大ザブ川

大ザブ川（Great Zab）

大ザブ川は、トルコとイラクを流れる全長約400kmの河川です。トルコ東部のヴァン湖付近を源流とし、イラク北部のモースル市南方でティグリス川に合流します。流域面積は約40,300平方キロメートルに及び、多くの支流を持ちます。

流路

大ザブ川は、トルコのヴァン湖東方、標高約3,000メートルの地点に源を発します。トルコ国内ではヴァン県とハッキャリ県を流れ、イラク国内ではクルディスタンのドホーク県とアルビール県を通過します。ティグリス川と共に、アルビール県とニーナワー県の境界線の一部を形成しています。

上流部は岩場の多い山岳地帯を流れ、急流となっています。アマディヤとベフメ峡谷の間には、建設が中断されたベフメ・ダムが残っています。この地域はサプナ渓谷と呼ばれ、ベフメ・ダムが完成した場合、その大部分が水没する予定でした。両岸からは多数の渓流や涸れ川（ワジ）が合流します。

大ザブ川の長さは、392キロメートルまたは473キロメートルと推定されています。そのうち約300キロメートルがイラク国内を流れます。平均流量は419立方メートル毎秒ですが、ピーク時には1320立方メートル毎秒を記録します。年間平均流量は13.2立方キロメートルです。古来より「暴れ川」として知られ、中世のアラブの地理学者たちは、大ザブ川を「悪魔が取り付いている」と表現しました。

流域

流域面積は、狭い見積もりで25,810平方キロメートル、広い見積もりで40,300平方キロメートルとされています。流域面積の約62パーセントがイラク領内に位置し、残りがトルコ領内です。流域の南側は小ザブ川の流域に、東側はティグリス川の流域に接しています。ザグロス山脈は、標高3,000メートルを超える石灰岩の褶曲山脈であり、大ザブ川の河谷を含む山あいの渓谷と南西の山麓地帯は、水による浸食の結果である砂利・礫岩・砂岩で満たされています。大ザブ川流域内のアマディヤ渓谷は、イラク領内のザグロス山脈で3番目に大きな渓谷です。

ザグロス山脈の高地を水源とするこの地域は、冬は寒く年間降水量は1,000ミリメートルを超えます。そこから年間降水量が300ミリメートルを下回るザグロス山脈の山麓に下り、ティグリス川と合流します。山麓地帯の夏の平均気温は、一般的にザグロス山脈の上方よりも高くなっています。

ザグロスの高地は、3つの異なる生物地理区によって特徴づけられます。森林限界がある標高1,800メートルよりも上では草と灌木が支配的な植生であり、標高1800メートルから610メートルの間では開けたオークの森が中心であり、河谷の随所に沼沢地があります。この森林地帯の標高が高い位置では、オークの他にセイヨウネズを見ることができ、中間的な高度にはセイヨウトネリコ、サンザシ、カエデ、クルミが生育しています。また、より乾燥した低高度ではピスタチオとオリーブの木が確認できます。現在、山麓地帯の多くは耕作地となっていますが、疎らにPhlomis属の草が支配的な自然植生が残っています。

河川改修

現在までに、大ザブ川にはイラクのベフメ・ダムが部分的に建設されています。また、トルコには、堰を用いた24メガワットの流れ込み式によるBağışlı水力発電所があります。大ザブ川流域のトルコ側とイラク側を合わせて、他に5つのダム計画があります。

イラクはベフメ・ダムとDeralokダムの建設を開始し、他にハージル・ゴミル・ダムとマンダワ・ダムという2つのダムを計画しています。治水と灌漑用水のために大ザブ川のベフメ峡谷にダムを建設しようという計画が初めて提案されたのは1937年ですが、検討の結果、この場所はダム建造に適さないと判断され、計画は放棄されました。1976年、大ザブ川の他の3つの地点が新たに提案され、1989年にベフメ渓谷が選定され、建設が開始されました。ベフメ・ダムの建設は1990年の湾岸戦争の勃発によって中断され、未完成のまま残されました。ベフメ・ダムは230メートルの高さを持ち、合計1,560メガワットの6基タービンを収容した地下水力発電所を持つロックフィルダムとなる計画でしたが、完成していれば多くの村落、Zawi Chemi Shanidarの遺跡、そしてシャニダール洞窟へアクセスする道路が水没していました。

歴史

ザグロス山脈における人類の居住は、後期旧石器時代まで遡ります。シャニダール洞窟からはネアンデルタール人の埋葬跡が発見されており、この地域に古代から人類が居住していたことがわかります。

歴史的な記録としては、前3千年紀から利用可能です。新アッシリア時代には、大ザブ川からアッシリアの首都ニムルド周辺に灌漑用水が供給されていました。750年には、ウマイヤ朝の終焉を告げたザブの戦いが大ザブ川の支流そばで戦われました。13世紀にモンゴル帝国がイラクを征服した際には、大ザブ川の河谷が難民の避難所として機能しました。19世紀から20世紀にかけては、大ザブ川流域で現地のクルド人部族が自治権を目指して頻繁に蜂起しました。

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