吉丸一昌

吉丸一昌

吉丸一昌（よしまる かずまさ、1873年9月15日 - 1916年3月7日）は、日本の作詞家、文学者、教育者です。特に「早春賦」の作詞者として広く知られています。彼は、東京府立第三中学校の教諭や東京音楽学校（現在の東京藝術大学）の教授を歴任し、教育者としても多大な貢献をしました。大分県北海部郡海添村（現・臼杵市海添）の出身で、その才能は早くから開花し、文学と音楽の両分野でその名を残しました。

生涯

誕生と教育

吉丸一昌は、旧臼杵藩の下級武士である吉丸角内の長男として生まれました。小学校時代から非常に優秀で、県から表彰を受けるほどでした。大分県立大分中学校（現在の大分県立大分上野丘高等学校）を経て、1894年には熊本市の第五高等学校（熊本大学の前身）に進学しました。ここでは夏目漱石、小泉八雲など著名な教授陣から薫陶を受け、剣道にも熱中していました。

東京帝国大学と私塾

1898年、第五高等学校を卒業した吉丸は、東京帝国大学国文科に進学しました。在学中には下宿先で「修養塾」という私塾を開き、地方から来た苦学生たちの生活から勉学、就職までを全面的に支援しました。1902年に東京帝国大学を卒業後、東京府立第三中学校に教師として赴任し、芥川龍之介など、後に著名になる人物を教え子に持ちました。また、私財を投じて「下谷中等夜学校」を創立し、教育の機会均等に貢献しました。

東京音楽学校での活躍

1908年、恩師である湯原元一が東京音楽学校の校長に就任すると、吉丸は倫理、歌文、国語の教授として招聘されました。さらに、生徒監にも任命され、学校運営にも深く関与しました。1911年から1914年にかけて発行された『尋常小学唱歌』の編纂では、歌詞担任委員主任として重要な役割を果たしました。この編纂事業で、高野辰之よりも責任ある立場にあり、題名原案を作成するなど、多大な貢献をしました。

作詞家としての活動

吉丸は、『尋常小学唱歌』の編纂を機に、本格的に作詞家としての活動を開始しました。その作品は「桃太郎」「日の丸」「池の鯉」「かたつむり」など、現在でも広く親しまれています。また、『新作唱歌』全10集を編纂し、「早春賦」、「故郷を離るる歌」、「木の葉」などの名曲を生み出しました。これらの作品では、梁田貞、中田章といった新進気鋭の作曲家を起用し、音楽界の発展にも寄与しました。また、大正天皇即位の「御大礼奉祝合唱歌」や邦楽「御代萬歳」の作詞も担当しました。

晩年と死

多くの作品を生み出し、学生たちのために私財を惜しまなかった吉丸でしたが、自身の生活は質素で、豪放磊落な人物として知られていました。大酒呑みであったこともあり、1916年3月7日に心臓発作により42歳で急逝しました。彼の音楽家としての活動は、唱歌の成立とその後の日本の童謡に大きな影響を与えました。

死後

吉丸の墓は東京都文京区本駒込の龍光寺にあり、2010年には「早春賦」歌碑が建立されました。大分県臼杵市にある吉丸一昌記念館・早春賦の館では、彼のゆかりの楽譜や遺品が展示されています。

