源常

源 常（みなもと の ときわ）

源常は、平安時代初期に活躍した公卿であり、嵯峨天皇の第三皇子として生まれました。その卓越した才能と穏やかな人柄で、父である嵯峨天皇から特に寵愛を受けました。嵯峨源氏の中でも筆頭格として、異例の速さで昇進を重ね、最終的には太政官の首班である左大臣にまで上り詰めました。

生涯

弘仁5年（814年）、兄たちと共に源朝臣の姓を賜り、臣籍降下しました。淳和天皇の時代、天長5年（828年）には従四位下に直叙され、兵部卿に任じられます。その後も順調に昇進を重ね、天長8年（831年）には従三位に叙せられ、嵯峨源氏の中でいち早く公卿の仲間入りを果たしました。

天長9年（832年）、21歳という若さで参議を経ずに中納言に昇進し、嵯峨源氏の筆頭として朝廷内で重要な地位を占めるようになります。天長10年（833年）には正三位に叙せられ、承和4年（837年）には左近衛大将、承和5年（838年）には大納言に任ぜられ、太政官の第三位という要職に就きました。

承和7年（840年）には右大臣に昇進し、東宮傅も兼務しました。この年、源常は発行された格の多くで上卿を務め、左大臣であった藤原緒嗣を凌ぐ実質的な筆頭公卿として活躍しました。承和9年（842年）には承和の変が起こり、恒貞親王が皇太子を廃されましたが、東宮傅であった源常は難を逃れ、新たに皇太子となった道康親王の東宮傅に任じられました。

承和10年（843年）、左大臣であった藤原緒嗣が亡くなると、32歳で太政官の首班となり、その後10年以上にわたってその地位を維持しました。この間、兄弟である信、定、弘と共に嵯峨源氏として朝廷の一大勢力を築きました。承和11年（844年）には左大臣に昇進し、仁明朝では『日本後紀』の編纂にも携わりました。

嘉祥3年（850年）には正二位に叙せられましたが、仁寿4年（854年）に43歳で亡くなりました。没後、正一位の位階が贈られました。

人物

源常は、落ち着いた性格で物事に動じず、風神のように静かで爽やかであると評されました。父である嵯峨天皇からは他の皇子たちよりも特に愛されたとされています。また、その身のこなしは優雅であり、言論も穏やかであったと伝えられています。

人物を見抜く能力にも長けており、才能ある人材を積極的に推挙し、讒言を弄する者を遠ざけたため、「丞相の器」と評されました。また、漢詩の才能にも恵まれ、その作品は『経国集』に収録されています。歌人としても優れており、『古今和歌集』にもその歌が残されています。

官歴

弘仁5年（814年）：臣籍降下（源朝臣）、左京一条一坊貫付
天長5年（828年）：従四位下（直叙）
天長7年（830年）：従四位上、兵部卿
天長8年（831年）：従三位（越階）
天長9年（832年）：中納言
天長10年（833年）：正三位、山城国綴喜郡の空閑地5町を賜る
承和4年（837年）：左近衛大将
承和5年（838年）：大納言
承和7年（840年）：右大臣、東宮傅（東宮・恒貞親王）
承和8年（841年）：従二位
承和9年（842年）：東宮傅を停任（恒貞親王廃太子）、皇太子傅（皇太子・道康親王）
承和11年（844年）：左大臣
嘉祥3年（850年）：正二位
仁寿4年（854年）：薨去（左大臣正二位）、贈正一位

系譜

父：嵯峨天皇
母：飯高宅刀自（更衣、飯高岳足の娘）
生母不明の子女：源興、源頴、源直、源相、源備
養子：源啓

源常の姻戚関係については詳しい記録が残されていませんが、藤原雄友の孫娘との姻戚関係があったという説話や、生母の飯高氏を通じて藤原三守との関係があったという指摘があります。

参考文献

森田悌『日本後紀 （中）』講談社〈講談社学術文庫〉、2006年
森田悌『日本後紀 （下）』講談社〈講談社学術文庫〉、2007年
森田悌『続日本後紀 （上）』講談社〈講談社学術文庫〉、2010年
森田悌『続日本後紀 （下）』講談社〈講談社学術文庫〉、2010年
『公卿補任 第一篇』吉川弘文館、1982年
大和典子「源朝臣常の左大臣就任について--承和11年の政局を中心に」『政治経済史学』300、1991年

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