弘仁・貞観文化

弘仁・貞観文化とは

弘仁・貞観文化は、平安時代前期、具体的には9世紀頃に栄えた文化を指します。この時代は、弘仁年間と貞観年間を中心とするため、このように呼ばれています。美術史においては「平安時代前期」という呼称が用いられることが多くなっています。

特徴

この文化の大きな特徴は、平安京を中心とした貴族文化が発展したことです。特に、中国の晩唐文化の影響を強く受けており、その要素が各分野に見て取れます。また、天台宗や真言宗といった密教が隆盛し、仏教文化においても密教の影響が色濃く反映されています。さらに、神仏習合の動きが活発になったのもこの時期です。

文学

漢詩文が盛んに作られ、勅撰の漢詩文集が多く編纂されました。

『凌雲集』：勅撰漢詩文集
『文華秀麗集』：勅撰漢詩文集
『経国集』：勅撰漢詩文集
『性霊集』：空海の漢詩を集めたもの
『菅家文草』：菅原道真編纂の漢詩文集

史書としては、菅原道真が編纂した勅撰史書である『類聚国史』が挙げられます。

また、詩論としては、空海による漢詩文の評論書である『文鏡秘府論』が、説話集としては景戒編纂の仏教説話集である『日本霊異記』があります。朝廷の儀式に関する重要文書である『貞観儀式』もこの時代に編纂されました。

建築

寺院建築においては、比叡山延暦寺や高野山金剛峯寺のように、山中に寺院が建立されることが多くなりました。これらの寺院は、飛鳥や平城京の寺院とは異なり、伽藍配置がより自由なものとなっているのが特徴です。また、檜皮葺の屋根もこの時代の建築の特徴として挙げられます。代表的な建築物としては、室生寺金堂や五重塔があります。

彫刻

仏像彫刻においては、前代に流行した金銅仏、乾漆造、塑造などが衰退し、木造が主流となりました。一木造で、着衣が波打つ翻波式という技法が用いられたものが多く見られます。この時代の代表的な仏像彫刻としては、以下のようなものが挙げられ、いずれも国宝に指定されています。

元興寺薬師如来立像
観心寺如意輪観音坐像
室生寺弥勒堂釈迦如来坐像
法華寺十一面観音立像
薬師寺僧形八幡神像
薬師寺神功皇后像
新薬師寺薬師如来坐像
神護寺薬師如来像
室生寺金堂釈迦如来像
教王護国寺講堂不動明王像

絵画

密教絵画が多く制作された時代でもあります。

園城寺不動明王像（黄不動）
東寺両界曼荼羅（通称：真言院曼荼羅または西院曼荼羅）
神護寺両界曼荼羅（通称：高雄曼荼羅）
西大寺十二天像

書道

空海、嵯峨天皇、橘逸勢は三筆と称され、書道の分野でも大きな足跡を残しました。空海の書としては、『風信帖』が有名です。

教育

有力貴族は、子弟の教育のために大学別曹と呼ばれる私的な寄宿施設を設けました。これらの施設は後に大学寮の付属となり、弘文院、勧学院、学館院、奨学院が有名です。

教育においては、中国史や漢文学を学ぶ紀伝道が重視され、法律を学ぶ明法道、儒学を学ぶ明経道、数学を学ぶ算道と共に教えられました。また、一般庶民のための教育機関として、空海が創立した綜芸種智院がありました。

関連人物・項目

嵯峨天皇
清和天皇
最澄
空海
遣唐使
* 文章経国

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