北マケドニアの歴史

北マケドニアは、バルカン半島の北西部に位置する国であり、その歴史は古代にまで遡ります。多様な民族が交錯し、様々な勢力の支配下にあったこの地の歴史を紐解きます。

古代

マケドニア地域には、古くからイリュリア人やトラキア人などの部族が居住していました。紀元前4世紀から紀元前3世紀にかけて、マケドニア王国がこの地域を支配し、アレクサンドロス3世の時代には最大版図を誇りました。しかし、アレクサンドロスの死後、王国は分裂し、紀元前2世紀にはローマ帝国の支配下に入りました。紀元前146年にはローマ帝国のマケドニア属州の一部となり、ローマ帝国が東西に分裂すると、東ローマ帝国の一部となりました。

中世

中世に入ると、マケドニア地域には西ゴート族、フン族、アヴァール人、そしてスラヴ人などが侵入を繰り返しました。7世紀初頭には、スラヴ人がこの地域の主要な住民となり、テッサロニキを含むマケドニア地域のほぼ全域に居住地を拡大しました。680年頃には、ブルガール人の一派がマケドニアに流入しました。

9世紀後半には、キュリロスとメトディオスの兄弟がスラヴ語に聖書を翻訳し、スラヴ人へのキリスト教布教を推進しました。第一次ブルガリア帝国は9世紀末にマケドニア地方を支配下に置きましたが、帝国の衰退後、再び東ローマ帝国の支配下となりました。978年には、サムイルがオフリドを首都としてブルガリア帝国を再建し、一時的に勢力を拡大しましたが、1014年にサムイルが死去すると帝国は衰退し、1018年には東ローマ帝国の支配下に戻りました。

その後、セルビア人やその他の地方領主が割拠する状態を経て、12世紀末からは第二次ブルガリア帝国、セルビア王国、そして十字軍国家の間で勢力争いが繰り広げられました。セルビア王国はステファン・ウロシュ3世デチャンスキの下でマケドニア地方全域を支配下におさめ、その息子ステファン・ウロシュ4世ドゥシャンの下でセルビアは絶頂を迎えました。しかし、ウロシュ4世の死後、セルビアは分裂し、1371年のマリツァ川の戦いを経て、マケドニアはオスマン帝国の支配下に入りました。

オスマン帝国統治時代

オスマン帝国の統治下では、非イスラム教徒は信仰を維持することが認められましたが、税制や出世の面で不利な扱いを受けました。そのため、イスラム教に改宗する者もいました。また、オスマン帝国の宗教的寛容さから、スペインなどで迫害されていたユダヤ人がマケドニアに流入し、ユダヤ人人口が増加しました。

セルビア正教会やブルガリア正教会といった民族ごとの正教会組織はその力を失い、コンスタンディヌーポリ総主教庁へと統合されました。ミッレト制の下で、正教徒は一括して総主教庁により管理され、マケドニアのスラヴ人の間では独自の「マケドニア人」民族意識はまだ生まれていませんでした。一方、アルバニア人の間では、より多くの人々がイスラム教を受容しました。

長いオスマン帝国の支配下で多様な民族の混在化が進み、マケドニア地域にはスラヴ人、アルーマニア人、トルコ人、アルバニア人、ギリシャ人、ロマ、ユダヤ人などが居住していました。この地域のスラヴ人の話す言語はブルガリア語に近く、マケドニア地方のスラヴ人はブルガリア人とみなされていました。

民族復興時代

18世紀から19世紀に入ると、バルカンの諸民族の間で民族文化の復興運動が起こりました。ブルガリア民族復興運動はマケドニア地域にも影響を与え、教会のブルガリア語化やブルガリア語による世俗教育の学校の設置などが進められました。列強諸国の支援を受けてセルビア王国やギリシャ王国がオスマン帝国から独立を果たすと、オスマン帝国からの分離の動きが加速しました。

