一ノ矢八坂神社

茨城県つくば市玉取に鎮座する一ノ矢八坂神社は、地元では「天王様」とも呼ばれ、古くから地域の人々に親しまれてきました。旧社格は郷社で、現在は地域の人々の心の拠り所となっています。特に、毎年旧暦6月7日に行われる祇園祭は、「ニンニク祭り」として広く知られ、多くの参拝客で賑わいます。

歴史

神社の創建は、清和天皇の治世である貞観元年（859年）に、京都の八坂神社から勧請されたと伝えられています。しかし、確かな記録としては、神社に残る宝鏡の制作年代から、南北朝時代までしか遡ることができません。天慶年間（938年 - 947年）には、藤原秀郷が平将門討伐の戦勝祈願に訪れ、矢を納めたという伝説も残っています。

小田氏が勢力を誇っていた時代には、同氏の崇敬を受け、「玉取の里御花園」と呼ばれていました。小田氏が度々訪れ、弓矢を奉納したとされていますが、小田城の落城に伴い、天正年間（1573年 - 1593年）に兵火に遭い、社殿を焼失してしまいました。その後、地域住民によって文禄年間（1593年 - 1596年）に社殿が再建され、江戸時代には玉取藩主の堀氏による造営も行われました。

江戸時代の一ノ矢八坂神社は、天王社と呼ばれ、天台宗薬王院の支配下に置かれていました。そのため、祭祀は禰宜ではなく、半僧半俗の別当職によって行われていました。享保年間（1716年 - 1736年）の記録によれば、境内地は2,552坪（約8,436平方メートル）あり、馬草場や御手洗、御旅所林、天王免田畑を所有し、税が免除されていました。また、祭礼には多くの人が集まり、茶店が建ち並び、門前町が形成されるほどでした。

明治時代になると、近代社格制度により郷社に列せられました。1994年（平成6年）時点での境内地は3,746坪（約12,383平方メートル）、社有地は5反5畝12歩（約5,494平方メートル）でした。

一ノ矢の地名伝説

神社名であり、鎮座地周辺の地名でもある「一ノ矢」には、いくつかの地名由来に関する伝説があります。一つは、藤原秀郷が平将門討伐の際に、最初に放った矢が落ちた場所であるという説です。また別の説では、小田氏が弓矢を奉納した際、最初に放った矢が落ちた場所であるとも言われています。これらの伝説は、この地が古くから武士や武道の信仰と関わりが深かったことを示唆しています。

信仰・祭礼

祭神は素戔嗚尊で、除災厄病や海上安全のご利益があるとされ、古くから信仰を集めてきました。海から離れた内陸に鎮座しているにもかかわらず、漁業関係者の参拝も多いのが特徴です。一ノ矢八坂神社は、茨城県における牛頭天王信仰（祇園信仰）の中心であり、この神社の「ニンニク祭り」が終わるまで、他の神社では祇園祭を行わないという風習がありました。地元では産土神としての信仰も篤く、地域の人々にとって非常に重要な存在です。

1990年（平成2年）の報道では、筑波研究学園都市にある研究所の職員や大学教員が参拝に訪れることが多く、結婚式を挙げる大学院生もいたそうです。御朱印は、参拝者が各自QRコードを読み取って保存する形式で授与されています。

主な祭礼としては、ニンニク祭りの他に、元旦祭、節分祭、五六祭（5月6日）、九六祭（9月6日）、新穀感謝祭（12月21日）などがあります。

ニンニク祭り

一ノ矢八坂神社の例祭である祇園祭は、一般に「ニンニク祭り」と呼ばれています。その由来は、天明年間（1781年 - 1789年）の大飢饉の際に、領主の堀田正英がニンニクの常食を勧めたことによるとされています。また別の説では、素戔嗚尊が朝鮮半島へ征伐に向かう際に、少彦名命からニンニクの効用を教えられたことによるとも言われています。

本来は14日間続く祭りですが、一般的には中間の7日間を大祭とします。大祭当日は神輿が出ますが、担ぎ手は紙を咥えて無言で担ぎ、10数人が警護します。境内には多くの露店が並び、特にニンニクを売る露店が目立ちます。ここで買い求めたニンニクを家の門口に吊るしておくと、病気や災難から逃れられるという信仰があり、近所の人に配る風習もあります。

文安2年（1445年）の祭りの奉仕者について記された記録には、神輿を中心に、別当、幣帛持、長刀持、鉾持、御腰懸持、幣帛頭戴サセ役が行列をなして巡行する祭りであったとされています。しかし、この記録は近世に作成されたものであり、文安2年当時の状況を正確に伝えているかは不明です。

文化財

一ノ矢八坂神社には、数多くの文化財が保存されています。

八坂神社本殿

現在の本殿は、時の藩主である堀通周が延宝4年（1676年）に造営したものとされていますが、神社に残る棟札から、実際には宝永8年（1711年）に建立されたものだと推定されています。一間社流造の建築で、華麗な彫刻が特徴です。縁下の部と縁上の部が別個に作られている点が珍しく、間口・奥行きは約2.12メートル、面積は約3.3平方メートルです。本殿の前には拝殿と幣殿があり、本殿は覆屋の中にあります。拝殿と覆屋はつくば市指定文化財に指定されています。

瑞花雙鳥八稜鏡

社宝として大切にされている白銅の鏡です。直径約10センチメートルで、鏡の裏には鳳凰や瑞花、唐草文様などが刻まれています。永禄年間（1558年 - 1570年）に小田氏治が献納したと伝えられています。茨城県指定文化財（工芸品）です。

一ノ矢の大ケヤキ

かつて神社南側の鳥居の脇に立っていたケヤキの大木です。1958年（昭和33年）に茨城県指定天然記念物に指定されましたが、1995年（平成7年）の台風で幹の上部が折れてしまい、2001年（平成13年）に指定を解除されました。折れる前の樹高は約30メートルもあり、その巨木ぶりは地元の人々に親しまれていました。2012年（平成24年）の豪雨で完全に倒壊し、失われてしまいました。

八坂神社拝殿

宝永8年（1711年）に建立された入母屋造りの建物で、鋼板葺きです。面積は約49.6平方メートル、桁行・梁行ともに3間あります。幣殿と一体化しており、江戸時代中期の建築様式をよく残しています。つくば市指定文化財です。

八坂神社覆屋

慶応3年（1867年）に建立された入母屋造りの建物で、鋼板葺きです。本殿を保護するために建てられたもので、江戸時代末期の建築様式を伝えています。つくば市指定文化財です。

八坂神社境内古墳群

神社の境内とその周辺に存在した古墳群です。現在残っているのは、境内の円墳2基のみです。そのうち1基の頂上には、石棺の板材を組み合わせて作られた箱状のものがあり、中に石仏が安置されています。文化財指定は受けていません。

交通

公共交通機関

JR常磐線土浦駅から関東鉄道バスつくばセンター行きに乗車し、「一ノ矢交差点」または「栗原」で下車。

自動車

土浦市方面から学園東大通り（茨城県道55号土浦つくば線）を北上し、防災科学技術研究所が左手に見える「一ノ矢交差点」で右折するとすぐです。

外部リンク

一ノ矢八坂神社 - 公式サイト
一ノ矢八坂神社 - 茨城県神社庁
一ノ矢八坂神社 (@ichinoyayasaka) - Instagram
一ノ矢八坂神社 (@yasaka_jinja) - X（旧Twitter）

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