五角堂

五角堂と和時計：飯塚伊賀七の遺産

茨城県つくば市にある五角堂は、江戸時代の名主・飯塚伊賀七によって設計された、特異な五角形の建築物です。その独創的な形状と内部に備えられた脱穀機、そして和時計とともに、茨城県の史跡として指定されています。

由来と謎

五角堂は、伊賀七の生家跡に建てられました。なぜ五角形という珍しい形にしたのか、その目的は明確には解明されていません。しかし、いくつかの説が存在します。

奇数辺形への挑戦: 設計が難しい奇数辺形の建物を造ることができたため、その技術力を示すために設計したという説。
和算家の影響: 当時の和算家が五角形を研究していたこと、また、土浦城の城下町に見られる迷路のような五角形の外周道路にヒントを得たという説。
陰陽五行説: 五角形の各辺に木、火、土、金、水の意味を付与したという、陰陽五行説に基づく説。

また、五角堂と和時計が収められた時計堂は、かつて同一の建物だと考えられていましたが、実際には別々の建物であったことが判明しています。

歴史

五角堂の正確な建築年代は不明ですが、数学者である山口坎山が谷田部を訪れた際に、既に存在していたことが記録されています。坎山の日記は、1804年から1829年の間に書かれたものであるため、五角堂はそれ以前に建設されたと考えられています。

明治時代には、五角堂に米搗き機があったという記録が残っています。しかし、1911年には既に荒廃しており、1970年代に谷田部町文化財保存会によって修復され、現在の姿を取り戻しました。修復前の1958年には、「五角堂と和時計」として茨城県指定史跡となっています。

2011年の東日本大震災では、壁面の一部が剥離する被害を受けましたが、その後修復されました。

建築

五角堂は、中心部の高さが約6m、五角形の一辺が約4.7m（2間半）の正五角形です。各辺がなす内角は108度、面積は約33m2（約10坪）です。外見は四角形に見えますが、内部に入ると五角形であることが明確に分かります。内部は土間で、壁には窓がなく、簡素な造りです。出入り口は西と北西の2か所に設けられており、これらは母屋側に面しています。

5本の梁は中心で交差し、1本の柱で支えられています。この柱の断面は108度と72度からなる菱形をしています。屋根は茅葺の正五角錐で、中心の柱から放射状に延びる10本の小柱（垂木）によって支えられています。

飯塚家の門側の壁面は東西方向に一致しており、この壁から北の角に向かって伸びる梁は南北方向に一致しています。

堂内の脱穀機

五角堂内には、明治時代の文献に記載されている「米搗き機」とみられる部品が残っており、復元されています。これは高さ約2.2mの三角柱状の櫓のようなもので、綱を引くと滑車が動き、太い杵で穀物を打つことができます。また、1,000から10,000までを表示するメーターも備えられており、杵を打った回数や臼が回転した数を数えるために設置されたと推測されます。脱穀機には「天保四年癸巳六月二十八日造形」「天保四年癸巳七月造工」（1833年）と製造年月日が記されており、この年の冷夏による凶作を見越して伊賀七が製作したと考えられています。

和時計

和時計は、高さが2mもある大型のもので、朝夕に太鼓や鐘を自動で鳴らして町の人々に時を知らせるとともに、飯塚家の門扉を自動で開閉させたと言われています。この時計は、元は飯塚家の敷地内にあった「時計堂」に納められていましたが、時計堂は現存していません。時計の部品は、後に五角堂の梁の上から発見されました。

時計堂は、伊賀七が60歳になった1822年に完成したとされており、還暦の記念に造られたものと考えられています。当時、和時計作りは各地で盛んでしたが、伊賀七が作ったような大型のものや、自動で時刻を知らせる装置は他にはなかったとされています。時計の文字盤には、お経や神への祈願文がびっしりと書かれており、伊賀七の信仰心の深さが伺えます。

伊賀七の没後、管理が行き届かなくなり、時計の部品は五角堂に収納され、時計堂は解体されてしまいましたが、高層気象台の田村竹男によって復元されました。さらに、2012年には、伊賀七生誕250周年を記念した展示のために解体・再整備されました。

時計の文字盤には、1日に1回転する「百刻文字盤」と季節ごとに交換する「節板式文字盤」の2つがあり、100か月まで表示できる装置も備わっていました。これは、時計とカレンダーの機能を兼ね備えた装置と言えます。復元のきっかけとなったのは、1985年の国際科学技術博覧会に合わせて谷田部町が開催した「幕末の科学展」で展示する構想が持ち上がったことです。

現在、復元模型は谷田部郷土資料館と水戸市にある茨城県立歴史館に展示されています。また、部品などは残っていませんが、懐中時計も作ったとされています。この懐中時計は、実際には目覚まし時計ほどの大きさがあり、木製ではなく鉄製でした。

交通

五角堂へは、関東鉄道バス「谷田部四ツ角」バス停で下車し、常磐自動車道谷田部ICから県道19号線（サイエンス大通り）を北上、上横場交差点を左折して国道354号線を進み、旧つくば市役所谷田部庁舎の次の交差点（福田坪交差点）を左折、県道・千葉県道3号線を800mほど進むと、右側に五角堂と案内看板が見えます。

関連情報

茨城県の観光地
つくば市立谷田部中学校 - 音楽室が五角堂を模したデザイン

外部リンク

五角堂と和時計 - 茨城県教育委員会

参考文献

茨城県教育委員会『郷土の先人に学ぶ』、昭和61年3月31日
茨城県地域史研究会 編『茨城県の歴史散歩』、山川出版社、2006年1月25日
茨城大学東日本大震災調査団『東日本大震災調査報告書改訂版』、2011年8月31日
茨城地方史研究会 編『茨城の史跡は語る』、茨城新聞社、平成元年12月30日
田村竹男『飯塚伊賀七』、崙書房、1979年1月15日
中村哲夫『茨城の建築探訪』、崙書房出版、2006年5月20日
「日研」新聞編集委員会 編『茨城108景をめぐる』、筑波書林、平成3年9月20日
ワークス 編『ふるさとの文化遺産 郷土資料事典 8 茨城県』、ゼンリン、1997年3月20日

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