中臣烏賊津

中臣烏賊津（なかとみのいかつ）

中臣烏賊津は、『日本書紀』に登場する古代豪族・中臣連の祖と伝えられる人物です。『古事記』には記載がありません。別名として、中臣烏賊津使主（なかとみのいかつおみ）、雷大臣命（いかつおみのみ）とも呼ばれています。

系譜と出自

『日本書紀』では中臣烏賊津の系譜は明確ではありませんが、『続群書類従』所収の『松尾社家系図』には、臣狭山命の子であり、大小橋命、真根子命の父であると記されています。このことから、『尊卑分脈』に見られる「跨耳命」と同一人物であると考えられています。

『日本書紀』では「中臣」を冠していますが、烏賊津使主の時代にはまだ「中臣」という氏を名乗っていなかったとされています。

神功皇后との関わり

中臣烏賊津は、仲哀天皇の急逝後、神功皇后によって重要な役割を任じられました。

国政の守護

天皇の死を隠し、百官を率いて宮中を守る役目を担いました。この際、中臣烏賊津連、大三輪大友主君、物部胆咋連、大伴武以連がその任にあたっています。

審神者としての活躍

神功皇后が斎宮を定め、自ら神主となった際、中臣烏賊津使主は審神者（さにわ）として神意を伺う役目を務めました。琴の音に合わせて7日7夜にわたり神託を伺い、その功績は「中臣」の名にふさわしいものとされています。

その後の記録

『日本書紀』には、允恭天皇の時代にも「中臣烏賊津使主」という人物が登場しますが、同名異人であるか、伝承の混乱によるものと考えられています。

また、『新撰姓氏録』には、中臣志斐連、神奴連の系譜に「伊賀津」と「雷大臣命」という人物が登場します。これらは中臣烏賊津に該当する人物であると考えられていますが、世代数や系図に差異が見られます。特に、壱伎直、生田首の雷大臣は、崇神天皇の二世代前の人物であり、類似した名前を持つ別人であるとされています。

『続日本紀』には、781年に栗原勝子が、先祖である「伊賀津臣」が神功皇后の時代に百済人の女性と子をなしたと朝廷に報告したという記録があります。

『尊卑分脈』には、「初めて卜部姓を賜う」、「雷大臣命は、足中彦天皇の朝廷のとき、大兆の道を習い、亀卜の術に達し、卜部の姓を賜りその事で供奉せしむ」という記述があります。

対馬での伝承

対馬には、雷大臣命に関する伝承が数多く残っています。

• - 厳原町豆酘の雷神社は、雷大臣命が新羅征討からの帰還後に邸宅を構えた場所とされ、朝鮮からの入貢を掌り、祭祀や亀卜の術を伝えたと伝えられています。
• - 厳原町阿連の雷命神社の社家である橘家は、雷大臣命の末裔とされています。
• - 美津島町加志の太祝詞神社には、雷大臣命の墓があるとされています。
• - 上[[対馬町]]大増の霹靂神社は、雷大臣命が新羅から帰還した際に上陸した地（浜久須）であるとされています。
• - 上[[対馬町]]芦見の能理刀神社は、雷大臣命が亀卜を行った場所であるとされています。

系譜

父は臣狭山命で、子に大小橋命、伊岐宿禰の祖・真根子命がいます。また、百済（『神社明細帳』では新羅）の女性を娶り、栗原連の祖・日本大臣命をもうけています。

まとめ

中臣烏賊津は、古墳時代における中臣氏の祖として、また神功皇后の時代に重要な役割を担った人物として、その名が歴史に刻まれています。出自や系譜には諸説がありますが、古代史を彩る重要な人物の一人であることは間違いありません。

参考文献

• - 『日本書紀』(一)、岩波文庫、1994年
• - 宇治谷孟訳『日本書紀』全現代語訳（上）、講談社学術文庫、1988年
• - 宇治谷孟訳『続日本紀』全現代語訳（上）、講談社学術文庫、1992年
• - 『続日本紀』5 新日本古典文学大系16 岩波書店、1998年
• - 佐伯有清編『日本古代氏族事典【新装版】』雄山閣、2015年
• - 岸俊男編『日本の古代7 まつりごとの展開』中公文庫、1996年

関連項目

• - 大神神社

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