多田羅迪夫

多田羅迪夫（たたら みちお）

多田羅迪夫は、1947年2月1日生まれの日本の声楽家（バリトン、バスバリトン）、オペラ歌手、公演監督、指揮者、音楽教育者です。香川県坂出市で生まれ、香川県立坂出高等学校を卒業後、東京藝術大学音楽学部声楽科に進学、1969年に卒業、1971年には同大学院修士課程音楽研究科（オペラ専攻）を修了しました。

初期の活動と留学

大学院修了後、多田羅は日本人による日本語の創作オペラを目指す「こんにゃく座」の結成に参加しますが、より発声技術を磨くため、中山悌一の下で基礎から学び直します。その後、尚美高等音楽院で非常勤講師を務めた後、1973年にイタリアへ留学。2年半後には西ドイツへ拠点を移し、1975年から1977年までハイデルベルク市立劇場、1977年から1981年までゲルゼンキルヒェン市立劇場の専属歌手として活躍しました。

海外での活躍

ヨーロッパでは、ブリテンの『夏の夜の夢』のシーシアス、ワーグナーの『タンホイザー』のビーテロルフ、プッチーニの『ラ・ボエーム』のショナールなど、数々の役を演じました。ミレッラ・フレーニ、ジャネット・ピルー、フランコ・ボニゾッリ、ロランド・パネライといった国際的な歌手たちとの共演を通じて、経験を積みました。

師事した人物

多田羅は、伊藤亘行、中山悌一（日本）、エットレ・カンポガリアーニ（ミレッラ・フレーニ、ルチアーノ・パヴァロッティの師）、R・ベリッツォーニ（イタリア留学時代）、A・ブリューマー、E・グリュンマー（ドイツ時代）など、国内外の著名な指導者に師事しました。

日本での活動

1983年以降は日本を拠点に活動し、青島広志の『黄金の国』、ワーグナーの『ジークフリート』、『ラインの黄金』、『神々の黄昏』、ベルクの『ヴォツェック』、リヒャルト・シュトラウスの『エレクトラ』など、重要な役を数多く演じました。また、『サムソンとデリラ』、『ペレアスとメリザンド』、『フィガロの結婚』、『魔笛』、『蝶々夫人』など、幅広いレパートリーを誇ります。フィンランドのサヴォンリンナ音楽祭にも出演するなど、国際的な活動を続けました。1991年には、NHK・民音主催のヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮『魔笛』で、唯一の日本人男性歌手として出演しました。その後も、ヴェルディの『リゴレット』、モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』、ワーグナーの『さまよえるオランダ人』などでタイトルロールを務め、ワーグナーの『ワルキューレ』のヴォータン、モーツァルトの『フィガロの結婚』の伯爵、ワーグナーの『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のハンス・ザックスなどを演じました。

オペラ以外の活動

多田羅は、コンサート歌手としても、東京フィルハーモニー交響楽団、読売日本交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団など、国内主要オーケストラと共演し、宗教的声楽作品のソリストとしても活躍しました。特に、バッハの『ヨハネ受難曲』、『マタイ受難曲』では第一人者と評され、ヘンデルの『メサイア』、ハイドンの『四季』、『天地創造』、モーツァルトの『レクイエム』、ベートーヴェンの『第九』、ブラームスの『ドイツ・レクイエム』など、多くの作品でソリストを務めました。また、歌曲の分野でもリサイタルを開催し、CDもリリースしています。

公演監督としての活動

2003年からは、海外での経験と語学力を活かし、公演監督としても活動しています。ギュンター・クレーマー、ペーター・コンビチュニーといった海外の著名な演出家と組み、リヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』、モーツァルトの『皇帝ティトの慈悲』、チャイコフスキーの『エフゲニー・オネーギン』など、数々のオペラ公演を成功に導きました。

バロック音楽への取り組み

多田羅は、バッハやヴィヴァルディなどのバロック音楽にも深く取り組み、2001年には『二期会バッハ・バロック研究会（BB研）』を発足させ、指揮者を務めています。BB研では、コンサートを定期的に開催しています。

音楽教育者としての活動

1982年より東京藝術大学で教鞭をとり、准教授、教授を歴任。オペラ科主任、声楽科主任、藝術活動推進委員会委員長、演奏芸術センター長などを務め、2015年に定年退官。多くの門下生を育て、黒川和伸、新見準平、泉良平などがいます。また、二期会でもオペラストゥディオ講師を務めています。

地域文化への貢献

多田羅は、地域文化振興にも力を入れており、館林第九合唱団の音楽監督を務めています。また、地元香川県のコンサートにも出演し、これまでの地域への貢献が評価され、文化庁から表彰を受けています。

現在

2020年現在、東京藝術大学名誉教授として、声楽界の重鎮として活躍を続けています。

受賞歴

安宅賞（東京芸術大学在学中）
1975年：ジーリ国際声楽コンクール第4位
1988年度：第16回ジロー・オペラ賞受賞
2014年度：香川県文化功労者
2019年度：地域文化功労者（文化庁）香川県（芸術文化）

楽界活動

公益財団法人 明治安田クオリティオブライフ文化財団 海外音楽研修生費用助成 音楽分野選考委員
二期会幹事（元幹事長）
飯塚新人音楽コンクール声楽部門審査員
チャイコフスキー・コンクール日本予選声楽部門審査員
東京国際声楽コンクール 元審査委員長
日本音楽コンクール声楽部門審査員
全日本合唱連盟合唱コンクール中部地区大会・全国大会審査
NHK全国学校音楽コンクール関東甲信越地区大会・全国大会（小学校の部、高等学校の部）審査員
館林第九合唱団 音楽監督
公益社団法人日本演奏連盟会員
台湾国立師範大学音楽系 オペラ歌唱とドイツ歌曲マスタークラスの指導

主なディスコグラフィー

多田羅迪夫のCDは、ドイツ歌曲、日本の歌、バッハの受難曲、ベートーヴェンの交響曲第9番など、幅広いジャンルにわたります。特に、鮫島有美子との共演盤は多数リリースされています。

奏楽堂ライブ ドイツ歌曲の夕べ
NHK名曲アルバム エッセンシャルシリーズ
日本のうた - 全曲集
バッハ:ヨハネ受難曲
ベートーヴェン:交響曲第9番
ヴェルディ:レクイエム

多田羅迪夫は、その優れた歌唱力と幅広い音楽性で、日本の声楽界を代表する存在として、今もなお第一線で活躍し続けています。

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