犬神家の一族 (1976年の映画)

犬神家の一族 (1976年)

概要

『犬神家の一族』は、1976年10月16日に公開された日本のミステリー映画です。横溝正史の同名小説を原作とし、監督は市川崑、主演は石坂浩二が務めました。角川春樹事務所が製作し、東宝が配給したこの作品は、角川映画の第一弾として、大きな話題を呼びました。映画公開と同時に、関連書籍や音楽などのメディアミックス展開が行われ、社会現象を巻き起こしました。市川崑監督と石坂浩二のコンビによる金田一耕助シリーズの第一作であり、金田一耕助が初めて原作通りの着物姿で登場した作品としても知られています。

ストーリー

物語は、製薬業を営む犬神家を舞台に展開します。犬神佐兵衛の遺言状を巡り、一族の間で連続殺人事件が発生します。主人公の金田一耕助は、事件の真相を解明するために奔走します。原作に忠実でありながら、映画独自の解釈や演出が加えられています。

原作との主な差異

犬神家の家業が製糸業から製薬業に変更されている。
犬神製薬は、ケシから麻薬を精製し、軍部に販売することで発展を遂げたという設定が追加されている。
佐智の死体が屋根の上に置かれるという設定に変更されている。
珠世が佐兵衛の孫である事実が、原作のように公に暴露されるのではなく、金田一たちの内密の話として扱われている。
静馬が斧で殺害される展開に変更されており、原作にあった「ヨキケス」の見立てがなくなっている。
佐清の雪中逃走劇がなくなり、珠世に遺書を渡すために現れたところを逮捕される展開となっている。
宮川香琴は青沼菊乃ではないという設定になっている。
那須ホテルの女中・はるが金田一の助手的な役割で登場する。
松子の母親が登場する。

キャスト

金田一耕助：石坂浩二
野々宮珠世：島田陽子
犬神佐清/青沼静馬：あおい輝彦
犬神松子：高峰三枝子
犬神梅子：草笛光子
犬神竹子：三条美紀
犬神小夜子：川口晶
はる：坂口良子
犬神佐武：地井武男
犬神佐智：川口恒
犬神佐兵衛：三國連太郎
古館恭三弁護士：小沢栄太郎
宮川香琴：岸田今日子
橘警察署長：加藤武
那須ホテルの主人：横溝正史（特別出演）

スタッフ

監督：市川崑
製作：角川春樹、市川喜一
原作：横溝正史
脚本：長田紀生、日高真也、市川崑
音楽：大野雄二

制作の背景

角川春樹は、メディアミックス戦略で成功を収めた後、横溝正史の『八つ墓村』の映画化を企画しましたが、松竹に断られたため、東宝と組み、『犬神家の一族』を映画化することになりました。探偵推理モノが人気を集めていたことや、縦社会を描いた作品が普遍的なテーマであると考えたことが、本作を選んだ理由とされています。

市川崑監督は、ミステリー好きであることや、日本の習俗を美しく描くことに長けていたことから、監督に抜擢されました。また、金田一耕助のキャラクターを、原作のデザインを踏襲しつつも、設定を「神の使いのような無名の風来坊」に変更しました。石坂浩二の起用については、二枚目過ぎない二枚目半な役者という点で、市川監督の強い意向で決定しました。

音楽は、当時、映画音楽を手がけたことのなかったジャズピアニストの大野雄二が担当しました。角川春樹は、大野の音楽が、映画の世界観に合うと考え、多額の制作費を投じて楽曲を制作させました。

撮影

ロケは主に長野県で行われました。犬神家の外観は造り酒屋を、那須の街並みは上田市を、湖の風景は青木湖や木崎湖を使用しました。また、金田一耕助が投宿する「那須ホテル」の場面は、佐久市の井出野屋旅館で撮影されました。この旅館は2023年に営業を終了しました。

トリビア

佐清のマスクは、東宝特殊美術の安丸信行が担当し、監督の市川崑が納得するまで何度も作り直されました。
湖から突き出た足は、美術助手の足を型取りして作られました。
松子役の高峰三枝子は、撮影中にアクシデントで血糊が顔にかかってしまい、それをきっかけに演技が向上しました。
犬神家が拝んでいる絵は、岡熊臣の『塵埃』にある犬神の画です。
犬神家は製薬業の裏で麻薬を製造して財を成したが、出演者である川口晶と川口恒が、麻薬事件で逮捕されるという出来事がありました。
クレジットタイトルは、明朝体の活字見本を間違えて発注したものを、市川監督が気に入ってそのまま使用しました。
冒頭の回想シーンには、監督の市川崑がエキストラとして出演しています。
ラストシーンは、蒸気機関車が映っておらず、プラットフォームのみが映し出されています。

宣伝と興行

角川春樹は、映画の宣伝に多額の費用を投じ、自社の文庫本に映画の広告を印刷した栞を挟み込むなど、メディアミックス戦略を積極的に展開しました。その結果、横溝正史の文庫本は、累計1800万部を売り上げる大ヒットとなりました。テレビのスポットCMを日本[[映画]]の宣伝に使用したのも、本作が初でした。本作は1976年度の邦画で2位となる15億6000万円の配給収入を記録する大ヒットとなりました。

評価と影響

本作は、批評家やファンから高い評価と支持を受け、キネマ旬報ベスト・テンで第5位にランクインしたほか、報知[[映画賞]]や毎日映画コンクールなど、多くの映画賞を受賞しました。また、本作のヒットにより、邦画の一本立て大作路線が本格的にスタートし、他業種の映画参入を促しました。

パロディ

湖から突き出た足や、佐清の白マスク姿など、印象的な場面が多く、後に何度もパロディされています。宮部みゆきは、本作を観て以来、水辺や湖沼に行くと「佐清の足が出てきそうだ」と必ず言うと述べています。

映像ソフト

2021年には、デジタル修復された4K Ultra HD Blu-rayが発売されました。この修復版では、市川監督が意図した色味の再現が試みられ、画面アスペクト比も、当時のスタッフの証言を基に、東宝ワイドの1.5:1画面で編集されました。

テレビ放送

1978年にTBS系列でテレビ初放送され、視聴率40.2%を記録しました。これは、歴代邦画視聴率の第4位となっています。

関連書籍

本作に関する書籍も多数出版されており、映画の研究や背景を知る上で貴重な資料となっています。

外部リンク

犬神家の一族：角川映画
犬神家の一族 - 国立[[映画アーカイブ]]
犬神家の一族 - allcinema
犬神家の一族 - KINENOTE
犬神家の一族 - MOVIE WALKER PRESS
犬神家の一族 - 映画.com
犬神家の一族 - オールムービー
* 犬神家の一族 - IMDb

まとめ

『犬神家の一族』は、日本[[映画]]史に残る傑作であり、メディアミックス戦略の成功例としても知られています。市川崑監督の洗練された演出や、石坂浩二をはじめとする俳優たちの演技、大野雄二の音楽など、多くの魅力が詰まった作品です。原作ファンはもちろん、ミステリー好きや映画ファンにとっても見逃せない作品と言えるでしょう。

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