ルイーズ (オペラ)

概要

『ルイーズ』（仏: Louise）は、ギュスターヴ・シャルパンティエが作曲した4幕構成のオペラで、作曲者自身は「音楽小説」と称しています。1900年2月2日にパリのオペラ＝コミック座で初演され、アンドレ・メサジェの指揮によって幕を開けました。この作品は、シャルパンティエがローマ大賞を受賞し、ローマに滞在していた1888年から作曲が開始され、パリに戻った後、1900年の初演直前に完成しました。

『ルイーズ』は、文学史においてエミール・ゾラやギ・ド・モーパッサンの自然主義の影響を受けた作品と位置づけられています。自然主義は、ヴェリズモ（真実主義）の先駆けとしてフランスで誕生した潮流で、労働者階級の日常や社会問題をリアルに描くことを特徴としています。この作品では、合唱として扱われがちな端役の歌手にも詳細な役が与えられている点が特徴的で、オペラの主題になりにくい労働者階級の日常を描いている点は、当時としては斬新でした。恋愛だけでなく、両親と娘の確執といった当時の社会情勢も克明に描かれています。

初演は大成功を収め、最初のシーズンで100回以上、1935年までに1000回という驚異的な上演回数を記録しました。1939年には、映画監督アベル・ガンスによって映画化もされ、グレース・ムーアがルイーズ役、ジョルジュ・ティルがジュリアン役を演じました。この映画は後にDVDも発売されています。

初演後の展開

『ルイーズ』は、初演後すぐに世界各地で上演されるようになり、シャルパンティエの名を広めました。1901年にはブリュッセル、ブダペスト、ミラノ、アルジェ、1902年にはベルリン、プラハ、ウィーン、ジュネーヴ、ストックホルムで上演されました。また、メアリー・ガーデンがルイーズ役を演じたことで、この役は彼女の当たり役となりました。

アメリカ初演は1908年1月3日にニューヨークのマンハッタン・オペラハウスで行われ、メアリー・ガーデン、プレスラー、ダルモレス、ジリベールらが出演しました。イギリス初演は1909年6月18日にロンドンのコヴェント・ガーデン王立歌劇場で行われ、エドヴィナ、ベラ、ダルモレス、ジリベールらが出演しました。1921年1月15日には、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場でジェラルディン・ファーラーの主演で上演されました。

日本初演は1966年3月23日に青年グループによって文京公会堂で行われ、マンフレート・グルリットの指揮、竹原正三と佐久間俊直の演出、川内澄江（ルイーズ）、高田信男（ジュリアン）、友竹正則（父）、三枝喜美子（母）などが出演しました。この公演では、竹原正三による日本語訳が用いられました。

1950年2月28日には、オペラ・コミック座で『ルイーズ』50周年を祝う記念公演が催され、当時90歳だったシャルパンティエが最後の幕を指揮しました。その際、フランス大統領から最高のレジョン・ドヌール勲章が贈られました。近年では、2007年3～4月と2008年6～7月にパリ・オペラ座で上演され、ミレイユ・ドランシュ、グレゴリー・クンデ、ジョゼ・ヴァン・ダム、ジェーン・ヘンシェルらが出演しました。この公演はフランスのテレビで放送されました。

リブレット

リブレットはシャルパンティエ自身が草稿を書き、象徴主義の詩人・劇作家サン＝ポル＝ルーが大幅に手を加えて完成させました。シャルパンティエは、自身の時代を映し出すオペラを創作しようと努めました。澤田肇の著書『フランス・オペラの魅惑』によると、『ルイーズ』は「民衆の側に立つゾラの思想の延長線上にある」と評されており、その自由恋愛のテーマは保守的な人々から批判を浴びましたが、急速に人気を博しました。また、この作品はジョルジュ・ビゼーの『カルメン』やマスネの『マノン』といった先駆的な作品を経て、オペラ＝コミック座が「実験的な作品を上演する劇場」としての評判を確立する上で重要な役割を果たしました。

楽曲

グラウトの『オペラ史』によると、『ルイーズ』では、脇役が日常生活から切り取られたような人物として描かれ、パリの方言で歌います。自由結婚の結末、子供の親に対する義務、貧困の悲惨さなど、社会問題に触れた場面もあります。リアリズムと並行して、夢遊病者の描写などシンボリズムも含まれており、特にパリ自体がオペラの主人公として描かれています。センチメント（感情）も重要な要素であり、第1幕のルイーズと父親の対話や、第3幕の愛の音楽は感動的です。シャルパンティエは、音楽の力によって、リアリズム、シンボリズム、センチメントといった要素を巧みに融合させました。また、この作品は、青春の息吹に満ちた音楽の中で、パリの街の叫びを巧みに利用しており、色彩豊かなオーケストレーションも特徴です。ヴィオラ・ダモーレからミシンに至るまで、多彩な楽器が使用されています。

