安見宗房

安見宗房（やすみ むねふさ）

安見宗房は、戦国時代の武将であり、政長流畠山氏（畠山尾州家）の家臣として活躍しました。河内国飯盛城を拠点とし、その生涯は激動の戦国時代を象徴するかのようです。諱は直政とも言われますが、一次史料で確認できるのは宗房の名です。

生涯

出自と初期の活動

宗房の出自は明確には分かっていません。初期には「ヲチカタ殿」の中間であったとされ、この「ヲチカタ殿」は、大和国の越智氏や河内国錦部郡の彼方氏と推測されています。安見氏自体も、天文年間以前の史料には見られず、戦国時代に山城・河内・大和の国境付近を地盤としたことしか確かなことは分かっていません。

宗房が史料に登場し始めるのは、天文15年（1546年）のことです。この年、大和国人の鷹山弘頼と共に、細川氏綱方の畠山軍として出陣しています。同年10月には、弘頼と共に畠山氏に対し、「城州上三郡四分一職」や「城州上三郡守護代」の職を望んでいます。このことから、当時すでに南山城地域の侍衆は宗房と弘頼を守護代として認識していたことが伺えます。

この地域は、元々木沢長政の勢力下にあり、宗房と弘頼は長政の被官だったと考えられています。天文10年（1541年）から11年（1542年）の木沢長政の乱の際、宗房らは細川晴元の麾下となり、その後、畠山氏の重臣である河内守護代・遊佐長教の内衆となったか、木沢長政から離れた際に遊佐長教の麾下に入ったと考えられます。

畠山家の内紛と三好長慶との戦い

天文20年（1551年）5月5日、遊佐長教が暗殺されるという事件が起こります。河内下郡代として飯盛城に在城していた宗房は、長教を殺害したとの噂があった高屋城の上郡代・萱振賢継と対立しました。長教の婿である三好長慶が仲裁に入り、宗房の息子と賢継の娘を結婚させますが、天文21年（1552年）2月21日、宗房は賢継を飯盛城に招いて殺害し、さらに高屋城に乗り込み賢継に同心した者たちを打ち倒しました。賢継が擁立しようとした長教の弟である根来寺松坊（または杉坊）も、三好長慶によって殺害されました。

宗房は丹下盛知や走井盛秀と共に、遊佐一族である遊佐太藤を長教の後継者とし、同年9月には丹下盛知の主導で畠山高政が畠山氏の家督を継承しています。また、萱振氏と共に粛清された野尻氏は北河内の有力国人であり、その乗っ取りを図った宗房は、自らの子を野尻氏の養子とし、野尻満五郎と名乗らせています。

萱振派粛清の後、宗房は鷹山弘頼とも対立したとみられ、天文22年（1553年）5月には、弘頼は高屋城で自害しています。これらの出来事を通じて、宗房は畠山氏家臣団における地位を上昇させていきました。

また、この年に室町幕府13代将軍・足利義輝と三好長慶が戦った際、宗房は丹下盛知と共に三好方の援軍として参戦しています。

弘治3年（1557年）1月、「河内安見衆・子息満五郎」の謀反が露顕したとされ、宗房と高政の間に不和が生じていました。同年12月には、筒井家内部の争いにより筒井順慶が宗房の居城である飯盛城に逃れてきます。永禄元年（1558年）2月、宗房は順慶を後見し、筒井城への復帰を支援しました。この年、宗房は筒井順政と共に東大寺の堂衆と学侶の仲裁を行い、大和に勢力を拡大させています。

永禄元年（1558年）11月、宗房と高政の間に「雑説」が生じ、高政は紀伊へ出奔しました。この年に起きた将軍・義輝と三好長慶の争いでは、宗房と高政の対立のためか、畠山氏は長慶への援軍を送ることができませんでした。翌永禄2年（1559年）6月、三好長慶が河内に攻め入り、宗房はこれに抗戦しますが、同年8月には飯盛城に追い詰められ、長慶は高政を高屋城に入城させます。松永久秀を大将とする三好勢は、そのまま大和に侵攻して筒井城を降すなどし、同年10月には筒井城から河内に引き返し、飯盛城の宗房と交戦しました。

この後、河内に明るい宗房らを欠いた分国支配が行き詰まったためか、高政は宗房と和睦します。永禄3年（1560年）5月のこととも、同年3月に高屋城近くの富田林寺内町へ宗房から特権が与えられていることから、それ以前のこととも考えられます。

