ワイルド・ウエスト・ショー

ワイルド・ウエスト・ショー：西部開拓時代のロマンを再現した大衆娯楽

1870年代から1920年代にかけて、アメリカ合衆国とヨーロッパを巡業したワイルド・ウエスト・ショーは、西部開拓時代のロマンと興奮を再現したヴォードヴィル・ショーでした。当初は劇場で上演されていましたが、後に屋外の広場に移り、より多くの観客を動員しました。ショーでは、カウボーイ、プレーンズ・インディアン、軍隊、アウトロー、野生動物など、西部開拓時代を象徴する人々やものが登場しました。

これらのショーは、実際のできごとや実在の人物を基にしていましたが、誇張や脚色が加えられることもありました。特に、ネイティブ・アメリカンについては、ステレオタイプなイメージが強調され、都合よく描かれることが多かったのが現状です。しかし、多くの西部劇の演者が登場し、西部開拓時代の演出を広めたという点で大きな影響力を持っていました。

ショーの誕生と発展

19世紀、南北戦争後、安価なダイムノベルを通じて西部開拓時代のフロンティア生活が広く知られるようになりました。1869年、作家のネッド・バントラインが、バッファロー・ハンター、アメリカ陸軍斥候兵、ガイドとして知られるウィリアム・F・「バッファロー・ビル」・コーディと出会い、彼についての小説『Buffalo Bill, the King of Border Men』を執筆しました。

1872年12月、この小説は『The Scouts of the Prairie』として舞台化され、シカゴで初演されました。バントライン、コーディ、テキサス・ジャック・オモハンドロ、イタリア人バレリーナのジュゼッピーナ・モルラッキらが出演し、2年間全米の劇場を巡業しました。バントラインが降板後、コーディは1874年に「バッファロー・ビル・コンビネーション」を創設し、新作『Scouts of the Plains』ではワイルド・ビル・ヒコックが主演しました。しかし、ヒコックは舞台に馴染めず、1度出演しただけで降板しました。

1877年、テキサス・ジャックはコーディのもとを離れ、セントルイスで自身の団体「テキサス・ジャック・コンビネーション」を設立し、『Texas Jack in the Black Hills』を初演しました。その後、『The Trapper's Daughter』や『Life on the Border』などを上演しました。

1883年、コーディは「バッファロー・ビルズ・ワイルド・ウエスト」を創設し、年に一度、屋外での巡業を開始しました。野生動物が登場するアクションシーン、トリック、実際のできごとの再現などを上演しました。フロンティアの実在の人物も登場し、トリック射撃などの射撃ショーや、カウボーイによるロデオなども人気を博しました。これがワイルド・ウエスト・ショーの原型となり、実際の戦争の再現や西部の特色、狩猟などが追加され、1915年まで続きました。

「バッファロー・ビルズ・ワイルド・ウエスト」の隆盛

1883年、ネブラスカ州ノースプラットで、バッファロー・ビルの実生活を基にした屋外劇「バッファロー・ビルズ・ワイルド・ウエスト」が誕生しました。広報担当としてアリゾナ・ジョン・バークが雇われ、セレブリティによる宣伝、プレスキット、売名行為、劇評、看板、特許など、当時の最新の宣伝方法を駆使し、ショーの人気を確立しました。

1887年から1906年の間に、8回にわたりヨーロッパ公演を実施しました。1887年の第1回欧州公演は、ヴィクトリア女王即位50周年記念イベントの一環として上演され、エドワード7世（当時皇太子）も観劇しました。ヴィクトリア女王もショーを大いに気に入り、ゴールデン・ジュビリーの来客のために再度の御前公演を設定しました。その後、ヴィルヘルム2世、ジョージ5世など、ヨーロッパ各国の王族も観劇しました。1887年10月には、ロンドン公演は300回上演、250万枚のチケットを売り上げる大成功を収めました。その後、イギリス各地を巡業し、1888年5月にアメリカに戻り、短期間の夏公演を開催しました。1891年から1892年には再びヨーロッパに渡り、各地を巡業しました。

1893年、コーディはショーの題名を「Buffalo Bill's Wild West and Congress of Rough Riders of the World」に変更し、シカゴ万国博覧会で上演しました。18,000人の観客を集め大成功を収めましたが、再演はされませんでした。同年、ウィスコンシン大学のフレデリック・ターナー教授は、万博において「開拓時代は終了した」と語り、アメリカの歴史における一つの区切りとしました。

1902年以降、14週にわたるヨーロッパ公演が再開され、エドワード7世とジョージ5世が観劇しました。1902年から1906年の間、イギリス、フランス、イタリア、オーストリア、バルカン半島、ハンガリー、ルーマニア、ウクライナ、ポーランド、チェコ、ドイツ、ベルギーなど、ヨーロッパ各地で公演が行われました。しかし、1894年頃から不況の影響でチケットの売り上げが減少し、財政難に陥りました。その後、ショーの売却、従業員への格下げ、セルズ・フロト・サーカスの出し物の一部となるなど、衰退の一途をたどり、1913年に破産宣告を受けました。

ショーの内容とラインナップ

ショーのラインナップは、歴史上の出来事を再現したドラマ、射撃、狩猟、レース、ロデオを組み合わせたものでした。1回の公演時間は3～4時間で、連日何千人もの観客が訪れました。アメリカ義勇騎兵隊の再現を筆頭に、騎馬パレードから始まり、観客を巻き込んだ演出が特徴でした。