主な作品

吉丸一昌は、数多くの歌曲、校歌、オペレッタの作詞を手がけました。以下に主な作品を記します。

歌曲

楽しき農夫（作曲：シューマン）1908年
夕の鐘（作曲：フォスター）1908年
浦のあけくれ（作曲：ジョセフ・マッジンギ）1910年
四つ葉のクローバー（作曲：ルドルフ・ロイテル）1910年
東天紅（作曲：山田耕作）1910年
嬉しき日（作曲：本居長世）1912年
『乃木大将の歌』（作曲：小松耕輔）1912年
『乃木大将夫人の歌』（作曲：大和田愛羅）1912年
手毬と紙鳶（作曲：楠美恩三郎）1912年
お玉じゃくし（作曲：梁田貞）1912年
蛍狩（作曲：中田章）1912年
つばめ（作曲：北村季晴）1912年
達磨さん（作曲：本居長世）1912年
飛行機の夢（作曲：大和田愛羅）1912年
木の葉（作曲：梁田貞）1912年
春の草、秋の草（作曲：中島かね子）1912年
かみなりさま（作曲：永井幸次）1913年
なんだっけ!?（作曲：大槻貞一）1913年
犬と猫（作曲：澤崎定之）1913年
早春賦（作曲：中田章）1913年
ニーナ（作曲：ペルゴレージ）1913年
蜜蜂（ドイツ民謡）1913年
雲雀（作曲：本居長世）1913年
木がくれの歌（作曲：船橋栄吉）1913年
故郷を離るる歌（ドイツ民謡）1913年
角力（作曲：澤崎定之）1913年
枯木立（作曲：松島彝子）1913年
獨逸膺懲の歌（作曲：島崎赤太郎）1914年
かくれんぼ（作曲：工藤冨次郎）1915年
お祖父さんお祖母さん（作曲：梁田貞）1915年
森の鳥（作曲：弘田龍太郎）1915年
母よ、さらば（作曲：成田為三）1916年
望郷の歌（作曲：成田為三）1916年

校歌

吉丸は、数多くの学校の校歌も作詞しました。

函館市立弥生小学校（作曲：中田章）
八戸市立島守小学校（作曲：楠美恩三郎）
八戸市立吹上小学校（作曲：楠美恩三郎、編曲：橋本秀次）
盛岡市立仁王小学校（作曲：楠美恩三郎）
茨城県立水海道第一高等学校・附属中学校（作曲：南能衛）
埼玉県秩父郡小鹿野町立両神小学校（作曲：岡野貞一）
東京都立両国高等学校（作曲：石原重雄）
鎌倉市立腰越小学校（作曲：岡野貞一）
長野県大町高等学校（作曲：島崎赤太郎）
静岡県立静岡高等学校（作曲：島崎赤太郎）
旧北海道庁立札幌高等女学校（作曲：岡野貞一）
旧千代田区立小川小学校（作曲：南能衛）
旧千葉県師範学校（作曲：楠美恩三郎）
旧新潟医学専門学校（作曲：楠美恩三郎）
旧長崎県立長崎中学校（作曲：岡野貞一）

オペレッタ

歌遊び うかれ達磨（作曲：本居長世）

著書

吉丸は教育者としてだけでなく、著述家としても活動しました。以下は主な著書です。

『名家修養談叢』 1903年
『修養夜話』 1910年
『日の丸王 世界探検お伽噺し』 1910年
『修身訓話 精神修養』 1911年
『武士道訓話 精神修養』 1911年
『立志訓話 精神修養』 1911年
『新作唱歌』全10集 1912年-1915年
『歌遊び うかれ達磨』 1913年
『新撰作歌法』 1913年
『高等国文抄　巻１』 1915年
『御代萬歳』 1916年

関連書籍

『尋常小学唱歌伴奏楽譜・歌詞評釈:第一学年用』 福井直秋 著、島崎赤太郎・吉丸一昌 閲 1911年
『望郷の歌 吉丸一昌』 吉田稔 1988年
『わき出づる国歌 吉丸一昌魂の貴香花』夢一ペン冬 2006年
『吉丸一昌 日露戦争と府立三中』岡田孝一 2007年
『早春賦をつくった吉丸一昌 我が祖父、その生き様を探る』吉丸昌昭 2019年
『詩人吉丸一昌のミクロコスモス 子供のうたの系譜』中村雪武 2019年
『吉丸一昌の時代 唱歌編纂と早春賦の謎』田中勇人 2022年

関連番組

NBS開局40周年記念特別番組『信州三景〜ふるさと名曲ものがたり〜』（長野放送、2009年）

脚注

[注釈・出典]

関連項目

尋常小学唱歌
唱歌 (教科)
文部省唱歌

外部リンク

フンドーキン醤油株式会社・著名人見聞録
早春賦 倶楽部
大分県臼杵市　吉丸一昌記念館「早春賦の館」
* Facebook 吉丸一昌顕彰会

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