登場人物

ルイーズ：若いお針子
ジュリアン：若い芸術家
ルイーズの父：労働者
ルイーズの母
その他、芸術家、アラブ人の行商人、物売り、浮浪者、物乞い、住人などの合唱

あらすじ

舞台は19世紀末のパリ、モンマルトル地区です。

第1幕

労働者街にあるルイーズの家。ルイーズは自宅のバルコニーで、向かいのアパートのテラスにいる恋人ジュリアンと愛を語り合います。二人は結婚を望んでいますが、ルイーズは両親を悲しませることを恐れています。ジュリアンはルイーズの父に手紙を書き、結婚の許しを求めますが、もしそれが受け入れられなければ駆け落ちするしかないと語ります。

ルイーズの母は、ジュリアンとの交際に反対し、二人の仲を裂こうとします。ルイーズはジュリアンとの結婚を諦めきれず、父親に相談しますが、父親は最終的に母親の意見に従わざるを得ません。ルイーズは絶望し、新聞を読みながら涙を流します。

第2幕

モンマルトルの丘のふもと。早朝、物売りの女たちが話をしていると、夢遊病の男が現れ、自由を謳います。ジュリアンは、ルイーズが働くお針子の仕事場の前で、彼女が現れるのを待ちます。ルイーズは母親に付き添われてやって来ますが、ジュリアンに捕まります。ルイーズは、両親の気持ちを無視できないため、ジュリアンの元を去り仕事場へ向かいます。

お針子の仕事場。お針子たちはルイーズを冷やかしますが、ジュリアンの歌声が聞こえてきます。ルイーズは耐え切れず、仕事を早退し、ジュリアンの元へ向かいます。

第3幕

モンマルトルの丘の上。ルイーズとジュリアンは愛を確かめ合い、パリを讃える歌を歌います。ボヘミアンたちが集まり、ルイーズをモンマルトルの女神として崇め、戴冠式を行います。ルイーズの母が現れ、父親が病気で弱っているので、少しの間だけ帰ってきてほしいと懇願します。ルイーズはジュリアンに必ず戻ると約束し、母親とともに実家へ帰ります。

第4幕

ルイーズの実家のアパート。母親はジュリアンのアパートが取り壊されたことを告げ、父親の面倒を見ます。父親は娘の裏切りを嘆き、ルイーズにジュリアンと別れるように説得しますが、ルイーズは自由な恋愛の権利を主張します。激しい口論となり、ルイーズは両親を責め、家を飛び出します。父親は娘の名を叫びますが、ルイーズの姿は見えません。父親はパリを恨み、幕が閉じます。

楽器編成

木管楽器: フルート3（3番はピッコロ持ち替え）、オーボエ2（2番はイングリッシュホルン持ち替え）、クラリネット3（3番はバスクラリネット持ち替え）、ファゴット2
金管楽器: ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、バストゥーバ1
打楽器: ティンパニ、大太鼓、スネアドラム、トライアングル、シンバル、タンバリン
その他: チェレスタ1、ハープ2
弦楽器: 弦五部

上演時間

第1幕：約40分、第2幕：約50分、第3幕：約50分、第4幕：約35分
合計：約3時間

主な録音

(情報なし)

脚注

(情報なし)

参考文献

『新グローヴ オペラ事典』 白水社
『オペラ名曲百科 上 増補版 イタリア・フランス・スペイン・ブラジル編』 永竹由幸 著、音楽之友社
『ラルース世界音楽事典』福武書店
『フランス・オペラの魅惑 舞台芸術論のための覚え書き』 澤田肇 著、ぎょうせい
『オペラは手ごわい』岸純信 著、春秋社
『オックスフォードオペラ大事典』ジョン・ウォラック、ユアン・ウエスト（編集）、大崎滋生、西原稔（翻訳）、平凡社
『歌劇大事典』大田黒元雄 著、音楽之友社
『パリ・オペラ座－フランス音楽史を飾る栄光と変遷－』竹原正三 著、芸術現代社
『フランス音楽史』今谷和徳、井上さつき（著）、春秋社

外部リンク

* ルイーズの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト

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