敢國神社

敢國神社について

敢國神社（あえくにじんじゃ）は、三重県伊賀市一之宮に位置する神社で、伊賀国の一宮として知られています。式内社（大社）であり、旧社格は国幣中社、現在は神社本庁の別表神社となっています。この神社は、その長い歴史と文化的な価値から、多くの人々に崇敬されています。

祭神

敢國神社では、以下の三柱の神様が祀られています。

主祭神
大彦命（おおひこのみこと）：第8代孝元天皇の第一皇子で、『日本書紀』によると、四道将軍の一人として北陸道へ派遣されたとされています。
配神
少彦名命（すくなひこなのみこと）：右座にお祀りされています。
金山比咩命（かなやまひめのみこと）：左座にお祀りされています。

祭神の変遷

『延喜式』神名帳には、元々「敢国津神」という一柱の神様が祀られていたと記されています。この神は、阿閇氏（敢氏/阿閉氏）の氏神、または南宮山を神奈備とする信仰から生まれたと考えられています。中世に入ると、この神に金山比咩命や少彦名命をあてる説が現れました。特に少彦名命は開拓神として知られ、平安時代末期には少彦名命説が定着したと見られています。江戸時代には大彦命を祭神とする説も唱えられ、明治以降は大彦命、少彦名命、金山比咩命の三柱を祀る形が定着しました。

歴史

創建

社伝によれば、敢國神社は斉明天皇4年（658年）に創建されたとされています。大彦命の子孫が阿閇氏を称し、祖神として大彦命を祀ったことが始まりとされています。また、少彦名命を祀る秦氏一族も関わっていたとされています。創建当初は南宮山の山頂付近に祀られていましたが、後に現在地に移されたと伝えられています。山頂には金山比咩命が祀られ、その山が「南宮山」と呼ばれるようになったとも言われています。貞元2年（977年）には、金山比咩命が敢國神社に合祀されました。



古代祭祀

南宮山は円錐形の神奈備であり、原始的な自然崇拝に始まったと考えられています。特に、神社南方にある大岩を磐座として、南宮山を遥拝する祭祀が行われていたと推測されています。この大岩は現在は失われていますが、付近には大岩古墳があり、古代の祭祀の存在を示唆しています。



概史

国史には、嘉祥3年（850年）に「津神」が神階を授かったという記述があり、これを敢國神社とする説があります。また、貞観6年（864年）には「安部神」が神階を授かったという記述もあります。その後、「敢国津神」は神階を昇叙し、延長5年（927年）には『延喜式』神名帳に式内大社として記載されました。室町時代には「南宮」という呼称も見られるようになり、伊賀国の一宮としての地位を確立しました。



南北朝時代には、後村上天皇が行幸し、数日間参籠した後、社領を加増しました。中世以降は諏訪信仰が流入し、甲賀三郎譚も広まりました。天正9年（1581年）には織田信長の侵攻により社殿が焼失しましたが、文禄2年（1593年）に再建されました。江戸時代には藤堂高虎が伊賀に入国し、上野城の鬼門として崇敬されました。明治維新後、国幣中社に列し、戦後は神社本庁の別表神社となっています。

神階

敢國神社は、歴史の中で以下のように神階を授けられてきました。

嘉祥3年（850年）6月4日：従五位下（「津神」として）
貞観6年（864年）10月15日：従五位下（「安部神」として）
貞観9年（867年）10月5日：従五位上（「敢国津神」として）
貞観15年（873年）9月27日：正五位下（「敢国津大社神」として）
寛平3年（891年）4月28日：正五位上（「敢国津大社神」として）

境内

敢國神社の境内には、以下の施設があります。

本殿
拝殿
祝詞殿
絵馬殿
社務所・崇敬者会館
桃太郎岩

摂末社

摂社
六所社
九所社
末社
若宮八幡社
子授社
神明社
楠社
結社
大石社
市杵島神社
浅間社

祭事

敢國神社では、以下の祭事が執り行われます。

獅子神楽舞初式（1月3日）
獅子神楽舞上祭（4月17日）
例祭（12月5日）

特に、獅子神楽は慶長年間（1596年-1615年）に起源を持ち、伊賀各地の獅子神楽の原型とされており、三重県指定無形民俗文化財に指定されています。

文化財

敢國神社には、以下の文化財があります。

三重県指定文化財
有形文化財：三十六歌仙扁額 12面（絵画）
無形民俗文化財：敢国神社の獅子舞
伊賀市指定文化財
有形文化財：湯釜 2個（工芸品）、石造灯籠（工芸品）

関係地

御墓山古墳：敢國神社祭神の大彦命の墓とする説があります。古墳の規模は伊賀地方で最大です。

現地情報

所在地：三重県伊賀市一之宮877
交通アクセス
バス：新堂駅南口または上野市駅前から三重交通バスで「敢国神社」バス停下車
車：名阪国道（国道25号バイパス）伊賀一之宮インターチェンジからすぐ

関連文献

『古事類苑』 神宮司庁編、敢國神社項。
『古事類苑 第9冊』(国立国会図書館デジタルコレクション)168-171コマ参照。
安津素彦・梅田義彦編集兼監修者『神道辞典』神社新報社、1968年、1頁
白井永二・土岐昌訓編集『神社辞典』東京堂出版、1979年、3頁

参考文献

神社由緒書「伊賀一宮 敢國神社」
「敢国神社」『日本歴史地名大系 24 三重県の地名』平凡社、1983年。
「敢国神社」『角川日本地名大辞典 24 三重県』角川書店、1983年。
森川桜男 著「敢国神社」、谷川健一編 編『日本の神々 -神社と聖地- 6 伊勢・志摩・伊賀・紀伊』白水社、1986年。
久保田收 著「敢國神社」、式内社研究会編 編『式内社調査報告 第6巻』皇學館大学出版部、1990年。
中世諸国一宮制研究会編 編『中世諸国一宮制の基礎的研究』岩田書院、2000年。

外部リンク

伊賀一宮 敢國神社 - 公式サイト
* 敢国神社 - 國學院大學21世紀COEプログラム「神道・神社史料集成」

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