土田直鎮

土田直鎮（つちだ なおしげ）

土田直鎮は、1924年1月16日に生まれ、1993年1月24日に没した日本の歴史学者です。東京大学名誉[[教授]]であり、国立歴史民俗博物館の館長も務めました。専門は日本古代史で、特に平安時代の貴族社会に関する研究で知られています。土田の研究は、史料を丹念に読み解き、実証的な分析を行うことを特徴としていました。

生涯と業績

土田は東京帝国大学文学部を卒業後、史料編纂所に勤務し、「大日本史料 第二篇」の編纂に携わりました。彼の研究の中心テーマは平安時代の貴族社会、特に摂関政治期の政治構造でした。当時、摂関家の政所が政治の中心であったとする「政所政治」論が有力でしたが、土田はこれを否定しました。彼は、詳細な史料分析を通じて、依然として太政官が政治の中心であり続けたことを立証しました。この研究は、当時の学界に大きな影響を与えました。

土田の研究姿勢は、史料の精密な理解に徹することでした。彼は、後世に名を残すような功名心に基づく研究を嫌い、純粋に歴史的事実の解明に情熱を注ぎました。彼の厳密な史料批判と実証的な研究態度は、後進の研究者たちに大きな影響を与えました。1993年1月24日、国立歴史民俗博物館長在職中に肺炎のため69歳で死去しました。

略歴

1924年：東京府北豊島郡高田町（現在の東京都豊島区）に、倫理学者である土田誠一の次男として生まれる。
1930年：学習院初等科に入学。
1936年：東京府立第一中学校に入学。
1941年：第一高等学校文科乙類に入学。
1943年：東京帝国大学文学部国史学科に入学。
1944年：学徒出陣により陸軍飛行学校に入隊。
1945年：終戦を迎え、陸軍少尉となる。
1946年：復員し、東京帝国大学文学部国史学科に復学。
1949年：東京大学文学部国史学科を卒業。卒業論文は「奈良時代に於ける律令官制の衰頽に関する一研究」。東京大学史料編纂所に勤務。
1958年：東京大学史料編纂所事務官
1962年：東京大学史料編纂所助手
1969年：東京大学史料編纂所助[[教授]]
1971年：東京大学史料編纂所教授
1973年：東京大学文学部教授を併任（1974年まで）。
1974年：東京大学文学部教授、東京大学史料編纂所教授を併任（1983年まで）。
1975年：東京大学史料編纂所所長（1977年まで）。
1977年：東京大学百年史編集委員会委員長（1983年まで）。
1983年：国立歴史民俗博物館長（第2代）に就任。
1984年：東京大学名誉[[教授]]となる。
1993年：肺炎のため死去。

学外における役職

1968年：日本歴史学会理事（1991年まで）。
1976年：史学会理事（1978年まで、1983年に理事長）。

叙勲歴

1985年：紫綬褒章を受章。
1993年：正四位、勲二等瑞宝章を受章。

逸話

土田は、1980年4月の進学生歓迎会で、「これから遺言を話す」と切り出し、以下の三つの点を述べたとされています。

1. 現代人の心で古代のことを考えてはならない。
2. 古代のことは、古代の人の心にかえって考えなくてはならない。
3. 自分は長い間そうしようとしてきたが、結局駄目だった。お前らにできるわけがない。

この言葉は、歴史研究における困難さと、古代史を研究する上で重要な視点を示唆しています。また、「俺は道長なんかと酒は飲みたくない」と語っていたという逸話も残っています。

学徒出陣の際には、埼玉県熊谷の陸軍飛行学校で厳しい訓練を受けました。教官から「お前たちは消耗品である」という訓示を受け、面会や外出、休暇、家族写真の持ち込みや隊での写真撮影も禁止されるなど、特攻を前提とした過酷な状況下で過ごしたとされています。

家族・血縁

土田の兄は「ミスター警視庁」と呼ばれた土田國保（元警視総監）、弟は東京証券取引所社長の土田正顕です。

主な著書

『王朝の貴族 （日本の歴史5）』 中央公論社 1965年／中公文庫、改版2004年
『奈良平安時代史研究』 吉川弘文館 1992年　オンデマンド版
『平安京への道しるべ 奈良平安時代史入門』 吉川弘文館 1994年
『古代の武蔵を読む』 吉川弘文館 1994年

編纂

『日本の名著4　源信』「往生要集」現代語訳、川崎庸之・秋山虔共訳、中央公論社、1972年／講談社学術文庫、2018年
『日本思想大系3　律令』（井上光貞らと校注） 岩波書店 1976年（新装版1994年）
『日新館童子訓 現代語訳』 松平容頌 訳 三信図書、1984年
『北山抄』（神道大系 所功と校注） 神道大系編纂会 1992年
『西宮記』（神道大系 所功と校注） 神道大系編纂会 1993年

記念論集

『奈良平安時代史論集』　土田直鎮先生還暦記念会編 吉川弘文館 1984年

もう一度検索