三好政長

三好政長は、戦国時代の武将であり、三好氏の一族に連なります。三好長尚の三男として生まれ、長久、長家の弟にあたります。子には宗渭、為三、娘（池田信正室）がおり、宗三の名でも知られています。

生涯

堺公方期

政長の初期の経歴ははっきりとしていませんが、長兄の新五郎（長久）が永正17年（1520年）に、伯父の三好之長に従い等持院の戦いで細川高国に敗れ、処刑されたことが記録されています。この戦いで、高国の政敵であった細川澄元は阿波へ逃れ、その遺児聡明丸（後の晴元）が阿波に留まります。三好一族も勢力を減退させ、逼塞を余儀なくされました。

馬部隆弘は、政長の父・長尚が永正8年（1511年）の船岡山合戦で高国方についたため、政長や兄の長家も畿内で育ち、桂川合戦を前にして晴元方に鞍替えしたと推測しています。また、在京していた長尚から基盤を引き継いだことが、後の政長の隆盛に繋がったとしています。

大永6年（1526年）12月13日、高国が内紛で苦境に立たされていた好機に乗じ、政長は父や次兄・長家と共に晴元方の先鋒として摂津堀城を占拠。翌年、山崎で反高国派の柳本賢治と合流し、桂川原の戦いで高国を破り上洛を果たしました。3月22日には、従甥の三好元長が足利義維と晴元を擁立して堺に上陸し、堺公方府を誕生させると、その中枢に入りました。

しかし、政長は元長とは仲が悪く、賢治と組んで対立するようになり、主君の晴元に讒言して元長を陥れました。大永8年（1528年）に元長が高国と和睦しようとすると、賢治と共に反対し、晴元も説得して元長を窮地に立たせました。また、賢治が高国派を排除する際にも協力しました。享禄2年（1529年）に元長が阿波へ帰国すると、政長が阿波勢を率いる立場となりました。しかし、享禄3年（1530年）に高国が挙兵し、賢治が暗殺されると、晴元と相談して元長を復帰させました。享禄4年（1531年）には、中嶋の戦い・大物崩れで高国を討ち取り、政局を安定させました。

高国敗死後、元長が台頭すると、政長は木沢長政・茨木長隆らと結託して再び元長と対立しました。享禄5年（1532年）に、長政が包囲されると、晴元に進言して一向一揆を起こさせ、義堯・元長を討ちました（天文の錯乱）。以後は、長政・長隆と共に細川政権の重鎮となり、摂津榎並城主として室町幕府料所河内十七箇所を代官として統治しました。

山下真理子は、政長による天文7年（1538年）の山城下郡への段銭賦課の事例から、政長が天文年間の初期から京都を支配していたと推察しましたが、馬部隆弘はこれを否定し、政長の京都支配は天文7年以降であると明らかにしました。

細川政権期

政長は、天文7年（1538年）以降、京都支配に乗り出しましたが、これに対し、三好元長の嫡男である長慶が反発しました。長慶は、父の旧跡である京都に手を出されたことを不服としたのです。翌年1月14日、長慶は上洛し、細川晴元の幕府出仕に同行しました。馬部隆弘は、この際に政長による京都支配に関する談合があったとし、幕府も政長の段銭賦課を快く思っていなかったとしています。その結果、政長は天文8年（1539年）4月には丹波国に蟄居することになりました。

従来、天文8年（1539年）には政長と長慶が河内十七箇所の代官職を巡って対立したと考えられていましたが、馬部隆弘の研究によってこれは否定されました。長慶は、上洛の際、幕府から赤松晴政支援のための出兵を依頼されており、その対価として、同年6月に河内十七箇所代官を望み、幕府はこれに応じました。つまり、長慶が河内十七箇所の代官職に就任できたのは、幕府と長慶が接近したためであり、政長は無関係でした。

