津守吉祥

津守吉祥（つもり の きさ）

津守吉祥は、生没年不詳の飛鳥時代後期の貴族で、姓は連、冠位は大山下でした。津守氏は、外交関係で活躍した一族として知られており、彼の名前は、特に遣唐使としての活動で歴史に刻まれています。

遣唐使としての旅路

『日本書紀』によると、津守吉祥は斉明天皇5年（659年）に遣唐副使に任命され、遣唐大使の坂合部石布と共に唐を目指しました。彼らの船は江南路を航行しましたが、石布の船は逆風に遭い、南海に漂流、石布自身は現地の民に殺害されるという悲劇に見舞われました。

一方、津守吉祥の船は幸運にも東北の風に乗り、9月16日の夜半に越州の会稽県須岸山（現在の浙江省舟山市須岸島）に無事到着しました。その後、余姚県に上陸し、越州を経て長安に入京、東京（洛陽）の都へ赴き、皇帝高宗に謁見を果たしました。

蝦夷の献上と唐での動向

この時、津守吉祥は蝦夷の男女2名を皇帝に献上しました。この時の問答は、当時の蝦夷の生活について知る上で貴重な記録となっています。また、『難波吉士男人書』によれば、蝦夷の他に白鹿の皮、弓、矢なども献上しています。この蝦夷の献上は、『新唐書』にも記載されていますが、そこでは天智天皇の時代のこととして記述されています。

同年11月1日、津守吉祥は唐朝の冬至の儀式に参列し、その行動を賞賛されました。しかし、その後、火災騒ぎや讒言により流罪となりかけましたが、伊吉博徳の弁明によって罪を免れました。しかし、「日本国使人、姦邪なり」と評され、長安に留め置かれ、幽閉生活を送ることとなりました。

帰国とその後

斉明天皇6年（660年）の百済滅亡後、9月12日に解放され、19日に長安を離れました。10月19日には洛陽で先に遭難した遣唐使一行と再会し、11月1日には捕虜となった百済の王族・貴族らが唐の朝廷に護送されるのを目撃しています。そして、11月24日に洛陽を出発しました。

翌年（661年）、越州から出航したものの、耽羅島に漂着。耽羅国の王子阿波伎らを連れて帰国しました。この時の様子は、『日本書紀』に詳細に記述されています。

晩年と伝承

『書紀』や『伊吉博徳書』には、これ以上の記述はありませんが、『善隣国宝記』に引用された『海外国記』によると、664年（天智天皇3年）、百済の鎮将劉仁願により派遣された郭務悰らが筑紫大宰の言葉を伝えた際、津守吉祥は伊吉博徳、智弁らと共にその役割を果たしたと記されています。

また、津守吉祥が渡唐の直前に記したとされる神社の伝承が、『住吉大社神代記』の原資料になったと伝えられています。

津守吉祥は、困難な旅路を乗り越え、唐との交流に貢献しただけでなく、当時の蝦夷の状況を伝える貴重な情報を後世に残した人物として、歴史に名を刻んでいます。

参考文献

『コンサイス日本人名辞典 改訂新版』（三省堂、1993年）
『日本書紀』（三）・（四）（岩波文庫、1994年、1995年）
宇治谷孟訳『日本書紀』全現代語訳（上）・（下）（講談社学術文庫、1988年）
佐伯有清編『日本古代氏族事典【新装版】』（雄山閣、2015年）
大林太良編『日本の古代3　海をこえての交流』（中公文庫、1995年）
藤堂明保、竹田晃、影山輝國全訳注『倭国伝　中国正史に描かれた日本』（講談社学術文庫、2010年）
倉本一宏『戦争の日本古代史 好太王碑、白村江から刀伊の入寇まで』（講談社現代新書、2017年）

関連項目

遣唐使
蝦夷
白村江の戦い
津守氏
伊吉博徳
韓智興
東漢長阿利麻
* 東漢草足嶋

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