これに対し、三好長慶は河内に兵を進め、同年10月24日には高政が高屋城を、27日には宗房が飯盛城を明け渡して堺に退去しました。翌永禄4年（1563年）7月、宗房は高政や根来衆と共に紀伊から和泉に侵攻し、永禄5年（1562年）3月の久米田の戦いでは三好勢に勝利し、高屋城を奪還します。宗房は、三好長慶が籠城する飯盛城を攻めましたが、同年5月の教興寺の戦いで湯川直光や根来衆ら畠山方が敗れると、宗房は大坂へ、子の孫五郎（満五郎）は鷹山谷へと落ち延びました。

永禄の変以後

永禄8年（1565年）5月19日、三好氏によって将軍・義輝が殺害される永禄の変が起きると、6月24日、宗房は越後国の上杉謙信の重臣である河田長親と直江景綱に畿内情勢を伝え、将軍足利家の再興と三好氏の打倒を求めました。

この頃、畠山氏の家督は高政から弟の秋高に引き継がれ、また宗房は遊佐姓を名乗るようになっています。7月28日には義輝の弟である覚慶（後の義昭）が奈良を脱出し、近江和田城に逃れており、8月6日、宗房は三好氏が足利義維を擁立する前に、足利義昭が家督を継承できるよう、薬師寺弼長に協力を求めています。

三好三人衆と松永久秀が対立すると、畠山氏は久秀と結びました。永禄8年（1565年）12月、遊佐長教の子・信教が松永久秀に対し、安見一族の安見右近を久秀のもとに長々召し置くよう伝えています。永禄9年（1566年）2月、畠山氏と久秀、そして和泉の松浦孫八郎の連合軍は、堺近くの上野芝における戦いで三好義継に敗れました。

永禄11年（1568年）、織田信長に擁立された足利義昭が上洛し将軍に就任すると、畠山氏は高屋城を回復しました。この後、宗房は永禄13年（1570年）1月時点で奉公衆に取り立てられていることが分かりますが、それ以後の消息は不明です。天正5年（1577年）12月25日に宗房の所持していた品が津田宗及らの茶会で披露されていることから、この頃までには亡くなったと考えられています。

また、宗房は永禄年間に狭山池の修理に着手しましたが、完成には至らなかったとされています。

江戸時代には、宗の字を通字とする安見氏がおり、宗房の末裔である可能性があります。

俗説

宗房に関する俗説として、名前を安見美作守直政とし、遊佐長教の死後、河内守護代に任命されたというものがあります。しかし、一次史料で確認できるのは安見美作守宗房であり、直政の名は軍記物にも見当たりません。

一方、『五畿内志』には永禄期の私部城（交野城）主として安見直政の名があり、『姓氏家系大辞典』には畠山高政に属した交野城主として安見図書助直政の名が記されています。「保見氏系図譜」には私部城主として安見直政の名がありますが、これは偽文書「椿井文書」の一つであり、信用することはできません。

宗房の守護代就任についても、信頼性の低い史料でしか確認できません。丹下盛知と署名した禁制では宗房は盛知の次位に署判しており、走井盛秀との連署状でも盛秀の次位に署判しています。また、「天文御日記」に見える本願寺との贈答においても、畠山高政や遊佐太藤、丹下盛知、走井盛秀が本願寺側から年始の祝儀を受けるのに対し、宗房は宗房側からの贈答の返礼としてのみ受け取っており、遊佐氏に次ぐ地位にある丹下氏や遊佐氏の被官ともいえる走井氏に比べ、明らかに下位の扱いを受けています。宗房は後に遊佐姓を名乗り、他の内衆よりも上位の地位となりましたが、永禄9年（1566年）7月に遊佐信教と宗房が松浦孫八郎と交わした誓紙では、信教の宛先が「遊佐河内守殿」であるのに対し、宗房は「遊佐美作守とのへ」と記されており、河内守護代家の信教や和泉守護代家の松浦孫八郎よりも下位の立場でした。

また、永禄12年（1569年）には遊佐信教と共に高政の弟・秋高を当主に擁立し、高政を再度追放したとされることもありますが、この追放劇は『足利季世記』に基づいており、その内容も永禄元年（1558年）の争いの焼き直しであり、事実ではないとされています。

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