モンゴルの歴史

モンゴルの歴史は、モンゴル高原を中心に展開した国家と民族の興亡を包括的に扱います。この地域は現在、モンゴル国と中華人民共和国内の内モンゴル自治区に分かれています。

先史時代からモンゴル帝国以前

土方、鬼方、馬方

紀元前1300年代後半の殷王朝の卜辞には、「土方」という異民族が殷の辺境を侵略した記録があります。また、周代の文献には土方、鬼方、馬方といった民族が登場しますが、これらがモンゴル高原の遊牧民であったかは定かではありません。

山[[戎]]、獫狁、葷粥

中国の[[歴史]]書『史記』には、伝説時代の三皇五帝の頃に山[[戎]]、獫狁、葷粥という遊牧民が北方草原にいたと記されています。これらの民族は西周時代にも実在し、斉の桓公が山[[戎]]を征伐した事件も記録されています。これらの記録から、周代には実際に遊牧民が存在していたことがわかります。

戎、狄、胡

春秋戦国時代になると、北方の草原だけでなく中国本土にも戎や狄といった異民族が入り込み、多くの部族に分かれていました。戎は北戎と西戎に大別され、北戎の山[[戎]]や西戎の犬戎が有名です。狄は周の王室と結びつき、後に赤狄と白狄に分かれました。胡は後の匈奴の代名詞となり、林胡や東[[胡]]といった部族がいました。これらの部族は戦国時代の強国に併合され、中国人と同化していきました。

匈奴、月氏、東[[胡]]

秦の始皇帝が中国を統一すると、北方では匈奴、月氏、東[[胡]]の3民族が勢力を増し、中国に侵入しました。匈奴の頭曼単于は太子冒頓を人質に出し、後に冒頓に殺されます。冒頓は東[[胡]]を併合し、月氏を撃退して強大な帝国を築き上げました。

匈奴単于国

冒頓単于の下でモンゴル高原が統一され、周辺国も次々と支配下に入りました。匈奴は南の漢帝国に侵攻し、一時優位に立ちましたが、武帝の時代に漢が攻勢に転じ、匈奴は大きな拠点を失い、内乱が頻発しました。最終的に呼韓邪単于が匈奴を統一し、漢と友好関係を結びました。

匈奴の南北分裂

呼韓邪単于の死後、匈奴と漢の関係は一時的に悪化しますが、匈奴国内で大飢饉が発生し、南匈奴が独立して北匈奴と対立しました。南匈奴は後漢と同盟し、北匈奴を衰退させました。

鮮卑大人国

北匈奴の衰退後、モンゴル高原は鮮卑族が支配しました。檀石槐は鮮卑の大人として勢力を拡大し、広大な領域を支配しましたが、彼の死後、鮮卑は分裂しました。その後、鮮卑の有力者である軻比能が勢力を拡大するも、魏の刺客によって殺害され、鮮卑は魏の支配下に入りました。

五[[胡十六国時代]]

西晋の時代、モンゴル高原では統一政権がなく、各地で鮮卑の部族が分立していました。西晋が滅亡すると、華北は五[[胡十六国時代]]に入り、モンゴル高原南部では鮮卑拓跋部の代国が勢力を張りました。

柔然可汗国

5世紀に入ると、柔然が勢力を伸ばし、北魏と対立しました。柔然の社崙は可汗を称して柔然可汗国を建国しましたが、北魏に敗れて衰退しました。柔然は中国文化を取り入れようとしましたが、最終的に突厥によって滅亡しました。

突厥可汗国

突厥は柔然から独立し、土門が可汗を称して突厥可汗国を建国しました。突厥は最大版図を誇りましたが、内紛によって東西に分裂しました。東突厥は隋に協力しましたが、唐に滅ぼされ、その後再興しましたが、最終的に回鶻によって滅ぼされました。

回鶻可汗国

回鶻は東突厥の有力部族で、東突厥を滅ぼしてモンゴル高原の覇者となりました。回鶻は唐と協力し、安史の乱を鎮圧しましたが、後継争いや異常気象によって衰退し、黠戛斯の侵入によって崩壊しました。

九姓タタル国

回鶻の崩壊後、モンゴル高原は黠戛斯によって支配されましたが、間もなくタタル族によって追い出されました。このタタル族は九姓タタル国を築きましたが、契丹（遼）の侵攻によって属民となりました。

遼（契丹）の高原支配とその後の分裂時代

契丹は内モンゴルを中心に大帝国を築き、モンゴル高原に進出してタタル族を征服しました。遼が金に滅ぼされると、モンゴル高原はモンゴル、ケレイト、メルキト、ナイマンといった諸部族が割拠する時代に入りました。

