朝野鹿取

朝野鹿取（あさの の かとり）は、平安時代初期に活躍した公卿です。元は忍海原連という氏族でしたが、後に朝野宿禰、さらに朝野朝臣へと改姓しました。彼の生涯は、学問への情熱と、官吏としての卓越した能力によって彩られています。

鹿取は、大和国（現在の奈良県）で生まれました。立身出世を志し、叔父である忍海原道長の養子となり、その庇護のもとで学問に励みました。延暦10年（791年）には、一族とともに朝野宿禰に改姓。その後、父の戸籍に戻る際に、父も朝野宿禰姓を賜っています。若くして大学寮に入り、『史記』や『漢書』といった中国の古典を修得し、漢音にも通じていたため、音生として試験を受けました。相模博士を経て、対策に合格し、文章生に補任されました。

大学寮で培った知識を高く評価され、延暦21年（802年）には遣唐使の准録事として唐へ渡り、翌年に帰国。その後、大宰大典や式部少録、左大史、左近衛将監といった要職を歴任する傍ら、『日本後紀』や『内裏式』の編纂にも携わりました。また、皇太子・神野親王（後の嵯峨天皇）の侍講も務め、その学識の深さを示しました。

嵯峨天皇が即位すると、弘仁元年（810年）に蔵人に任ぜられ、翌年には侍講としての功績が認められ、従五位下に叙爵されました。その後も、左衛士佐、左衛門佐、左近衛少将と武官としても昇進を重ね、弘仁8年（817年）には従五位上、弘仁10年（819年）には正五位下と、順調に位階を上げていきました。

弘仁11年（820年）には病気のため一時辞官しますが、従四位下に昇叙された後、兵部大輔として復職しました。その後、中務大輔や民部大輔を経て、弘仁14年（823年）には蔵人頭に任ぜられました。しかし、嵯峨天皇の譲位に伴い、蔵人頭を辞任し、左中弁に転任。天長4年（827年）には従四位上・大宰大弐に叙任されますが、鹿取は大弐の職を辞することを願い出ます。しかし許されず、大宰府に下向することになりました。

仁明天皇が即位すると、天長10年（833年）には参議に昇進し、公卿の仲間入りを果たしました。議政官として式部大輔、左大弁、民部卿を兼任し、承和7年（840年）には正四位下、承和9年（842年）には従三位に叙せられました。また、この年には一族19人が朝臣姓に改姓しています。

承和10年（843年）6月11日に、鹿取は70歳で亡くなりました。最終的な官位は、参議従三位勲六等兼越中守でした。

鹿取は、生まれつき慎み深く、政務に明るい人物として知られていました。その官吏としての才能は高く評価され、人々からの評判も良かったとされています。また、大歌を得意とし、漢詩の才能も持っており、『文華秀麗集』には6首の漢詩作品が収録されています。

彼の官歴は以下の通りです。

延暦10年（791年）：忍海原連から朝野宿禰に改姓
時期不詳：相模博士
時期不詳：文章生
延暦21年（802年）：遣唐録事
延暦25年（806年）：大宰大典
時期不詳：式部少録
大同4年（809年）：左大史、右近衛将監
弘仁元年（810年）：蔵人
弘仁2年（811年）：従五位下、左衛士佐、左衛門佐
弘仁3年（812年）：近江介
弘仁5年（814年）：左近衛少将、兼下野守
弘仁6年（815年）：右京に貫附
弘仁7年（816年）：主殿頭、少将如元、兼因幡介
弘仁8年（817年）：従五位上
弘仁9年（818年）：内蔵頭
弘仁10年（819年）：正五位下、兵部大輔兼相模介
弘仁11年（820年）：従四位下、兵部大輔
弘仁12年（821年）：中務大輔、民部大輔、中務大輔
弘仁14年（823年）：蔵人頭、左中弁
天長4年（827年）：従四位上、大宰大弐
天長10年（833年）：参議、兼式部大輔
承和元年（834年）：兼左大弁
承和2年（835年）：辞左大弁
承和3年（836年）：民部卿
承和7年（840年）：正四位下
承和9年（842年）：兼越中守、従三位、朝臣姓に改姓
* 承和10年（843年）：薨去

朝野鹿取は、その学識、実務能力、そして人柄によって、平安時代初期の朝廷で重要な役割を果たした人物でした。彼の生涯は、後世に語り継がれるべき歴史の一部です。

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