主教戦争

主教戦争とは

主教戦争（しゅきょうせんそう、英: Bishops' Wars）は、17世紀のイングランドとスコットランドの間で発生した、宗教的な対立を背景とする二度の戦争です。この戦争は、イングランド王でありながらスコットランド王でもあったチャールズ1世が、両国の宗教統一を強行しようとしたことが原因で起こりました。

背景

宗教改革の影響はブリテン島にも及び、イングランドでは監督制（主教制）に基づく国教会が、スコットランドでは長老制が有力でした。チャールズ1世は、両国の宗教を統一しようと試み、1633年の戴冠式でスコットランドへのイングランド国教会の導入を表明しました。1637年には、側近のカンタベリー大主教ウィリアム・ロードの勧めで、国教会形式の祈祷書をスコットランドに施行しようとしました。これに対し、スコットランドの長老派やピューリタンは、自由な祈祷を主張し、国教会と長老制の教会政治の違いが、対立を深める要因となりました。国教会は、国王を頂点とする階層的な組織構造を持つ一方、スコットランドの長老制は、牧師や信徒代表からなる長老たちが教会を運営するという違いがありました。

第1次主教戦争（1639年）

スコットランドの人々は、祈祷書施行に強く反発し、エディンバラをはじめ各地で民衆暴動が発生しました。1638年2月には、モントローズ伯爵ジェイムズ・グラハムらが国民盟約（盟約派）を結成し、祈祷書の拒否と監督制の廃止を求めました。1639年には、アレクサンダー・レズリーとアーガイル伯爵アーチボルド・キャンベルを指揮官に任命し、兵を募って反乱を起こしました。盟約派は国王への忠誠を誓いつつも、宗教政策には反対するという立場をとっていました。

チャールズ1世は、盟約軍を鎮圧するために、ハミルトン侯ジェイムズ・ハミルトンに軍の招集を命じ、2万の軍勢を集めましたが、兵士の訓練不足や宗教的な理由から士気が低く、イングランド軍は規律を欠き、略奪に走る者もいました。両軍はベリックで対峙しましたが、イングランド軍の不利な状況から、国王軍は和平を申し入れ、戦闘は行われずに1639年6月18日にベリック条約が締結されました。この間、国王派のハントリー侯爵ジョージ・ゴードンがアバディーンを占拠しましたが、モントローズ伯に敗れて捕えられました。

第2次主教戦争（1640年）

和睦が成立したものの、チャールズ1世は事態の打開を目指し、監督制を譲りませんでした。スコットランド盟約派も国王への不信感を抱き、チャールズ1世は再び実力行使を決意しました。軍事費を工面するため、1640年4月に11年ぶりに議会を召集しましたが、議員たちの反発が強く、議会は短期間で解散しました。財政難に苦しんだチャールズ1世は、東インド会社から胡椒を仕入れて売却するなどして急場をしのぎ、アイルランド議会の援助でなんとか軍を組織しました。しかし、ストラフォード伯爵トマス・ウェントワースを司令官とする国王軍は、兵力が少なく、士気も低く、第1次主教戦争よりも状況は悪化していました。

一方、盟約軍はイングランド北部に進軍し、1640年8月28日のニューバーンの戦いで国王軍を破りました。ニューカッスルが盟約軍に占領され、チャールズ1世は自ら和睦を申し入れ、10月26日にリポン条約が締結されました。この条約で、イングランドはノーサンバーランドとダラム両州を占領され、駐留軍維持費を支払うという屈辱を受けました。こうして、第2次主教戦争も事実上チャールズ1世の敗北に終わりました。

結果と影響

チャールズ1世は、駐留軍維持費を支払うために、1640年11月に議会（長期議会）を開かざるを得なくなりました。議会は、無議会政治への批判を強め、ストラフォード伯とロードを投獄、後に処刑しました。議会は国王大権の制限にも取り組みましたが、次第に王党派と議会派に分裂していきました。1641年10月には、アイルランドでプロテスタント虐殺事件が起こり、イングランドの世論は沸騰しました。派遣軍の指揮権をめぐって国王と議会の対立は決定的になり、1642年8月にイングランド内戦が勃発し、清教徒革命が始まりました。

スコットランドは宗教を守り抜きましたが、戦後の方針をめぐり、モントローズ伯とアーガイル伯が対立しました。1641年、チャールズ1世はスコットランドを訪問し、アーガイル伯を侯爵に、レズリーをリーヴェン伯に叙爵しましたが、2人は王党派には加わらず、1643年には議会派と同盟を結びました。モントローズ伯はこれに反発して王党派に加わり、スコットランドで内戦を繰り広げました。

主教戦争は、宗教的な対立が政治的な対立へと発展し、イングランド内戦、ひいては清教徒革命へと繋がる重要な出来事でした。

参考文献

浜林正夫『イギリス市民革命史』未來社、1959年。
今井宏編『世界歴史大系 イギリス史2 -近世-』山川出版社、1990年。
ナイジェル・トランター著、杉本優訳『スコットランド物語』大修館書店、1997年。
松村赳・富田虎男編『英米史辞典』研究社、2000年。
清水雅夫『王冠のないイギリス王 オリバー・クロムウェル―ピューリタン革命史』リーベル出版、2007年。

関連項目

スコットランド聖公会
アイルランド・カトリック同盟
ウェストミンスター信仰告白

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