海上保安庁の歴史

海上保安庁の歴史

海上保安庁は、日本の領海および周辺海域の安全と秩序を維持する重要な役割を担っています。その歴史は、戦後の混乱期における不法入国や密貿易の横行を背景に、水上法執行機関の必要性が高まったことから始まりました。

組織の沿革

不法入国船舶監視本部の創設

第二次世界大戦終結後、日本の周辺海域では、水上警察、税関、水産局などの諸機関が法執行にあたっていましたが、実力行使の面では旧海軍に依存していました。しかし、敗戦により海軍が解体され、海上法執行能力は著しく低下しました。その結果、密貿易や不法入国が横行し、海賊行為も発生する「暗黒の海」と称される状況となりました。

このような状況に対し、政府は洋上法執行機関の創設を模索しましたが、GHQの占領政策と日本の軍備再建に対する警戒感から、当初は進展しませんでした。しかし、1946年初夏に朝鮮半島からのコレラ流入が確認されると、不法入国取り締まりの必要性が高まり、同年7月1日に運輸省海運総局に不法入国船舶監視本部が設置されました。しかし、監視本部は武装しておらず、実働部隊も少なかったため、取締りには限界がありました。

海上保安庁の創設

ミールス大佐による勧告

GHQも日本の沿岸・港湾警備に課題があることを認識し、アメリカ[[沿岸警備隊]]のフランク・M・ミールス大佐を招聘しました。ミールス大佐は、アメリカ[[沿岸警備隊]]をモデルとした水上保安組織の設置を提案し、運輸省海運総局がその母体として適当であると結論付けました。ミールス大佐の助言は、GHQ内部の事情を日本側が知る上で非常に重要でした。特に、民政局が日本の軍備再建を警戒していることを示唆し、これを刺激しないよう勧告しました。

1946年5月16日、海運総局は「水上保安制度確立に関する件（案）」を作成しましたが、関係省庁の抵抗が強く調整に時間を要しました。しかし、1947年5月22日、次官会議で運輸省に海上保安機関を設置する案が正式に採択され、政府はGHQに実施許可を申請しました。

GHQ/SCAPにおける議論

GHQ内では、海上保安業務を管轄するG2は日本側の提案を承認しましたが、民政局（GS）は、組織の規模や活動範囲に制限がないことを問題視しました。その結果、1947年9月23日に海上保安機関の設置が許可されたものの、その設置方法については討議が続きました。日本政府は、職員数、船舶数、武装、活動範囲などの制限を受け入れることで、GHQの懸念を払拭しました。また、巡視船の武装は断念され、海上保安庁の軍隊的性格を否定する条項が盛り込まれました。

国際的議論を経ての創設

海上保安庁法案が公表されると、極東委員会や対日理事会において、ソ連をはじめとする各国代表の態度が硬化しました。ニュージーランド代表は、法案が対日非武装政策に違背すると批判し、オーストラリアも同調しました。しかし、アメリカはこれに反対し、最終的には海上保安庁法が公布され、1948年5月1日に海上保安庁が正式に発足しました。

海上警備隊と海上公安局法を巡る変遷

海上警備隊の創設

1950年に朝鮮戦争が勃発すると、日本国内の治安確保が重要になり、海上保安庁の増強が決定しました。職員数、船舶数、トン数の制限が緩和され、海上保安大学校、海上保安学校、海上保安訓練所が設置されました。また、アメリカからタコマ級フリゲートが提供され、1952年4月26日に海上保安庁の附属機関として海上警備隊が設置されました。海上警備隊は、平時には訓練を重ね、緊急時に出動する機動的予備隊のような役割を担いました。

海上公安局の検討

平和条約発効後、警察予備隊、海上警備隊と海上の警備救難業務を統合するため、保安庁の設置が検討されました。当初の計画では、海上保安庁を解体し、海上公安局を新設する予定でしたが、国会で多くの疑問点が指摘されたため、海上公安局法は施行が延期されました。その後、保安庁が防衛庁に改組されたことに伴い、海上公安局法は廃止され、海上保安庁は従来どおり海上保安行政を統一的に行う機関として存続することになりました。

年表

1946年7月1日：不法入国船舶監視本部設置
1948年5月1日：海上保安庁設置
1952年4月26日：海上警備隊設置
1952年7月31日：海上公安局法公布
1954年7月1日：海上公安局法廃止
1972年5月15日：第十一管区（旧琉球海上保安庁）新設
2001年1月6日：国土交通省の外局となる
2002年4月1日：水路部を海洋情報部に改組
2003年4月1日：交通部を新設