1878年のサン・ステファノ条約によって、ブルガリア公国はマケドニア地方全域を領土として獲得するとされましたが、列強諸国の介入によりマケドニア地方はオスマン帝国領に復しました。マケドニアで最大の人口を持っていたスラヴ人の間では、マケドニアの分離とブルガリアへの併合を求める動きが強まりました。この頃、マケドニア地域のスラヴ人の多くはブルガリア人を自認していましたが、一部では独自のマケドニア人の民族自認も芽生え始めていました。

ギリシャ、セルビア、ブルガリアはマケドニアを自国領へと組み込むことを狙い、それぞれの組織がマケドニア地方に浸透し、地域は不安定な混迷の地となっていきました。1903年8月には、内部マケドニア革命組織がイリンデン蜂起を起こしましたが、失敗に終わりました。

バルカン戦争

1912年、ギリシャ、セルビア、モンテネグロ、ブルガリアの4国は同盟を結び、第一次バルカン戦争を引き起こし、オスマン帝国からマケドニア地域を奪いました。しかし、マケドニアの分割をめぐってセルビアとギリシャが対立し、1913年には第二次バルカン戦争が勃発しました。ブルガリアは敗北し、ブカレスト条約によってマケドニア地域の分割が決定され、マケドニア地域はギリシャ、セルビア（のちユーゴスラビア王国）、ブルガリアによって分割されました。この時にセルビアとなった地域が、のちのマケドニア共和国の領土となります。

セルビアおよびユーゴスラビア統治時代

第一次世界大戦後、セルビア領マケドニアでは内部マケドニア革命組織による抵抗運動が続きました。セルビアはセルビア人・クロアチア人・スロヴェニア人王国へと改組され、後にユーゴスラビア王国となりましたが、マケドニアでは民族自決を求める運動が続きました。

第二次世界大戦中、ユーゴスラビアはナチス・ドイツに占領され、マケドニアはブルガリアやイタリアの支配下に置かれました。しかし、ヨシップ・ブロズ・ティトー率いるパルチザンが抵抗運動を展開し、1944年にはマケドニア人民解放反ファシスト会議（ASNOM）が組織され、戦後のユーゴスラビア連邦内でのマケドニアの地位が定められました。

社会主義時代

ユーゴスラビア連邦の下では、ブルガリア人とは異なるマケドニア人意識が涵養され、マケドニア語の正書法も確立されました。マケドニアはユーゴスラビアの構成共和国となり、独自の憲法、議会、政府を持つことが認められました。しかし、連邦からの分離を求める動きは抑圧され、ティトーによる一党独裁体制が維持されました。

1980年にティトーが死去すると、ユーゴスラビアは経済不振に陥り、連邦に対する離反傾向が強まりました。1990年代に入ると、ユーゴスラビアは解体の危機に瀕し、マケドニアでも独立を求める声が高まりました。

1990年代以降

1991年 9月8日、マケドニアは独立を宣言しました。しかし、国名をめぐるギリシャとの対立や、国内のアルバニア人問題など、多くの課題に直面しました。ギリシャはマケドニアの国名がギリシャ領マケドニアに対する領土的野心を疑わせるとして、マケドニアの国名承認を拒否し、経済制裁を実施しました。マケドニアは国際連合に「マケドニア旧ユーゴスラビア共和国」として加盟を認められましたが、国名問題は長期化しました。

1999年のコソボ紛争では、大量の難民がマケドニアに流入し、経済に大きな負担をかけました。2001年には、国内のアルバニア人武装勢力が蜂起し、マケドニア紛争が発生しましたが、主要国の調停により和平が成立しました。

国名問題の終結と欧州統合への道

2017年に発足したゾラン・ザエフ政権はギリシャとの呼称問題解決に向けて積極的に働きかけ、2018年 6月12日にマケドニアは国名を北マケドニア共和国とすることでギリシャとの合意(プレスパ合意)が成立、2019年1月11日、マケドニア議会は国名を「北マケドニア共和国」に変更する憲法改正案を承認しました。

こうして国名問題によるギリシャとの対立が解消されたため、北マケドニアは長年の目標であったEUとNATO加盟への道が開けることとなりました。2020年 3月27日に正式にNATOに加盟、EUとも加盟交渉を開始することで合意しました。

もう一度検索