中華人民共和国によるチベット併合

中華人民共和国によるチベット併合は、中国共産党がチベットを軍事侵攻によって支配下に置いた一連の過程を指します。この併合は、チベットの歴史における重要な転換点であり、現代のチベット問題の根源となっています。

併合の二段階

併合は、以下の二段階に分けられます。

1. 東北部・東部への侵攻（1948-1949年）： この段階では、中国共産党は、チベットの東部に位置するアムド地方やカム地方の一部を制圧しました。この地域では、中華民国時代の地方軍閥が支配しており、中国共産党はこれらの勢力を排除することで足掛かりを築きました。
2. 中央チベットへの侵攻（1950-1951年）： 第二段階では、中国共産党はチベットの中心部であるウー・ツァン地方やガリ地方へ進軍し、チベット政府ガンデンポタンを屈服させました。中国共産党は、この侵攻を「西蔵和平解放」と称し、チベット人民を「帝国主義勢力と国民党反動勢力から解放する」と主張しました。しかし、チベット側および国際社会では、この併合を「侵略」と捉える見方が一般的です。

背景

チベット併合の背景には、清朝時代からのチベットの分割統治や、中国各地の地方勢力の台頭がありました。

雍正のチベット分割： 18世紀初頭、清朝はチベットを分割し、西蔵、青海、そして中国の各省に組み込まれた地域に分けました。この分割は、チベットの政治的分裂を招き、後の中国のチベット支配を容易にしました。
青海地方の状況： 19世紀後半から20世紀前半にかけて、青海地方はイスラム教徒の馬一族の支配下にありました。中華民国時代には青海省が設立されましたが、馬一族の影響力は依然として強く、中国共産党が支配を確立する上で障害となりました。
激動のカム地方東部： カム地方東部は、清朝時代から四川省などの中国の各省に分属しており、地方の諸侯が支配していました。20世紀初頭には、四川総督の趙爾豊がこの地域を軍事制圧し、西康省を設置しようとしましたが、辛亥革命によって頓挫しました。その後、チベット政府ガンデンポタンは、カム地方西部の支配権を回復しようと試みましたが、中華民国政府との間で紛争が絶えませんでした。

併合の過程

1. 中国共産党の勢力拡大： 1949年、中国共産党は国共内戦に勝利し、中華人民共和国を建国しました。中国共産党は、チベットを「解放」すると宣言し、人民解放軍をチベット国境に集結させました。
2. チャムドの戦い： 1950年10月、人民解放軍はチベット東部のチャムドに侵攻し、チベット軍を破りました。この戦いは、「チャムドの戦い」として知られ、チベット併合の重要な転換点となりました。
3. 十七か条協定： チャムドの戦いの後、中国共産党は、チベット政府代表団を北京に派遣させ、武力を背景に「十七か条協定」を強引に認めさせました。この協定によって、チベットは中華人民共和国の一部となり、チベット軍は人民解放軍に編入されました。しかし、この協定はチベット側からの自由な意思によるものではなく、強制的に締結されたものとして、チベット側や国際社会から批判されています。

その後のチベット

併合後、チベットでは中国共産党による統治が強化されました。土地改革や共産主義教育が導入され、チベットの伝統的な社会制度や文化が破壊されました。1959年にはチベット蜂起が起こりましたが、中国人民解放軍によって鎮圧され、ダライ・ラマ14世はインドへ亡命しました。その後も、チベットでは反体制運動や文化的な抵抗が続いており、チベット問題は国際的な関心を集めています。

各地の状況詳細

青海地方

馬一族の支配： 19世紀後半から、青海地方は回族の有力者である馬一族の支配下に置かれ、地方軍閥として勢力を誇っていました。辛亥革命後もその状況は変わらず、中華民国政府は青海を特別な地区として扱いました。
青海省の成立： 1928年、国民政府は青海省を正式に設立し、馬一族は省主席などの要職に就任しました。しかし、中国共産党の支配下に入ると、馬一族は失脚し、青海省は中華人民共和国の統治下に置かれました。

カム地方東部

清朝の支配： カム地方東部は、清朝時代には四川省などの中国の各省に分属し、地方の土司が支配していました。清末には、四川総督の趙爾豊が軍事侵攻を行い、この地域を支配しようとしましたが、辛亥革命によって頓挫しました。
西康省の設立： 中華民国時代には、カム地方全域を範囲とする西康省が名目上設置されましたが、チベット政府ガンデンポタンがカム地方西部に対する支配権を維持しており、実効支配は及びませんでした。その後、中国共産党が支配を確立し、西康省は中華人民共和国の一部となりました。

中央チベット（西蔵）

ダライ・ラマとガンデンポタン： 17世紀以降、ダライ・ラマはチベットの政治的・宗教的指導者としての地位を確立しました。ガンデンポタンは、ダライ・ラマ領の統治機関として機能し、チベットの政治を担っていました。
ガンデンポタンと清朝： 清朝は、チベットに内乱や外患が発生するたびに介入し、影響力を強めましたが、19世紀以降は支援する余裕を失いました。1904年にはイギリス軍の侵攻を受け、チベットは清朝からの独立を模索するようになりました。
ガンデンポタンと中華民国： 辛亥革命後、チベットは独立を宣言しましたが、中華民国政府との間でカム地方の支配権を巡って紛争が続きました。第二次世界大戦中は中立を保ちましたが、中国共産党の台頭により、チベットは併合されることとなりました。

戦争経過（第二段階）

中国共産党の侵攻： 1950年1月、中国共産党はチベットを「解放」する用意があると宣言し、人民解放軍による侵攻が始まりました。
国際社会の反応： アメリカはチベットの抵抗運動を支援することを検討しましたが、朝鮮戦争の影響で具体的な支援は行われませんでした。インドもチベットへの軍事支援をせず、チベットは孤立した状態となりました。
チャムドへの進攻： 1950年10月、人民解放軍はチャムドに侵攻し、チベット軍は敗北しました。チャムドの戦いを経て、人民解放軍はチベットの首都ラサへの進軍を開始しました。

占領後

ダライ・ラマの避難： 1950年11月、ダライ・ラマはインド国境のヤトンに避難し、中国共産党との交渉を試みましたが、成果は得られませんでした。
国際連合への訴え： チベット政府は国際連合に中華人民共和国による侵略を訴えましたが、国際連合は朝鮮戦争への対応に追われ、チベット問題への介入を断念しました。
十七か条協定の締結： 1951年5月、チベット政府代表団は北京に派遣され、「十七か条協定」を強引に締結させられました。この協定により、チベットは中華人民共和国の一部となりました。

その後の動向

* 反乱と弾圧： 1952年には、人民会議事件が起こり、チベット人の抵抗が始まりました。また1956年には、カム地方で大規模な反乱が起こり、中国人民解放軍によって鎮圧されました。チベットでは、その後も反体制運動や文化的な抵抗が続いています。

まとめ

中華人民共和国によるチベット併合は、チベットの歴史における重要な出来事であり、現代のチベット問題の根源となっています。中国共産党は、この併合を「平和的な解放」と主張していますが、チベット側や国際社会では、この併合を「侵略」と捉える見方が一般的です。併合後、チベットでは中国共産党による統治が強化され、チベットの伝統的な社会制度や文化が破壊されてきました。チベット問題は、今後も国際的な関心を集め続けるでしょう。

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