モンゴル帝国

モンゴルの登場

モンゴルは初め、室韋という部族集団に属する蒙兀室韋という部族名で登場しました。モンゴル部はバイカル湖畔に居住していましたが、次第に勢力を拡大しました。

チンギス・ハンのモンゴル統一

テムジン（後のチンギス・ハン）は、周辺部族との抗争を経てモンゴル高原を統一し、1206年にチンギス・ハンの称号を授かりました。

モンゴル帝国の成立

チンギス・ハンは、周辺部族を支配下に入れ、西夏や金などを攻略し、中央アジアやヨーロッパにも遠征しました。オゴデイ・カアンは征服地の施政と法を整備し、カラコルムを首都としました。モンケ・カアンの死後、モンゴル帝国はクビライとアリク・ブガに分裂しましたが、最終的にクビライが単独でカアンとなりました。

大元帝国

1271年、クビライは国号を大元と改め、首都を大都に遷しました。元朝は南宋を滅ぼして中国を統一しましたが、日本やベトナムへの侵攻は失敗に終わりました。元朝は内紛や反乱により衰退し、1368年に明によって滅ぼされました。

元朝はモンゴル高原に退却後も「大元」の国号を使い続けました。しかし、北元はクビライ家を支持する「四十モンゴル」と支持しない「四オイラト」に分裂し、抗争を繰り返しました。オイラトのエセン・タイシが一時的に勢力を強めましたが、最終的に殺害されました。ダヤン・ハーンはモンゴルを再統一し、モンゴル高原を6つの大部族に分割しました。その後、チャハル部のリンダン・ハーンが再統一を試みましたが、女直（後の満洲）族の勢力拡大によって失敗しました。

ハルハ部の台頭

ハルハ部は初めモンゴル高原の東側に遊牧する部族でしたが、次第に西へと領土を広げました。ハルハ部でもハーンが誕生し、アバダイ・ハーンは仏教寺院エルデニ・ジョーを建立しました。モンゴルとオイラトは対立を続けましたが、内モンゴルが清の支配下に入ったため、モンゴル・オイラト会議が開催されました。ガルダン・ハーンの侵入により、ハルハ部は清朝に臣従し、高原北部は清朝の版図となりました。

清朝統治時代

清朝はモンゴル族を同盟者として扱い、様々な保護政策を行いました。モンゴルを旗（ホシューン）という行政単位に分割し、旗長を置き、清朝皇族と同じ爵位を与えました。モンゴルの種族自治を尊重し、モンゴル人のための法律も制定しました。しかし1[[9世紀]]になると、清朝の力が衰え、漢人の入植が進められ、モンゴル人の不満が高まりました。

近代

ボグド・ハーン政権

辛亥革命が起こると、ハルハ部の王公たちはジェブツンダンバ8世を元首に推戴し、清からの独立を宣言しました。ボグド・ハーン政権は内モンゴルとの合流を試みましたが、中国軍閥によって弾圧されました。ロシアとの交渉により、自治権は認められましたが、内モンゴルは中国領に留め置かれました。

モンゴル人民共和国

ロシア革命後、外蒙古は自治権を撤回されますが、ウンゲルン男爵によって一時的に解放されます。その後、モンゴル臨時人民政府が樹立され、1924年にボグド・ハーンが死去すると、モンゴル人民共和国が成立しました。モンゴル人民共和国はソ連の影響下にありましたが、1990年に民主化し、1992年に新憲法を採択して社会主義を放棄しました。

現代

モンゴルは現代において、モンゴル国として独立を保っています。

参考資料

沢田勲『匈奴 : 古代遊牧国家の興亡』東方書店、1996年。
『史記』匈奴列伝
『漢書』匈奴伝
『後漢書』南匈奴列伝
『三国志』鮮卑伝
『晋書』四夷伝
『魏書』列伝第九十一
『北史』列伝第八十六
『周書』列伝第四十二
『隋書』列伝第四十九
『旧唐書』列伝第一百四十四上、列伝第一百四十五
『新唐書』列伝一百四十上、列伝一百四十下、列伝第一百四十二上、列伝第一百四十二下
『遼史』本紀第二十四
宮脇淳子『モンゴルの歴史 : 遊牧民の誕生からモンゴル国まで』刀水書房、2002年。
小松久男編『中央ユーラシア史』山川出版社、2000年。
白玉冬「10世紀から11世紀における｢九姓タタル国｣」『東洋学報』第93巻第1号、2011年。

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