日本の皇紀二千六百年に寄せる祝典曲

リヒャルト・シュトラウス《大管弦楽のための日本の皇紀二千六百年に寄せる祝典曲》について

《大管弦楽のための日本の皇紀二千六百年に寄せる祝典曲》（Festmusik zur Feier des 2600jährigen Bestehens des Kaiserreichs Japan für großes Orchester）作品84は、リヒャルト・シュトラウスが1940年（昭和15年）に作曲した管弦楽曲です。《皇紀弐千六百年奉祝音楽》（Japanische Festmusik）という略称でも知られています。この曲は、皇紀2600年を記念する祝典曲の一つとして作曲されました。

作曲の背景

1940年、大日本帝国政府は、皇紀2600年を記念する祝典音楽を制作するため、6ヶ国（フランス、イタリア、ハンガリー、イギリス、アメリカ、ドイツ）の作曲家に作曲を依頼しました。

ジャック・イベール: 《祝典序曲》（Ouverture de fête "pour célébrer le 26e centenaire de la fondation de l'empire Nippon"）
イルデブランド・ピツェッティ: 《交響曲イ調》（Sinfonia "in Celebrazione del XXVI Centenario della Fondazione dell'Impero Giapponese"）
シャーンドル・ヴェレシュ: 《交響曲（第1番）》
ベンジャミン・ブリテン: 《鎮魂交響曲》（日本の外務省より侮辱であるとして拒否）

アメリカにも打診がありましたが、日米関係の緊張のため断られています。当時のドイツの宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスは、日本からの依頼を、当時75歳だったリヒャルト・シュトラウスに割り当てました。シュトラウスは、作曲中だった楽劇《ダナエの愛》を中断し、イタリア領南チロルに滞在中にこの曲の作曲に取り掛かりました。1940年4月22日に完成し、報酬として1万ライヒスマルクを受け取りました。

楽器編成

この楽曲は、大規模なオーケストラのために書かれています。具体的には、以下の楽器が使用されています。

フルート3、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット4、バスクラリネット、ファゴット3、コントラファゴット
ホルン8、トランペット4、トロンボーン4、チューバ2
ティンパニ（少なくとも4個）、大太鼓、シンバル、トライアングル、タンバリン、14個のゴング
ハープ2、弦5部（第1ヴァイオリン20、第2ヴァイオリン20、ヴィオラ16、チェロ14、コントラバス12）

また、オルガンも使用されます。オルガンがない場合は、金管楽器（ホルン4、トランペット3、トロンボーン4、チューバ）で代用されます。楽曲の最後には、トランペット3が追加されますが、これはバンダ（別働隊）として編成されます。

楽曲構成

楽曲は以下の5つの部分から構成されているとされますが、スコアには標題の記載がないため、政治的な配慮である可能性も指摘されています。音楽の内容は日本的なものではなく、純粋な器楽曲です。

1. 海の情景（Meerszene）
2. 桜祭り（Kirschblütenfest）
3. 火山の噴火（Vulkanausbruch）
4. サムライの突撃（Angriff der Samurai）
5. 天皇頌歌（Loblied auf den Kaiser）

演奏時間は約14分です。

初演

公開初演は1940年12月14日、東京の歌舞伎座で行われました。ヘルムート・フェルマー指揮、臨時編成の紀元二千六百年奉祝交響楽団によって演奏されました。この際、日本政府が採用した他の3曲も合わせて演奏されています。スコアに指定されたゴングは、日本各地の寺から音程の合う鐘を借りて代用されました。フェルマーと奉祝交響楽団は、1940年12月19日に日本コロムビアにこの曲を録音しています。

ヨーロッパ初演は、1941年10月27日にシュトゥットガルトで、ヘルマン・アルベルトの指揮によって行われました。リヒャルト・シュトラウス自身も、1940年にバイエルン国立歌劇場を指揮してこの曲を録音しています。

出版

自筆の総譜は製本され、献上品として日本に贈られました。シュトラウスは、上演用の総譜として写真複製を2部作成しました。1941年には、ベルリンのアドルフ・フリュストナー社（Oertel）によって出版され、総譜の表紙には赤い背景に菊の御紋がデザインされました。現在、演奏譜はブージー・アンド・ホークス社やショット社からレンタルされています。

評価

この曲は、リヒャルト・シュトラウスの作品の中でも演奏される機会が少ない作品の一つであり、「シュトラウスの最も想像力不足の作品の一つ」と評されることもあります。ノーマン・デル・マーは、この作品をオルガンと管弦楽のための《祝典前奏曲（Festliches Präludium）》と比較し、後者の方がよりクライマックスが効果的であると論じています。

録音

1941年には、演奏会の放送録音がコロムビアからSP盤として発売されました。また、同年にはシュトラウス自身が指揮・録音したレコードがポリドールから発売されました。これらのレコードはCDにも復刻されています。シュトラウスの自作自演の録音では、ゴングの代わりにドイツで開発された電子楽器トラウトニウムが使用されています。

戦後の日本においては、この曲は演奏会で数回演奏されています。

1955年
1958年：NHK交響楽団
1988年：読売日本交響楽団（指揮：モーシェ・アツモン）
1998年：ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団（指揮：クリスティアン・ティーレマン）
1999年～2000年：仙台フィルハーモニー管弦楽団

仙台フィルハーモニー管弦楽団は、海外公演でもこの曲を取り上げています。また、1998年にはウラディーミル・アシュケナージ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団によってデジタル録音が行われ、2007年にSACDとして発売されました。日本での21世紀初の演奏は、2009年に東京フィルハーモニー交響楽団によって行われました。リヒャルト・シュトラウス生誕150周年の2014年には、NHK交響楽団がこの曲を演奏しました。

参考書籍

Boyden, Matthew. Richard Strauss. Boston: Northeastern University Press, 1999.
Del Mar, Norman. Richard Strauss: A Critical Commentary on His Life and Works. London, Barrie and Rockliff, 1969.
Kennedy, Michael. Richard Strauss: Man, Musician, Enigma. Cambridge: University Press, 1999.
室伏博行・吉原潤「皇紀2600年祝典音楽、その初演の周辺と2組のレコード」, 日本リヒャルト・シュトラウス協会 編『Richard Strauss : 日本リヒャルト・シュトラウス協会年誌』第27号, 日本リヒャルト・シュトラウス協会, 2011.
アドルフ・フリュストナー社のスコア

外部リンク

『紀元二千六百年奉祝楽曲』紀元二千六百年奉祝会、1940年 - 国立国会図書館デジタルコレクション
日本の皇紀二千六百年に寄せる祝典曲の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
* 皇紀2600年奉祝楽曲 - ウェイバックマシン（2019年4月26日アーカイブ分）

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