埼玉高速鉄道2000系電車

埼玉高速鉄道2000系電車は、同社の通勤形車両として重要な役割を担っています。埼玉高速鉄道線の開業に際し、2000年から2001年にかけて製造されました。

概要

路線の開業準備として、2000年度に川崎重工業で6両編成10本、合計60両が製造されました。特筆すべき点として、8編成から10編成までの3本は、川崎重工業ブランドでの近畿車輛による製造（OEM）ですが、車内に貼付されている製造銘板には「川崎重工業」と記されています。製造された車両は2000年9月下旬以降に順次落成し、メーカーから甲種輸送により営団綾瀬検車区（当時）へ搬入され、必要な整備や構内での試運転が実施されました。その後、同年11月15日に路線整備が完了したことを受け、浦和美園車両基地へ回送されました。

本系列は、帝都高速度交通営団（現・東京地下鉄）、東京急行電鉄、東京都交通局、そして埼玉高速鉄道の4社間で定められた相互直通運転における車両に関する協定に準拠した仕様となっています。ATO（自動列車運転装置）やホームドアに対応したワンマン運転が可能な設計です。2023年3月18日からは、東急新横浜線との相互直通運転も開始されています。

設計にあたってのコンセプトは、「すべてのお客様に快適で優しい移動空間を提供する車両」であることと、「21世紀に開業を迎える路線にふさわしい、清潔で未来感あふれる車両」とすることが目指されました。形式名に「2000系」と付されたのは、路線が開業した年度が2000年度であることなどに由来します。

埼玉高速鉄道では、車両の工場検査業務を営団地下鉄に委託する前提で計画を進めていました。このため、埼玉高速鉄道の車両を営団地下鉄の9000系電車と共通化するために、1996年8月に両社間で「埼玉高速線の車両に係わる業務受委託契約（新造車両）」が締結され、営団から9000系に関する技術情報が埼玉高速鉄道に提供されました。なお、1編成（6両編成）あたりの製造価格は約8億8,000万円とされています。

車両概説

車体

車体は営団9000系を基本としており、大型の押出形材を用いたアルミ合金製です。側面の一部には摩擦攪拌接合（FSW）が溶接に用いられ、外観の美観向上に寄与しています。車体外部には、埼玉高速鉄道のコーポレートカラーであるブルーを基調に、アクセントとしてグリーンラインが配されています。前面および側面には、同社のシンボルマークである「SR」マークが貼り付けられています。

前面は平面構成で、運転台の窓には大型の曲面ガラスが採用され、上部には遮光フィルムが貼付されています。地下線内での非常時に備え、貫通式の非常口としても機能するプラグドアが備わっています。車体下部には排障器（スカート）が設置され、デザインにシャープさと力強さを加えています。側面の客用ドアはステンレス製とすることで、コストダウンと同時に外観上のアクセントとなっています。車体は20m級、片側4扉ですが、先頭車はワンマン運転機器の設置スペース確保のため、乗務員室部分が中間車より66cm長くなっています。行先表示器は前面・側面ともにLED式が採用され、書体は営団9000系と同じ明朝体です。形式番号の百の位は号車番号に対応していますが、将来の8両編成化を見越して、3番目と4番目の号車番号が欠番となっています。

室内

客室内は、天井、側面、妻面などに白色系の化粧板が使用され、明るい空間が演出されています。袖仕切や連結面の貫通扉には薄い紫色が用いられています。床敷物は、石畳をイメージしたグレーの色調です。天井には全長にわたり冷房用ダクトと吹出口が設置されており、中央には各車7台のラインデリアが設けられています。冷房装置は三菱電機製の集中式（能力48.84kW）で、稼働率制御方式が採用されています。火災対策として、ラインデリアの整風板はアルミ製で製造・取り付けられています。

座席は1人分の掛け幅が450mmで、平板な形状です（バケットシートではありません）。モケット柄は埼玉県の花であるサクラソウをイメージしたピンク色で、1人分の着席区分ごとにサクラソウの花びらがアクセントとしてあしらわれています。優先席は同柄の水色で、通路の左右ではなく、片側の車端部に交互に配置されています。2009年から2012年にかけて、座席モケットの張り替えが実施されました。

側窓は、車端部と車体中央部が固定窓、それ以外の2枚に分割された窓は開閉可能な下降窓構造です。いずれも透過率41%のグレーに着色された熱線吸収ガラスが使用されており、ロール式カーテンは設置されていません。客用ドアの室内側もステンレスのヘアライン仕上げで、淡灰色の単板ガラスが接着式で取り付けられています。営団9000系ではドアの戸袋部にあった戸閉検知センサーは、窓ガラスが接着式で引き込まれることがない点や製造費用削減のため、本形式では省略されています。

車内のドア上部には、ドアチャイム内蔵形のLED2段表示式旅客案内表示器が交互に設置されています。2006年からは、案内表示器のないドア上部に順次液晶ディスプレイが取り付けられ、「SaiNet Vision」として情報が放映されるようになりました。さらに2020年3月までに、鉄道車両としては世界で初めてダイナミックビークルスクリーンに交換されています。つり革は全て白色で、三角形の形状です。

ワンマン運転に対応するため、自動放送装置や車外スピーカーが設置され、各車両に4台ずつ対話式の非常通報器が設けられています。自動放送や旅客案内表示器には異常時案内のメニュー機能が組み込まれており、後述の車両情報管理装置（TIS）からの簡単な操作で乗客への案内が可能となっています。車椅子スペースは2号車と5号車に設置されています。連結面の貫通扉はガラスが下まで拡大されており、基本的には片側のみの設置ですが、簡易運転台設置部では両側に設置されています。

