ルーマニア料理

ルーマニア料理：多様な食材と伝統が織りなす豊かな食文化

ルーマニア料理は、肥沃な大地と豊かな自然に恵まれたルーマニアの風土を反映した、独特の民族料理です。18世紀の歴史的背景から、トルコ料理の影響は比較的少なく、隣国である旧ユーゴスラビアやブルガリアとは異なる、独自の料理文化を築いています。オーストリア、ハンガリー、セルビアといった近隣諸国の料理文化の影響も受けつつ、独自の進化を遂げてきました。

主食：小麦とトウモロコシ、そして多様な穀物

ルーマニアは小麦の生産に適した気候と土壌に恵まれており、主要な穀物として、小麦とトウモロコシが挙げられます。小麦はパンの材料として、そしてトウモロコシは、粗く挽いて粥状に煮込んだママリガ（mămăligă）として食卓に上ります。ママリガは、イタリアのポレンタに似た料理で、牛乳やバターを加えて、マッシュポテトのような食感で食べられます。黄色味がかった見た目が特徴です。豆類も栽培されており、小麦やトウモロコシほど頻繁ではありませんが、豆を使った料理も存在します。

ママリガはルーマニア料理において最も重要な主食であり、スメタナ（酸味のあるクリーム）とチーズを添えた「ママリガ・ク・ブルンザ・シ・スムントゥナ」や、豚肉やソーセージと合わせた「ママリガ・ク・オウ・オキ」などは、それだけで立派な一食となります。ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』にも登場するほど、ルーマニアの国民食として広く親しまれています。米は、ピラフなどの付け合わせとして用いられる程度です。ただし、トランシルヴァニア地方南部では、トルコや旧ユーゴスラビアの影響を受けた、ピーマンの米とひき肉詰め「アルデイ・ウンプルツィ」が好まれています。

肉料理：サルマーレ、ミティテイ、そして多様な肉料理

ルーマニアの肉料理は、挽肉と刻みタマネギをザワークラウトのようなキャベツの漬物で巻いて煮込んだ「サルマーレ (sarmale)」が代表格です。これは、日本のロールキャベツ、あるいはトルコのドルマに似た料理と言えるでしょう。

もう一つの重要な肉料理が、豚肉を主原料とした挽肉団子「ミティテイ（mititei）」です。羊肉を使用することもあり、ハーブを混ぜ込んで楕円形に成形し、独特の風味を醸し出しています。また、トルコのパストゥルマを起源とする「パストラマ（pastramă）」は、羊肉や豚肉を香辛料と塩で漬け込んだ燻製肉で、アメリカの燻製肉パストラミの原型とも言われています。

オーストリア料理の影響を受けた「シュニッツェル（şniţel）」も食べられており、周辺諸国と同様にムサカも存在します。ルーマニアのムサカは、ナスやジャガイモの他に、キャベツ、カリフラワー、ズッキーニなどを用い、ベシャメルソースではなくカスタードをのせて焼き上げるのが特徴です。鶏肉料理では、「ピラフ・ク・プイ（pilaf cu pui）」や、トランシルヴァニア地方南部で食べられているパプリカを使った「パプリカーシュ（paprikaș）」などがあります。魚料理は高級料理とされ、「サラムラ・デ・クラップ（saramură de crap）」などが知られています。

スープ：チョルバとスパ

ルーマニアでは、具だくさんの煮込み料理に近いスープを「チョルバ（ciorbă）」と呼びます。小麦のふすまを発酵させた酸味のある調味料「ボルシュ（borş）」を加えるのが特徴です。チョルバには、牛肉の「チョルバ・デ・バクツァ」、鶏肉の「チョルバ・デ・プイ」、ウシのトライプを使った「チョルバ・デ・ブルタ」など、様々な種類があります。「チョルバ・デ・ブルタ」は、バルカン半島やトルコのイシュケンベとよく似ています。具の少ないスープは「スパ（supă）」と呼ばれます。

チーズ：多様な種類と伝統的な製法

ルーマニア語でチーズを意味する「ブルンザ（brânză）」は、古代ダキア語に由来すると考えられています。ほとんどのチーズは牛乳や羊乳から作られ、山羊乳のチーズは珍しいです。羊乳のチーズはかつて「本物のチーズ」とされていたものの、近年は高い脂肪分と独特の匂いから敬遠される傾向もあります。

代表的なチーズとしては、「ブルンザ・デ・ブルドゥフ（豚の膀胱に詰めて作る羊乳チーズ）」、「ブルンザ・デ・ヴァチ（カッテージチーズ）」、「ブルンザ・トピタ（プロセスチーズ）」、「ブルンザ・デ・コシュレツ（燻製羊乳チーズ）」、「カシュカヴァル（セミハードタイプの羊乳または牛乳チーズ）」、「カシュ（フレッシュチーズ）」、「テレメア（塩水に浸けて熟成させたセミソフトタイプのチーズ）」、「ウルダ（ホエーから作られたチーズ）」などがあります。

デザート：伝統菓子と西洋菓子の融合

揚げたドーナツにスメタナやジャムを添えた「パパナシ（Papanaşi）」、トランシルヴァニア地方の伝統菓子「キュルテーシュカラーチ（Kürtőskalács）」、クレープ状の「クラティーテ（Clătite）」、トルコ風の菓子である「ラハット（Rahat）」、「バクラヴァ（Baclava）」、「ハルヴァ（Halva）」などが有名です。他にも、プレッツェル風のコヴリギ（Covrigi）、スポンジケーキのパンディシュパン（Pandişpan）、シャルロットに由来するシャルロータ（Şarlotă）、クレーム・アングレーズにメレンゲを浮かべたラプテ・デ・パサーレ（Lapte de pasăre）などがあります。

酒：ワイン、ビール、そして蒸留酒

ルーマニアでは小麦や大麦の生産が盛んであり、ビールやウォッカが生産されています。ビールは安価で広く親しまれていますが、最も好まれるのはワインです。ブドウ栽培に適した気候と、世界でも有数のワイン生産地として、高品質のワインを生産し輸出しています。

主要なワイン産地として、モルダヴィア地方のコトナリ産の白ワイン「グラサ・デ・コトナリ」、タムイオアサ・ロムネアスカ、フェテアスカ・アルバ、ドブロジャ地方のムルファトラル産のカベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールなどが有名です。果実を原料とする蒸留酒「ラキウ（rachiu）」または「ツイカ (ţuică)」は、40度以上の強い酒で、食前酒として人気があります。プラムから蒸留した「シュリボヴィツァ（şliboviţă）」も有名です。他に、小麦や雑穀を発酵させた甘酒のような「ブラガ（bragă）」があります。

間食：国民的間食、ヒマワリの種

ルーマニアの間食として最も人気があるのは、ヒマワリの種です。世界でも有数のヒマワリ生産国であることを示すように、国民的な人気を誇っています。

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