奪取し、その勢力を不動のものとしました。

最盛期と文化

トゥグリル・ベグの後を継いだアルプ・アルスラーンは、アナトリア半島への侵攻を本格化させ、1071年のマラズギルトの戦いで東ローマ帝国に大勝。アナトリア半島におけるトルコ勢力の拡大を決定づけました。さらに、アルプ・アルスラーンの後継者マリク・シャーの時代には、帝国は最大版図を誇り、政治、経済、文化が最も繁栄しました。

マリク・シャーは首都をエスファハーンに移し、ニザームルムルクをワズィール（宰相）として重用しました。ニザームルムルクはイクター制を導入し、軍事組織を強化、バグダードにはニザーミーヤ学院を創設し、学問の発展に貢献しました。この時代は大セルジューク朝の黄金時代とされ、ペルシャ文化が栄え、ウマル・ハイヤームやガザーリーといった著名な学者や文化人が活躍しました。

分裂と衰退

しかし、マリク・シャーの死後、後継者争いによって帝国は分裂。各地で独立勢力が台頭し、勢力は急速に衰退します。1118年にはアフマド・サンジャルが帝国を掌握しましたが、分裂は止まらず、各地のアタベク（地方長官）が独立傾向を強めました。

さらに、西遼の侵攻、ホラズム・シャー朝の台頭、そして十字軍の遠征など、内外からの圧力によって、帝国の力は徐々に弱まっていきました。1194年、トゥグリル3世がホラズム・シャー朝によって倒されたことで、大セルジューク朝は完全に滅亡しました。しかし、アナトリア半島のルーム・セルジューク朝がその遺産を継承しました。

大セルジューク朝の遺産

大セルジューク朝は、その短い歴史の中で、イスラム世界の政治、文化に多大な影響を与えました。彼らは、分裂していたイスラム世界を一時的に統一し、スンナ派イスラムの勢力を拡大しました。また、ペルシャ文化を保護し、発展させたことで、後のイスラム世界における文化的な繁栄の基礎を築きました。

セルジューク族の支配は、トルコ系遊牧民の部族組織をモデルとし、家族連合やアパナージュ制を採用していました。このシステムは、後のトルコ系国家の統治にも影響を与えました。

また、大セルジューク朝の時代にトルコ人がアナトリア半島に進出したことは、その後の歴史において非常に大きな出来事でした。彼らの進出は、アナトリア半島がトルコ化されるきっかけとなり、最終的にはオスマン帝国の繁栄へと繋がっていきました。

主要な出来事

1037年：トゥグリル・ベグとチャグリー・ベグがメルブとニーシャープールを占領し、大セルジューク朝を建国。
1040年：ダンダーナカーンの戦いでガズナ朝を破り、西方への勢力拡大を開始。
1055年：トゥグリル・ベグがバグダードを占領。
1071年：マラズギルトの戦いで東ローマ帝国に勝利。
1092年：マリク・シャーの死後、帝国が分裂。
1194年：トゥグリル3世がホラズム・シャー朝に敗北し、大セルジューク朝が滅亡。

参考文献

Previté-Orton, C. W. (1971). The Shorter Cambridge Medieval History. Cambridge: Cambridge University Press.
Tetley, G. E. (2008). The Ghaznavid and Seljuk Turks: Poetry as a Source for Iranian History. Abingdon. ISBN 978-0-415-43119-4
Stokes, Jamie, ed (2008). Encyclopedia of the Peoples of Africa and the Middle East*. New York: Facts On File. ISBN 978-0-8160-7158-6.

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