主要機器

制御装置は三菱電機製のVVVFインバータ制御装置（MAP-194-15V90形）で、IPM（素子自己保護機能付きIGBT）素子を用いた2レベル方式です。素子の定格は3,300V-1,200Aです。1台の制御装置内に、定格出力190kWの主電動機2台を制御するインバータを2セット搭載した1C2M×2群制御方式を採用しています。トルク制御にベクトル制御を用いることで、高い粘着性能が確保されています。営団9000系が電動車（M）2両でユニットを構成するのに対し、本系列は電動車（M）と付随車（T）でMTユニットを構成する点が大きな特徴です。

補助電源装置は、東芝製のIGBT素子を用いた出力150kVAの静止形インバータ（SIV）を編成あたり2台搭載しています（INV126-E0形）。SIV故障時の冗長性を考慮し、2500形には受給電装置が設けられています。空気圧縮機（CP）は、レシプロ式のC-2500LB形が編成あたり2台搭載されています。

パンタグラフは、2600形に2基、2200形に浦和美園寄りに1基が設置されており、反対側は設置準備工事のみとなっています。これは、隣り合う電動車（M車）同士で片側の車両にパンタグラフをまとめて2基搭載し、うち1基から非搭載車側へ電力を供給する構成としているためです。現状では供給先となる2300形（M1-2）が編成に組み込まれていないため、反対側のパンタグラフは不要となっています。

台車は住友金属工業製のモノリンク式ボルスタレス台車（SS157形・SS057形）が使用されています。基礎ブレーキには、ユニット式の片押し踏面ブレーキ（ユニットブレーキ）が用いられています。台車重量は電動台車が6,240kg、付随台車（排障器なし）が3,900kgです。

保安装置としては、新CS-ATC、ATO（埼玉高速鉄道線・南北線で使用）、ATC-P、TASC（東急目黒線で使用）が搭載されており、乗り入れ各線区の保安システムに対応しています。手動運転時、力行は4ノッチ、常用ブレーキは7段ですが、ATO運転時には力行31段、ブレーキ31段という超多段制御により、乗り心地の向上が図られています。ブレーキ装置はATC装置と連動する全電気指令式で、ATO運転に対応するため各台車ごとにブレーキ作用装置が設けられています。遅れ込め制御との併用により、常用ブレーキのほか、保安ブレーキや降雪時に使用する対雪ブレーキ機能も備えています。

編成

本系列は6両編成で組成されています。将来的に8両編成化される際には、現在の2200形と2500形との間に2300形（M1-2）と2400形（Tc1）を組み込む計画があります。保安機器のうち、ATC/ATO装置と戸閉制御切換装置は2100形と2800形に、ATO送受信器（情報伝送装置）は2100形に搭載されています。

運用

2001年 3月23日より営業運転を開始しました。埼玉高速鉄道線開業日である3月27日に先立つ5日間は、武蔵小杉駅～赤羽岩淵駅間での先行営業運転が行われました。埼玉高速鉄道線内では、乗務員の習熟訓練を兼ねて、開業前の線路を乗客を乗せずに運転する方式が採られました。

全10編成が浦和美園車両基地に配置されており、通常は9編成が運用に就き、1編成が予備となっています。そのため、2編成以上が運用から離脱した場合には、他社車両が代走を務めることがあります。運用区間は、埼玉高速鉄道線、東京メトロ南北線、東急目黒線、東急新横浜線で、相模鉄道線への乗り入れは実施されていません。

車両の甲種輸送時の搬入や定期検査は、東京地下鉄の綾瀬工場で実施されるため、工場への入出場回送列車として東京メトロ有楽町線や千代田線も走行します。

過去には、臨時列車「みなとみらい号」として東急東横線を経由し、元町・中華街駅まで運行された実績があります。ただし、当時は行先表示器に「元町・中華街」の設定がなかったため、往路の全区間と復路の東横線内では「臨時」と表示して運行され、復路の目黒線内以降は定期列車と同様に「浦和美園」と表示されました。2007年7月以降はこの臨時列車に東急5080系が用いられるようになり、本系列はこの列車からは外されました（ただし、同年7月は台風の影響で運休したため、実際に5080系で運用が始まったのは同年10月からとなります）。また、大晦日の終電延長時には、「目黒」行きとして運転される場合があります。

2006年 9月25日のダイヤ改正から2008年 6月21日にかけて、日中に東急目黒線内での折り返し列車が設定されましたが、これらは主に東急車の運用となっており、2000系が充当されることは基本的に少なかったようです。同ダイヤ改正では目黒線内で急行列車の運転が始まり、2000系も急行運用に充当されるようになりました。これに伴い、同年9月以降、行先表示器には列車種別が表示されるようになり、日吉方面行きの優等列車では全区間で、各駅停車では目黒線内のみで、また浦和美園方面行きの優等・各駅停車とも目黒線内のみで種別が表示されています。

運行番号には、1編成が出庫してから入庫するまでの一連の運用を示す番号が付与されています。本系列が充当される運行番号は、「80M」といったように末尾の所属記号が埼玉高速鉄道を表す「M」となっています。ただし、東急目黒線や東急新横浜線内での運行番号は、車両前面の表示器上の表示に変化はありませんが、列車ダイヤ上の正式な運行番号では、百位を「5」として他社車両（東京メトロ車は3、東急車は2、相鉄車は6）と区別されています。

2023年3月18日のダイヤ改正により、東急新横浜線との相互直通運転が始まりました。

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