活動年表

警備任務等

1949年12月12日：旧海軍特務艦「宗谷」が海保に編入
1950年：特別掃海隊が朝鮮半島へ出動
1952年9月24日：第五海洋丸の遭難発生
1953年8月8日：ラズエズノイ号[[事件]]発生
1954年4月21日：竹島に接近した巡視船が攻撃を受ける
1956年11月8日：巡視船「宗谷」による南極地域観測支援業務を開始
1970年4月14日：北朝鮮工作員とみられる不審船発砲事件
1979年5月17日：尖閣諸島魚釣島に仮設ヘリポートを設置
1989年：パナマ船籍の鉱石運搬船内で船員が暴動
1992年11月7日：プルトニウム輸送船「あかつき丸」の護衛
1996年5月11日：特殊警備隊 (SST) 創設
1999年3月23日：能登半島沖不審船事件
2001年12月22日：九州南西海域工作船事件発生
2004年11月10日：漢級原子力潜水艦領海侵犯事件
2005年5月31日：韓国漁船によるEEZ侵犯事件
2008年1月15日：シーシェパードの妨害活動に対応
2010年9月7日：尖閣諸島中国漁船衝突事件
2012年8月16日：香港活動家尖閣諸島上陸事件
2014年10月末～12月：小笠原諸島周辺海域での中国漁船サンゴ密漁問題
2017年11月：北朝鮮の木造漁船を発見・対応
2021年7月〜9月: 東京2020大会にて全国から巡視船艇が集結し警備を実施。

海難救助等

1954年9月26日：洞爺丸台風による青函連絡船沈没事故
1959年9月26日：伊勢湾台風による海難事故
1965年10月7日：マリアナ海域漁船集団遭難[[事件]]
1966年3月5日：全日空羽田沖墜落事故の捜索活動でヘリが墜落
1970年3月16日：漁船19隻が択捉島単冠湾で遭難
1974年11月9日：LPGタンカー「第十雄洋丸」と貨物船衝突事故
1983年9月1日：大韓航空機撃墜事件発生
1997年1月2日：ロシア籍タンカー「ナホトカ」海難流出油災害発生
2000年12月：飛び石搬送による急患搬送
2004年10月20日：海王丸II世の座礁事故発生
2009年10月28日：伊豆諸島近海で漁船転覆事故
2011年3月11日：東日本大震災発生
2015年9月10日：平成27年台風第18号による大雨災害で救助活動を実施。
2024年1月2日：羽田空港地上衝突事故発生。

まとめ

海上保安庁は、不法入国監視本部の創設から始まり、数々の変遷を経て現在の体制に至っています。その活動は、領海警備、海難救助、海洋調査など多岐にわたり、日本の海洋における安全と秩序を維持するために、重要な役割を果たしています。

参考文献

Auer, James E. 著、妹尾作太男 訳『よみがえる日本海軍〈上〉』時事通信社、1972年。
大久保武雄『海鳴りの日々―かくされた戦後史の断層』海洋問題研究会、1978年。
海上幕僚監部防衛部『航路啓開史』防衛省、1961年。
海上保安庁総務部政務課 編『十年史』平和の海協会、1961年。
亀田晃尚『未完の日本海軍　戦後の吉田路線と海上保安庁』三和書籍、2022年。
菊池雅之『最新 日本の対テロ特殊部隊』三修社、2008年。
小峯隆生; 坂本新一『海上保安庁特殊部隊SST』並木書房、2005年。
柴山太『日本再軍備への道』ミネルヴァ書房、2010年。
読売新聞戦後史班 編『昭和戦後史 - 「再軍備」の軌跡』中央公論新社〈中公文庫プレミアム〉、2015年。

関連項目

海上保安庁の装備品一覧
海上保安庁船艇一覧
警察用船舶（水上警察） / 消防艇 / 漁業取締船（水産庁）
港長
118番
海猿
トッキュー!!
喜びも悲しみも幾歳月
ゴジラ (1954年の映画)
OCEAN

外部リンク

海上保安庁
海上保安レポート（海上保安白書）
海上保安庁法 - e-Gov法令検索
警察官職務執行法 - e-Gov法令検索
財団法人海上保安協会
海上保安友の会
うみまるショップ

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