天文8年（1539年）閏6月に、長慶が十七箇所の返還を掲げ軍を率いて上洛すると、晴元は京都北西の高雄へ避難し、政長は丹波で蟄居していたものの、晴元の支援で兵を集め、京都で長慶と小規模な戦闘を繰り返しました。この争いは、近江の六角定頼と将軍義晴の調停によって和睦し、長慶は細川政権下で重用されるようになりました。

その後は、政長と長慶は軍事行動を共にするようになり、長政討伐、太平寺の戦い、上野元治・元全父子の反乱鎮圧、細川氏綱の反乱に呼応した摂津国人の討伐、舎利寺の戦いなどに、晴元方の部将として共に出陣しました。天文13年（1544年）5月に、晴元の勧めで隠居し、嫡男政勝（宗渭）に家督を譲りましたが、実質的には隠居せず、晴元の腹心としての地位を保持し続けたため、長慶を始め周囲の反発を招きました。

天文17年（1548年）5月6日、政長の婿である池田信正が晴元の命令で切腹させられました。信正は、天文15年の氏綱の反乱に加担していましたが、降伏して許されていました。しかし、舅である政長が晴元に讒言し、切腹に追いやったとされています。信正の跡を継いだのは、息子で政長の孫でもある長正でしたが、これにより池田家では政長の息のかかった者が家政を壟断し、政長自身も池田家の宝物を手中にするなどしたため、政長の介入に長慶を初め他の摂津国人衆が反発しました。10月には、長慶がかつての敵であった氏綱、遊佐長教と結び、長慶派の国人も呼応して政長を排斥するために反乱を起こしました。長慶には、氏綱・長教の他に、池田長正、摂津国人衆、丹波の内藤国貞、和泉の松浦氏などが味方につきました。こうして、三好政長に対する反乱は、細川晴元に対する反乱へと拡大しました。一方の政長は、主君の晴元と義晴・六角定頼を味方に引き入れるのに成功しましたが、摂津の味方は茨木長隆・伊丹親興程度であり、榎並城に籠城していた息子の為三は三好軍に包囲され、危機に陥っていました。

江口の戦い

長慶・政長陣営は膠着状態が続いていましたが、天文18年（1549年）2月になり、長慶が出陣して榎並城を包囲しました。政長も丹波を迂回して摂津へ向かい、榎並城へ接近しました。3月1日には、柴島城を落とされ伊丹城へ退きましたが、4月に晴元が摂津に出向くと軍を立て直し、5月には三宅城を占拠して晴元を迎え入れました。6月11日には、三宅城から南下し、柴島城と榎並城付近の江口城へ入城しました。

晴元の戦略は、六角定頼・義賢父子の援軍を待つというものでしたが、政長は政勝の窮地に待ちきれず、前線の江口城へ進み、自ら孤立してしまいました。長慶はこの機を逃さず江口城周辺も占拠して三宅城との通路を遮断し、政長は三好軍に包囲されました。そして、6月24日、援軍の六角軍が到着する前に、長慶に江口城を攻め込まれ討ち死にしました（江口の戦い）。政勝は榎並城を放棄して行方不明となり、晴元も長慶の追撃を恐れて京都へ逃亡しました。これにより、幕政を担ってきた細川政権は崩壊し、消滅しました。

その他

政長は茶人としても著名であり、天下三肩衝の一つ「新田肩衝」を所有していました。また、後に今川義元や織田信長が所持した名刀「左文字」は、元々は政長（宗三）の所有物であり、「宗三左文字」とも呼ばれています。

参考文献

長江正一『三好長慶』（新装版）吉川弘文館〈人物叢書〉、1989年4月（原著1968年）。ISBN 978-4-642-05154-5。
今谷明『戦国三好一族 天下に号令した戦国大名』洋泉社、2007年4月。
福島克彦『畿内・近国の戦国合戦』吉川弘文館〈戦争の日本史11〉、2009年7月。

関連項目

三好政権
山下城
榎並城
* 畿内・近国の戦国時代

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