内野信二

内野信二（うちのしんじ、1900年（明治33年）8月6日 - 没年不明）は、昭和期に活動した日本の海軍軍人です。特に、第二次世界大戦中に伊号第八潜水艦長として敢行された、極めて困難な第二次遣独潜水艦作戦を成功裏に完遂したことで知られています。最終階級は海軍大佐でした。

経歴

鹿児島県の出身で、鹿児島二中を経て海軍兵学校に進み、第49期生として卒業しました。卒業時の成績は174名中29番と優秀で、同期には原為一らがいます。1922年（大正13年）5月に海軍少尉に任官後、中尉時代には5隻の呂号潜水艦に乗組み、潜水艦乗りとしての経験を積みました。大尉に進級後は、水雷学校の高等科および専攻科で専門知識を深め、伊号潜水艦の水雷長や潜水学校の教官を務めました。1933年（昭和8年）11月には少佐に昇進し、潜水艦長養成課程である潜水学校甲種学生を修了後、「呂号第二七潜水艦」、「伊号第二四潜水艦」、「伊号第六五潜水艦」、「伊号第五潜水艦」、「伊号第六八潜水艦」など、5隻の潜水艦長を歴任しました。その後、「知床」の副長を経て再び潜水学校の教官に着任。この時期は太平洋戦争の開戦と重なり、急速な潜水艦長の育成が求められていたため、通常は年に1期のみの学生を3期連続で卒業させるなど、多忙な日々を送りました。

内野が伊号第八潜水艦の艦長となったのは1942年（昭和17年）7月です。着任後、ガダルカナルの戦いに参加し、同島への物資輸送作戦や、日本軍撤退時の陽動行動などを遂行しました。大佐への昇進が間近となり、少中佐の配置である潜水艦長の任を離れる時期が近づいていましたが、軍令部で潜水艦作戦を担当していた井浦祥二郎少佐（当時）の強い働きかけにより、伊号第八潜水艦長に留まることになりました。そして、第二次遣独潜水艦作戦の航海中に大佐に昇進しています。現職の潜水艦長として大佐に進級したのは日本海軍史上初のことであり、内野は当時の現職潜水艦長の中で最古参となりました。この困難な作戦への参加は、内野自身の希望でもありました。

第二次遣独潜水艦作戦

第二次遣独潜水艦作戦は、ドイツ総統アドルフ・ヒトラーの要望をきっかけに計画されました。インド洋における連合国側の通商破壊戦強化を目指すドイツ側は、日本の潜水艦2隻の無償譲渡を打診しました。このうち「呂号第五〇〇潜水艦」はドイツ海軍の乗員によって日本へ回航されましたが、もう1隻の「呂号第五〇一潜水艦」は日本海軍による回航が望まれました。伊号第八潜水艦は、この回航要員約60名を乗せ、ドイツへ向かうことになったのです。また、この作戦には日独間の機密兵器交換、戦略物資（生ゴム、錫など）の輸送、そして在欧人員の交代といった重要な目的がありました。

この長距離航海には、多くの困難が伴いました。対潜戦闘を繰り返す連合国海軍・空軍の厳重な警戒を突破するためには、当時日本の潜水艦には装備されていなかった電探（レーダー）が不可欠でした。また、広大な洋上で燃料を補給する方法や、ドイツ海軍との確実な会合方法も確立する必要がありました。日本の電探開発は立ち遅れていましたが、呉海軍工廠の電気部は懸命な努力により、潜水艦用電探を完成させ、伊号第八潜水艦に装備することに成功しました。これは日本潜水艦への電探初装備となります。燃料補給についても、潜水艦同士が艦首を突き合わせるという方法を開発するなど、様々な課題を克服。伊号第八潜水艦は1943年（昭和18年）6月1日、呉軍港を出港しました。途中で「伊号第一〇潜水艦」との洋上補給を3回成功させ、喜望峰を目指しましたが、イギリス軍の厳しい哨戒網を避けるため、大幅な迂回航路を選択しました。喜望峰の南は荒天が続く海域であり、艦は度々損傷を受けながらも、大西洋に到達しました。

1943年7月21日には、ドイツ駐在武官からの無線連絡を受け、ドイツ潜水艦との会合地点へ向かいました。長期間にわたる単独での外洋航海の後、広大な海域で小さな潜水艦同士が無事に出会えるか懸念されましたが、ドイツ海軍側の周到な配慮により、8月2日に会合を果たすことができました。ここでドイツ製のレーダーを装着しましたが、その性能は極めて優秀であり、内野は後に「これがなければ大西洋を乗り切ることは不可能であった」と語っています。危険海域を突破する際には、ドイツ空軍が連合国哨戒部隊を攻撃して伊号第八潜水艦を援護するなど、緊密な連携が取られました。8月30日には2度目のドイツ海軍との会合に成功し、水上部隊や航空部隊の護衛を受けながら、無事ブレスト軍港に入港しました。阿部勝雄、藤村義一といった日本海軍武官やドイツ海軍大将らの出迎えを受け、ドイツ側からの温かい歓迎を受けました。

この作戦で日独間で交換された兵器は多岐にわたります。日本側からは酸素魚雷や潜水艦の自動懸吊装置、無気泡発射管、最新式の水上偵察機などが提供され、ドイツ側からは電波探知機や航空機用機関銃、20ミリ四連装対空機関銃、高速魚雷艇用エンジン、各種無線兵器などが日本へ運ばれました。

内野ら幹部はブレスト入港後、ベルリンやパリを訪問し、乗員一同と共にパリ郊外で休息を取りました。ベルリン滞在中に、日独伊三国軍事同盟の一角であるイタリアが降伏するという報を受けました。帰国準備と訓練を終え、10月5日に伊号第八潜水艦は日本への帰路に就きました（この際、横井忠雄技術中佐らが同乗）。港外では、欧州に留まる多くの日本人が曳船に乗り込み、『軍艦行進曲』を歌って見送ったといいます。帰路も連合国の警戒は厳しく、航空攻撃を受けるなど危険な場面もありましたが、12月5日にシンガポールに到着しました。ここで、第三次遣独作戦に向かった伊号第三四潜水艦が撃沈されたという悲報を知り、内野は第四次作戦に向かう伊号第二九潜水艦の木梨鷹一艦長と面会し、作戦成功に不可欠であったドイツ製レーダー装置を譲っています。そして12月21日、無事呉軍港に帰着しました。この航海は実に204日間、約3万5千海里（約6万5千キロメートル）に及ぶ壮大なものでした。

遣独潜水艦作戦は、合計5次にわたって計画・実行されましたが、往路で2隻、復路で2隻が撃沈や消息不明となり、伊号第八潜水艦による第二次作戦が唯一の往復成功例となりました。伊号第八潜水艦の元通信長は戦後、内野艦長の指揮ぶりについて、「周到な準備と航路選択を行い、常に冷静で慎重な行動であった」と回想しています。また、軍令部の井浦祥二郎少佐も、この作戦の成功は「内野の力量に負うところが大きい」と評価しています。

戦後の1947年（昭和22年）11月28日、内野は公職追放の仮指定を受けました。没年については明らかになっていません。

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