バイソン狩り、列車強盗、インディアンとの戦闘シーンなどが人気で、特に「Attack on the Burning Cabin」は、インディアンが入植者の家を襲撃するのをバッファロー・ビルらが撃退する場面がグランド・フィナーレとして上演されました。リトルビッグホーンの戦いやサンファンヒルの戦いにおける入植者からの視点を基にしたフィクションなども上演され、カスター将軍を演じたバック・テイラーがカスターの死を復讐するためにイエロー・ヘアの頭皮を剥ぐ場面が劇的に再現されました。また、射撃競争や、小銃、散弾銃、回転式拳銃を使用した射撃技術の披露も重要な要素でした。

ロデオでは、リー・マーティンのようなカウボーイがブロンコを投げ縄で捕獲し、乗りこなす見せ場がありました。ブロンコは騎手を振り落とそうとするような荒馬であり、その荒々しさが観客を魅了しました。また、ラバ、バッファロー、テキサス牛、アメリカアカシカ、シカ、クマ、ヘラジカなどの野生動物も登場しました。希少なバッファローの群れを使ったフロンティアでの狩猟デモンストレーションも行われました。

カウボーイ、メキシコ人、インディアンなどによる異人種間レース、インディアンとインディアン・ポニーによるレース、スー族の少年と鞍なしのインディアン・ポニーとのレース、メキシコのサラブレッド同士のレース、女性騎手のレースなど、多様なレースも披露されました。

様々なショーと出演者

ワイルド・ウエスト・ショーは、その後、ビー・ホー・グレイ版、テキサス・ジャック版、ポーニー・ビル版、ジョーンズ・ブロス版、クミンズ・インディアン・コングレス版、バックスキン・ジョー・ホイト版など様々な形で展開していきました。

101レンチ版では、ステア・レスリングの名手ビル・ピケットや、「アフリカ生まれのインディアン」と謂われたヴォーター・ホールなどのアフリカ系アメリカ人も出演していました。

ワイルド・ウエスト・ショーには、カウボーイ、スカウト、インディアン、兵士、メキシコ人など約1,200名が出演し、バッファローやテキサスロングホーンなど多くの動物も登場しました。ウィル・ロジャース、トム・ミックス、ポーニー・ビル、ジェイムズ・ローソン、ビル・ピケット、ジェス・ウィラード、メキシカン・ジョー、キャプテン・アダム・ボガダス、バック・テイラー、ラルフ&ナン・ローズ、アントニオ・エスキベル、キャプテン・ウォーターマン、ジョニー・ベイカーなど多くの著名人が出演しました。

アニー・オークレイは15歳でプロの射撃手フランク・バトラーを打ち負かしたことで頭角を現し、ワイルド・ウエスト・ショーに16年間出演し続けました。ショーでは「飛ぶ鳥を落とす無双の女性射撃手」と呼ばれていました。カラミティ・ジェーンは、西部開拓時代を生き抜いた女性として数々の武勇伝が残されていますが、その多くは自身の作り話です。ショーでは、卓越した乗馬、ライフル、リボルバーの技術を披露していました。1902年、飲酒を伴う喧嘩で解雇されたとされています。

他に、ティリー・ボールドウィン、メイ・リリー、ルシル・マルホール、リリアン・スミス、ベシー&デラ・フェレル、ルーラ・フォアポー・フィッシュ、ケンプ・シスターズ、司会としてテキサス・ローズが出演していました。

ラコタなどのプレーンズ・インディアンは、「ショー・インディアンズ」として出演し、インディアン・レースや歴史的な戦いの再現などで活躍しました。ネイティブ・アメリカンは、ショーの中でしばしば未開で奇妙な儀式を行う残虐な存在として描かれていました。女性は伝統的でない露出度の高い衣装や男性の羽根飾りを着用し、「スー族のゴースト・ダンス」などの演目にも出演しました。

シッティング・ブルは短期間ワイルド・ウエスト・ショーに参加し、アニー・オークレイと共演しました。出演時、シッティング・ブルは酋長としてグロバー・クリーブランド大統領に紹介されました。バッファロー・ビルとは親しい友人となり、ショーを降板する際に馬を贈られました。その他、レッド・クラウド、チーフ・ジョセフ、ジェロニモ、モードック戦争の偵察者ドナルド・マッケイなどがネイティブ・アメリカンの出演者として知られています。

ショーの影響とレガシー

ワイルド・ウエスト・ショーは、その後の西部劇系エンターテイメントに大きな影響を与え、映画、ロデオ、サーカスなどにその影響を見ることができます。1903年には初の本格的な西部劇映画とされる『大列車強盗』が公開され、その後数多くの作品が制作されました。1960年代には、ヨーロッパで制作されたマカロニ・ウェスタンが人気を博しました。

現在でもロデオが開催されており、ネイティブ・アメリカンによる西部劇は映画、パウワウ、ショー、ロデオに取り上げられています。欧米では、パウワウ文化などネイティブ・アメリカンへの関心は依然として根強く、パウワウでは、乗馬、儀式的舞踏、伝統食、芸術、音楽、民芸品など、ネイティブ・アメリカンの伝統文化を見学できます。

スミソニアン協会による国立アメリカ歴史博物館の歴史写真コレクションには、ガートルード・ケイゼビアーらによる写真が所蔵されており、ネイティブ・アメリカンのワイルド・ウエスト・ショーでの活動を保存する複数の国家プロジェクトが行われています。ペンシルベニア州カーライルにあるカンバーランド郡歴史協会のカーライル・インディアン・スクール・リソース・センターには、カーライル・インディアン学校の資料や写真が所蔵されており、2000年にはカンバーランド郡250周年委員会が、様々な種族のネイティブ・アメリカンとともにカーライル・インディアン学校の生徒や歴史を記念するパウワウを開催しました。

日本からの出演

ワイルド・ウエスト・ショーには、日本からの出演者もいました。